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2021年02月08日

第864回「サワコの夜」

 

14時からの対談で来たのですが」

 インターホン越しにそう伝えると、ゲートがガラガラと開きます。車はスロープを上がり、建物の前の駐車枠に案内されました。

「すみません、早く着いちゃって」

 絶対に遅刻はできないという気持ちによって、予定より15分ほど早く到着。窓の向こうに菊池寛の胸像が見えます。担当者が現れると、もう到着されているとのこと。エレベーターを上がれば、そこには少女のように目を輝かせた女性がいらっしゃいました。

「お会いできて光栄です」

 週刊文春の人気連載、阿川佐和子の「この人に会いたい」。このように対面するのは初めてですが、小柄ではあるものの、キラキラとした光を放っているようでした。

「私の親戚が、阿川さんの学友だったようで」

 この手の話は、温度差があってリスクがあるのですが、距離か近づけばと切り出してみると、あぁ、ずんこのことねと、しっかり記憶していました。すると阿川さんも、

「仲良くなりたいから、連絡先書いておこうかしら」

 と、名刺を渡してくださいました。僕はアイスコーヒーを、阿川さんはアイスティーを注文。お会いしてすぐに緊張がほぐれた状態で、対談はスタートしました。

「もう、面白すぎましたよ!」

 エッセイの感想を笑顔で伝えられ、安堵のため息が漏れる午後。もしかすると、阿川さんのような方は、「いいのいいの、細かいこと気にしないで」とおっしゃる可能性があったので、気難しい人だと敬遠されたらどうしようと不安な部分もあったから。しかも、かなり気に入って頂いたようで、内容について細かく確認したり、本では触れられていない部分を探ったり、また、たくさんお褒めの言葉をくださいました。

「実は、このタイトルにしたことに責任を感じていまして」

 病名がわかって安心する人もいれば、より不安になる人もいる。このタイトルと目があった人に気づかせてしまったことに申し訳ない気持ちがあることを吐露するや、

「大丈夫、みんなふかわさんほどじゃないって安心するから」

と、阿川さんの一言で、部屋の中が大きな笑い声に包まれました。

「シャルル・トレネが出てくるでしょ?あの曲をシンガーズ・アンリミテッドがカヴァーしててね」

 「ラ・メール」の作曲者であり歌手のシャルル・トレネの話から派生して、シンガーズ・アンリミテッドの話まで出ました。この話を誰かとしたのは初めてです。

「その曲を私が歌ったら、かまやつひろしさんが、いい曲だね、今度僕も歌おうかなって」

 阿川さんから出てくる言葉ひとつひとつがとても貴重なものでした。また、書くことに関しては、

「セロリで10枚かけたら文章力があるってことだから」

と、特に思い入れのない対象をテーマにしても、原稿用紙10枚かけたらそれは書く人の力ということ。私も、そうありたいと思いました。

「ふかわさんとラジオで、音楽番組ラジオやりたいわ」

対談が終わる頃、何度もそうおっしゃってくださいました。ほとんどアイスコーヒに口をつけずに交わした言葉の数々。お互いに好きな曲を流しておしゃべりする、「サワコの夜」ができたら最高ですね。

2021年02月08日 14:47

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