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2007年04月22日

第265回「写真展のお知らせ」

 木村伊兵衛賞というのをご存知でしょうか。ものすごく簡単に言ってしまうと、写真界の芥川賞です。つまり写真界のすごい賞ということになります。これまでの歴史をみると錚々たるメンバーが名を連ねているのですが、今年受賞された本城直季さん、そして梅佳代さんの作品展が開催されているのです。日時は4月20日から27日まで、場所は新宿のコニカミノルタプラザ、ギャラリーCというところで、10時半から19時までやっています。入場無料です。写真に興味のない人でも充分楽しめると思うので、会社帰りなどにでも見に行ったらいいかと思います。

 で、なぜ僕がこんなことを宣伝しているのか、と疑問に思うでしょう。しかもこの大事なリリース前に、ほかの人の宣伝をしている場合なのか、ということです。しかし、関係ないわけではないのです。この作品展と僕は、大いに関係があるのです。

「表紙なんですが、本城さんにお願いできました」

「そうですか、よかったです!」

 編集部の人の声に、僕はほっと肩をなでおろしました。

 原稿のチェックをし始める頃になると、同時に、表紙はどうする、みたいな話になってきます。そんな中、編集部の人と相談し、表紙を本城直季さんにお願いすることになったのです。彼の写真は、実際の写真をみるとわかりやすいのですが、現実が非現実に見えてしまう、街がミニチュアに見える、というとても斬新なものなのです。正直なところ、僕もそれまで木村伊兵衛賞というのを知らなかったのですが、その写真集をみて、「あ、これはすごいよ!賞をとるはずだよ!」と、その受賞に納得したほどです。そして幸いにも、本城さんは快く了承してくれまして、小説の表紙をあらたに撮っていただくことになったのです。その撮影の日のことでした。奇跡はここからはじまります。

「え、今回のゲストは、写真家の...」

 本城さんとの撮影のあと、隔週でやっている短歌のラジオがありました。そこには毎回、バラエティーでは絶対会わないような文化人の方がゲストとしてきます。僕が打ち合わせの部屋にはいると、スタッフに混じって、スカートの下に黒いスパッツをはいた、いわゆる普通の女の子が座っていました。ただ、唯一普通の女の子と違うところは、彼女の首から大きなカメラをぶらさげている、ということでした。

「どうも、はじめまして...」

「あ、どうも、はじめまして...」

 僕は席に着くと、前にあったプロフィールが目に留まりました。

「木村伊兵衛賞...」

 彼女の名前の下に、その言葉が書かれていました。

「どこかできいたことがある...」

 その言葉を眺めていると、スタッフの女性が話しはじめました。

「えー、梅佳代さんは今年、木村伊兵衛賞という、言うなれば写真界の芥川賞を受賞されまして...」

「やっぱり!そうだ!この賞だ!」

「...通常は1名なのですが、今回は異例の2名ということで...」

 僕はその日、偶然にも木村伊兵衛賞を受賞された2名のうちの2名、つまり今年の受賞者2名と対面することになったのです。こうなると、人間は単純なものです。

「これは、運命かもしれない!」

 そこにあった彼女の写真集を開くと、その面白さもさることながら、僕のエッセイ集にマッチするではないかと、勝手に思ってしまったのです。

「梅さん、初対面でなんなんですけど...」

 数日後、彼女の大量の写真の中から、「無駄な哲学」の表紙用の写真を選ぶことになりました。彼女は、なにかをとるぞ!という感覚で撮影せず、日常生活の中で気になった光景を撮っていくので、あらたにではなく、これまでの写真の中から選ぶことにしたのです。

「ほんとはもっとあるんですけど...」

 そう言って持ってきてくれたファイルの中には、これまでに撮った大量の写真が入っていました。しかし、大量ではあるものの、選ぶのには時間がかかりませんでした。

「あ、これでいきます!」

 パラパラめくると、すぐに僕は、ある写真に反応しました。

「あ、いいですね!」

 編集部のスタッフも賛同しました。そのあとに、ほかの写真もすべて見ましたが、最初に出会ったその写真が一番しっくりしきていました。

「やっぱり、この写真でいきます!」

 そこには、茂みの中でおすわりをしている、白い犬が映っていました。僕は、その犬の写真を表紙にする意向を伝えました。

「ちなみにこの犬って...」

「あ、うちの実家で飼ってる犬なんです。りょうっていうんです」

 その言葉に、僕は一瞬にして体全身に鳥肌がたちました。僕が真っ先に反応した犬は、まさしく僕と同じ、「りょう」という犬だったのです。犬に、「りょう」という名前をつけるあたり梅さんらしいのですが、ほんとに人間のような、味のある表情をしているのです。

「俺は、奇跡を呼ぶ男かもしれない...」

 いろんな偶然が重なって、それはもう奇跡でした。

 そんなことで、お二人の写真展と僕は、切っても切れない関係なのです。おそらく、僕の二冊の本を見る人が見たら、「おぉ、この二人がどうしてふかわの本に!」と思うでしょう。でももし、そんなことを言っている人がいたら、こう言ってあげてください。「それは、奇跡を呼ぶ男だからだよ」と。

 ということで、それぞれの表紙が店頭に並ぶのを楽しみにしていてください。本屋さん、ちゃんと並べてくれるといいんだけど。

PS:5月13日のサイン会のお知らせは、次週にしました。

1.週刊ふかわ |2007年04月22日 10:00

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