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2020年06月15日
第750回「きらきら星はどこで輝く 第14話
モニター画面に映った客席が徐々に埋まり始めています。あんなに先だと思っていたのに、今まさに目前に迫っています。徐々に上がる心拍数。
「最初に、真理ちゃんのチェロ独奏からはじまって…」
そう提案したことが、現実になろうとしていました。
「では、よろしくお願いします!」
そうして、開演の12時になる頃には、1階から3階までたくさんのお客さんでいっぱいになっていました。扉が開き、遠藤さんがチェロを持ってステージに飛び込むと、会場から大きな拍手の波が起こります。
「やっぱり、無伴奏がいいよね」
バッハの無伴奏チェロ組曲。勇ましくも、優しい音色が、聴衆を引きつける様子は、まるで魔術師のよう。こうして、うたたねクラシックの幕があがりました。
「ありがとうございました〜」
遠藤さんへの拍手の中に現れた、水玉男。
「改めまして、うたたねクラシックへようこそお越しくださいました。ナビゲーターのふかわりょうです。よろしくお願いします。」
笑いの混ざった拍手の音が、僕を安心させます。
「この会場が、大きな揺りかごになるといいなと思っています」
それからというもの、三舩さんのピアノによるドビュッシーの夢をはじめ、エルガーの愛の挨拶や、yumiさんのシチリアーノ。林美智子さんのジュ・トゥ・ヴなど、クラシックではおなじみの曲が聴衆を魅了していきました。スクリャービンの曲を終えたところで、ナビゲーターが言いました。
「では、ここで朗読をしたいと思います。」
今回のうたたねクラシックの試みのひとつとして、詩の朗読がありました。進行だけでは申し訳ないというのもありましたが、言葉と音の共演をしてみたい。きらクラ!でもおなじみのBGM選手権のような時間。ただ、番組のように同時ではなく、朗読をしてから演奏を聴いてもらいます。
「風のない場所」
バスでうたた寝している間に迷い込んだ場所はどこなのか。どこかで見たような人々。どこに向かうかわからないバスの中でのひととき。その後、遠藤さんのチェロで奏でられるスコットランド民謡の「サリー・ガーデン」。チェロの音色が、なぜかバグパイプのように聴こえてきました。
「すっかりうたたね気分になったところで、残すところあと2曲となりました。」
花のワルツをピアノ、チェロ、フルートの3人で。そして最後は、星に願いを全員で。どちらもうたたねバージョンでアレンジされたもの。限られた楽器で表現する音は、オリジナルとは違った輝きがありました。
「本当にありがとうございました!!」
スタートしておよそ90分。出演者が舞台袖に吸い込まれると、客席からの拍手に、おさまる気配がありません。
「さぁ、遂に来た…」
プログラムには表記されていませんが、本編終了後、アンコールでフーマンが登場することになっていました。もちろん曲は決まっていますが、予定と違うことが起こります。
「アンコールの時にスーツになろうと思って」
最初はパジャマで登場したものの、アンコールの時は着替えて演奏するつもりでした。流石にこのパジャマでグランドピアノに向かうのは罰当たりだと。しかし、拍手の音を聞いて、鉄は熱いうちに、拍手は暖かいうちに、という思いが湧き上がり、パジャマのまま飛び込んでいました。
再度登場したパジャマ男を、大きな拍手の波が襲います。ピアノの前で頭を下げると、激しい雨のような拍手を浴びました。楽譜を置き、椅子に座って深呼吸。観客の皆さんも、半信半疑の中、固唾を飲んで見守っているようです。そして、僕の両手が膝から離れていきました。
2020年06月15日 07:58
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