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2021年03月09日

第868回「うたたねクラシックin福岡・宮崎③」

 

 休憩が終わり、演奏家たちが楽器を持って現れると、客席から巻き起こる拍手。そうして後半が始まろうとしていたその時、ステージからナビゲーターを呼ぶ声がします。

「なんですか?どうしました?」

「ちょっと会場に蝿が舞い込んでるみたいなんだけど」

「蝿?」

 確かに羽音が聞こえます。換気で窓を開けた際に入り込んでしまったのでしょうか。外の気温は20度を超えているようです。音楽を聴きにきたのか、まさかの珍客に中断せざるを得ない状況。

「ちょっと追っ払ってくれる?」

 プログラムを円滑に進めるのがナビゲーターの仕事。嫌ですとは言えません。

「みなさんのところに飛んできたら、遠慮なく叩き潰してくださいね」

 蝿が場内をブンブンと飛び回る中、演奏がスタートしました。この曲は、「熊蜂の飛行」のようですが、ちょっと雰囲気が異なります。ナビゲーターの私は、ステージ上をいったりきたり、枕を投げたり、スリッパで叩こうとしたり。疲れたのか、おちょくっているのか、蝿も時々休んだり。もうダメかと半ば諦め気味に両手でパチンとやると、羽音が止みました。命中したのでしょうか。恐る恐る手を広げると、そこには無惨な悲しい蝿の姿。思わぬ形で生涯を遂げた蝿が成仏できるように、皆起立して手を合わせ、頭を下げました。

「チーン」

 そんな「熊蜂の飛行〜または自分を熊蜂だと思い込んでいる、悲しき蝿の悲しき運命〜」という曲で後半戦はスタートしました。今回参加している加藤昌則さんの編曲。原曲はリムスキー・コルサコフの「熊蜂の飛行」弦のみなさんが大活躍する曲ですが、その弦で見事に「蝿」の羽音を表現してくれました。

 プロの演奏家の皆さんは、音に対してストイックですが、こういった演出に対しても非常に熱心です。リハーサルで「最後はみんなで立って手を合わせたほうがいい」「なら私がチーンって鳴らすわ」など、まるでコントの稽古のように入念なリハーサル。その甲斐あって、お客さんも喜んでくれました。

 無事に蝿を退治し、私の両手がジンジンするなか退場すると、演奏家たちの表情も一変。シューマンの「ピアノ四重奏曲 変ホ長調」が始まると、場内の緩んだ空気が一瞬にして引き締まります。言葉を使わずに、音で空気を一変させる、まさにプロのなせる技。今回の「うたたね」は、お客さんに「うたたね」させる隙がありません。非常に対照的な2曲を終え、クライスラーの「美しいロスマリン」を、バイオリンとピアノで披露。「ロスマリン」は「ローズマリー」のこと。クライスラーの曲の中で最も有名な作品の一つ。タイトルこそ知らなくても、誰もが聴いたことある曲だと思います。

 これに続いてお送りするのは、槇原敬之さん作曲の「ビオラは歌う」。これをビオラとピアノで演奏することになっているのですが。

「須田さんが見当たらないんですけど」

 また事件が起きました。「ビオラは歌う」なのにビオラの須田さんがいない。

どうしましょう。

「まぁ、なんとかなるでしょ。いなくても」

ピアノ伴奏をする加藤昌則さんはこんな状況でもびくともしません。ビオラを軽視しているのか、不在でも問題ないとのこと。

「じゃぁそこまで言うなら、、、」

 そうして、ビオラ不在の状態で「ビオラは歌う」が始まりました。果たして完奏できるのでしょうか。

2021年03月09日 08:03

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