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2019年09月08日

第804回「ジョアン・ジルベルトを探して」

 

「きっと眠くなるだろう…」

 なにせご本人のコンサートですら眠たくなった(退屈だからではなく、あまりに心地よすぎてですが)くらいなので、睡魔との闘いになる。だから過度な期待はせず、コーヒーを片手にブラジルの雰囲気を味わえれば。それくらいの気持ちでシートに腰を下ろしていました。

 しかし、予想は裏切られました。いざフィルムが回り始めると、会話こそ多いものの、ブラジルの街並みや空気が詰まっていて、眠くなるどころかスクリーンに釘付け。グイグイと引き込まれていきました。

 もちろん、万人にオススメしようとは思いません。幼少期に「イパネマの娘」に出会い、十代の頃から愛聴。貪るようにCDを買い漁り、学生時代はボサノバ・ユニットを結成。もう何十年もの間、日常を、人生をボサノバに彩られている男。ボサノバが血液のように体を流れている僕にとって、映し出される全てがキラキラとしていましたが、ライトなボサノバ・リスナーや一般の方からしたら、見知らぬおっちゃんやご婦人に延々喋られても引き込まれないでしょう。ましてや「ジョアン・ジルベルトって誰?」という人にとっては、退屈極まりない時間。でも、そのような方々のために、誤解を恐れず、この映画の内容をあえて例えてみましょう。

 日本の大御所の歌手が、ある日姿を消しました。あんなに強固だった交友関係も希薄になり、もう何年も音沙汰がない。彼は一体今何をしているのか。そんな中、演歌に魅了された外国人がその歌手を探しに日本にやってくるのですが、本を出版したのちに他界。その志を継いだ別の外国人が、その一冊を携えて日本にやってきて、森進一さんや五木ひろしさん、石川さゆりさんなど、日本の演歌界を代表する錚々たるメンバーに会って話を伺う。聖地・函館まではるばるやってくる。「祭り」を歌で表現した一人の男を探すドキュメント・ロード・ムービー。題して、「北島三郎を探して」。

 ジョアン・ジルベルトは、サンバをギター一本で表現したと言われますが、その偉大さを言葉で表現するのはとても困難。セールスがどうのだとか、グラミーがどうのということではないのです。もちろん、たくさん売れていますが、そういう尺度で表現して欲しくない。彼は、世界中の人々に心地よい風を浴びせてくれたのですから。

「いい映画だった…」

 睡魔は現れませんでした。「小舟」は出てきましたが、船をこぐこともなく、エンドロールまでたどり着きました。また、公開前に他界されたことで、スクリーンの引力は増したかもしれません。 

 存在しないことで、その存在の偉大さを描く、本当に素晴らしい作品。壁の落書き、海岸、山に隣接する高層ビル群が、まだ頭の中に残っています。いざブラジルを訪れても、あまりボサノバは流れていないと耳にしますが、作品を見ると、そうでもなさそうな気がします。あらためてブラジルに行きたくなりました。ジョアン・ジルベルトを探しに。

2019年09月08日 17:48

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