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2018年07月20日
第755回「森のハヤシライス」
「そう言えば、来たことあったっけ?」
周囲こそ通るけれど、中に入ったことはあっただろうか。高校生の時にデートで歩いたような気もするけど、それは別の公園だっただろうか。少なくともここ十数年の間はなさそう。それに、こんな地下空間があるとは。
年季の入った色合い。地下2階まである大きな駐車場はまるで都心の要塞。車を出ると、埃の匂いと外の熱気がうっすらと伝わって来ます。エレベーターはなく、薄暗い階段をゆっくり上がると、もわっとした空気と蝉の声が待っていました。
日比谷公園。前述の通り、都心にありながら、案外立ち寄る機会もなく、園内を歩いた明確な記憶もありません。目の前で噴水は高く吹き上げているものの、周囲は工事中。この炎天下では、ベンチでのんびりしている人も見当たりません。それでも緑が多い分、時折心地よい風が通り抜ける、午後の日比谷公園。用事を済ませ、園外から戻ってくると、やはり体感温度は下がります。駐車場の入り口まで木陰を歩いていると、木々の間から白い建物が見えました。
「松本楼…」
聞いたことあるような響き。説得力のある書体。きっと、この公園の中にあるくらいだから有名なのだろう。お昼もまだだったし、期待を込めて踏み入れる森のレストランは100年以上も続く老舗の洋食屋さん。ランチのピーク時を過ぎていたので待たずに座ったテラスに面した奥の席は、窓越しに緑が眺められます。
「ハヤシライスか…」
メニューを広げると、美味しそうなカレーに並んで、ハヤシライスが目に留まりました。不思議なもので、カレーが食べたい!とはなっても、ハヤシライス食べたい!とはあまりなりません。しかし、いざ目の前に突きつけられるとそれはものすごい引力を発揮します。ましてや、老舗の洋食屋さんとなると、自ずとハヤシライスへと誘われるほどの親和性がありました。もう戻ることはできません。そうして僕のテーブルに、ハヤシライスが到着しました。
銀色の器にハヤシライスのルー。まあるく平たい黒のお皿にふっくらしたライス、そこに福神漬けが添えられています。松本楼のハヤシライス。なんでしょう、この文字面の良さ。響き。そして窓越しの緑。森のハヤシライスが、心身ともに満たしてくれました。
デザートはオレンジ・ムースのプリンとコーヒー。この空間にいると、全て美味しく感じてしまう、松本楼マジックがありました。
「また、来よう」
店を出ると、もわっとした熱気。2018年の夏。噴水越しにそびえる高層ビルが、空に映えていました。
2018年07月20日 08:38
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