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2005年03月20日

第162回「10years」

渡辺美里さんのアルバムの中に「10years」という曲があります。僕が中学生の頃に発売された「ribbon」というアルバムの最後のほうの曲だったと思います。

「あの頃は何もかも大きく見えた、あの頃は何にでもなれる気がした...あれから10年も...この先10年も...」

これらの言葉は、なにも知らなかった僕の心にさえ、すっと入ってきました。その「10years」を久しぶりに聴きたくなったのは、「あれから10年」が経ったからです。

「それでは、開会の挨拶をしていただきましょう。僕らを厳しく指導してくれました、松山先生です!」

高校の同窓会で司会を務めることになりました。学年全体の同窓会があるから是非参加して欲しい、と担任だった先生から連絡があったのが昨年末のことで、それなら是非司会をやりたいと申し出たわけです。とはいえ慣れない司会業なので、関西のテレビ局のアナウンサーになった同級生とふたりでやることになりました。みんなの印象が高校時代でとまっているものの、自分が30歳ということはみんなも30歳というわけで、そんな風に考えていると、その日が待ち遠しくてしかたありませんでした。13クラスあった学年だから、全体で500名程度。半分くらいが出席するんじゃないかと見込まれていた中、会場には300人近くの生徒たちが集まりました。顔を合わせては歓声をあげ、昔の朝礼を思い出させるような先生方の話をBGMに、みな各々で懐かしんでいました。

「では続いて乾杯をしたいと思います。音頭は木村先生にお願いしたいと思います」

ただ僕は、こうして進行している間にも、あることが気になっていました。

「それではみなさん、グラスを持ってください」

僕の意識はグラスではなく、グラスの向こうにありました。

「それでは、乾杯の前にひとつだけ話しを...」

僕は、ある人を探していたのです。

「前置きが長くなりましたが...」

どの友人よりも会いたい人がいたのです。

「カンパーイ!!」

会場が拍手に包まれました。

とりあえず進行が一段落すると、みんなが寄ってきました。同じクラスだった人や同じ部活だった人たち。なんとなく顔は知っているけど話したことのない人や、まったくピンとこない人まで、みんなと写真を撮る状況になりました。当然これは嬉しいことでしたが、そんなときでも、あの人を探していました。これまでの出版物を読んだことのある人はご存知でしょう。僕が高校時代付き合っていた人。毎年クリスマスの時期に桜木町の公園でプレゼントを交換していた人。そして、大学に進学してから僕に別れを告げた人。その人を探していたのです。

「ちょっと、外でようか...」

「えっ?」

「外、でようか?」

「え、でも...」

「だいじょうぶ、しばらくなにもないから...」

およそ10年ぶりに再会した僕と彼女は、周囲で盛り上がっているのをよそに、会場を抜け出すことにしました。

「あの頃の匂いだ...」

「ねぇ、ほんと大丈夫?生徒とかいるんじゃない?」

「今日は休みだし、こんな時間だから誰もいないよ。それに、同級生に会うのも懐かしいけど、教室の空気も感じたいでしょ」

校舎に侵入した僕たちは、同じクラスだったときの教室の中にいました。

「ここで、出会ったんだよね...」

「...うん」

「隣の席になったね、たしか...ここらへんで」

「...うん」

「ほら、教科書とか忘れると隣の人と一緒に見るじゃない。だからわざと忘れたりして。そういえば、時計もおそろいのだったよね?パーソンズの」

「......」

「どうしたの?」

僕は彼女が悲しそうにしていることに気付きました。

「ううん、なんでもないの。ただ...」

「ん?」

「...どうして別れちゃったのかなぁって」

教室の中が静寂に包まれました。彼女に好きな人ができたから別れたわけで、僕が何度追いかけても彼女は振り向かなかったわけで。僕は、すぐには言葉が見つかりませんでした。

「...それで、よかったんだよ、きっと。あのときは辛かったけど、いまとなっては本当にいい思い出だから...」

「わたし...いまでも亮くんのこと...」

「もういいんだって!」

「だって、わたし...」

彼女の瞳から涙があふれてきました。

「ちょっと、ふかわ!私とも写真とってよ!」

そんな僕の想像のスクリーンを突き破るように、ひとりの女子がやってきました。

「いいけど、もう酔っ払ってるの?」

「いいじゃないのぉ!あ、そういえば、あの人来てないね」

「あの人って?」

「彼女よ、彼女!」

「やっぱり来てないんだ」

「なんかいま妊娠中らしいよ。それで来れないんだって、残念ね!」

「えっ?なんて?!」

昔の恋人は、一年前に結婚し、妊娠8ヶ月とのことでした。僕と別れた頃、あれから10年がたったのです。

「まぁ、幸せならよかったよ、幸せなら...」

そうつぶやきながら、それほど仲良くもなかった女子と写真を撮りました。

「ふかわ、2次会来るんだろうな!」

「2次会?あぁ行くよ...」

久しぶりに聴く「10years」は、中学生のときよりもずっと、心にしみました。

1.週刊ふかわ |2005年03月20日 11:00

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