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2020年03月13日

第827回「それぞれのONE TEAM」

 

 河津桜は散り、ソメイヨシノの蕾も膨らんできました。季節は確実に春になろうとしています。河川敷で自転車に乗っていると、キャッチボールやサッカーをする少年たちと、おじいちゃんおばあちゃんが孫を連れて歩く姿に、平日でも日曜日のようなのどかな光景が広がっています。

 政府の自粛要請期間も延長となり、遂にWHOから「パンデミック」という言葉が飛び出しました。ライブや舞台は軒並み中止。テーマパークは閉園、飲食店などの商業施設も客足が減少しています。経済的混乱。それは、感染とともに世界規模で広がっています。延期や中止が現実味を帯びてきた東京オリンピック。そして甲子園じゃない場所で高校球児の涙を観たのは初めてかもしれません。今、日本中が足並みをそろえて感染が広がらないように努めています。

 それに伴って、9年前のあの時に似た雰囲気がこの国を覆っています。ただ、今回猛威を振るっているのは「不謹慎」ではなく「無責任」という言葉。閉鎖された空間でのライブ公演は、感染を広げるのではないか。もしそれでクラスターが起きたら責任は取れるのか。エンターテイメントの是非。いたるところで振りかざされる正義。そうして生まれた自粛ムード。しかし今回の「自粛」は、何もしないことではなく、見えない敵と闘っている。その点も、震災の時のそれとは違います。

 数ヶ月前に皆が口にしていた「ONE TEAM」という言葉。あの頃は、日本が一丸となってラグビーボールを追いかけていました。そしてまた日本が「ONE TEAM」になっています。今回の敵は、目には見えないもの。新型コロナウイルス。闘いの相手が決まると、敵に有利になるような行為をする者に対して「どうしてチームの輪を乱すのだ!」と、チームメイトは憤る。非常に大きな「ONE TEAM」が出来上がっています。 

 ライブや舞台の人たちも「ONE TEAM」。本番に向けて一丸となって積み上げてきました。東京オリンピックも。しかし、それが大きな「ONE TEAM」の価値観にそぐわないものになってしまいました。イベントの規模が大きければ大きいほど槍玉に上げられ、強行するとすっかり悪者の印象になってしまいます。小さなそれは、大きな「ONE TEAM」には敵わない。

 もうひとつ、大きなONE TEAMがあります。それは「経済」という種目。敵は恐慌。自粛によって感染拡大を抑制できるかもしれないけれど、これによって経済活動ができなくなる人がいるのも事実。豊かになりたいのではなく、生活ができなくなってしまいます。死活問題。どちらのチームを優先するべきか。ウイルスは直接的に人命に影響を与えるのに対し、経済は直接的ではありません。まずは人命を優先させることが社会の優先順位。大きな地震が起きたら、テレビもそれをまず先に伝えるように。

 最も大きいチームの価値観が社会で優先される。だから、コロナウイルスが終息すれば、今度は経済の「ONE TEAM」が最も大きなチームとなり、エンターテイメントや他の小さな「ONE TEAM」を牽引するでしょう。

 大きな「ONE TEAM」ができると同時に、それに従わないと何もできなくなってしまう風潮も怖いです。コロナウイルスも怖いですが、風潮や同調圧力、社会の空気というものは、ウイルス並みに手強いものかもしれません。そうなると、過度な自粛を求める「風潮」に屈しないための大きな「ONE TEAM」ができる可能性もあります。

 全てのONE TEAMが同時に勝利することはできません。先の見えない状況ではありますが、一日でも早く終息し、それぞれの「ONE TEAM」が順番に勝利する日が訪れることを願います。

 

2020年03月13日 16:57

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