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2019年11月28日
第814回「選ぶこと」
「Somebody stole my gal」は、タイトルではピンと来なくても、音を聴いたら誰もが「これかぁ!」となる曲のひとつ。しかも、聴いた日本人のほとんどが新喜劇を思い浮かべるでしょう。視聴習慣のない横浜出身の私でも、パブロフの犬のように反応してしまいます。先日の「今夜もプチョヘンザ」 のコーナーで紹介しましたが、これは新喜劇のために作られたものではなく、1950年代に発表されたジャズ・ナンバー。もともとイタリアの作曲家レオ・ウッドの曲をpee wee huntと言うトロンボーン奏者がアレンジしたバージョンが、新喜劇のテーマソングとして使用されてきたのです。この音が流れるだけで気分が高揚し、観客の掴みはOK。まるで魔法をかけるように、たちまち笑いやすい雰囲気に包まれます。
どういう経緯で決まったのか、誰がセレクトしたのかわかりませんが、DJ歴20年の私から申しますと、もう「神選曲」としか言いようがありません。
我が国においてこの曲と新喜劇は切っても切れない関係にありますが、海外の人が聴いたら、コミカルなジャズ・ナンバーという印象になるでしょう。「コミカル」さは、トランペットのミュートという奏法によるもので、「滑稽さ」や「ユニーク」さを感じることは不自然ではありません。新喜劇で使用される以前に聞いても、ユーモラスさは感じるでしょう。Pee wee huntの他にも演奏している者はいますが、彼のバージョンが「コミカル」さで群を抜いています。
新喜劇の放送が始まった50年以上前に誰かが選んだのでしょう。たまたまラジオで流れていたのか、レコードを所有していたのか。吉本のお偉いさんか、テレビ局の人か。何れにしても、この曲を見つけたこと、そして、この曲を新喜劇のテーマに持ってきたことは、曲を作ることや、演奏することに匹敵するくらいの偉業と言えます。
自分で言うのもなんですが、小心者克服講座の「Mr.Blindman」も、日本で流れたらほとんどの人が、白いヘアターバンにエアロビの姿を思い出すでしょう。ただ、謙遜する訳ではないですが、私の場合は、エアロビのネタをやる際に曲を選んだのではなく、あの曲を耳にした瞬間、エアロビのネタが浮かんだ訳ですから、厳密に言うと「選曲」ではありません。新喜劇で言うなら、「Somebody stole my gal」を耳にしてから「よし!新喜劇をやろう!」と思いつくようなもの。どちらがすごいと言うことではないですが、「発掘」することが不可欠です。
「笑点」や「火曜サスペンス」のように、オープニング曲はとても重要な役割を担います。世界に入り込むための音。どちらも番組のコンセプトに合った曲ということで依頼を受けて作ったのでしょう。「5時に夢中!」のオープニング「I want you back」も、中には番組オリジナルだと思っている方もいらっしゃいますが、「発掘」ではないものの、素晴らしい選曲だと思います。
新喜劇のオープニングとして使用することによって、曲の素晴らしさが存分に発揮されました。もし使用されなかったら、少なくとも日本では、多くの人の耳に届くことはなかったでしょう。それは、「発掘」のようであり、天体から星を見つけるようなこと。然るべき場所にふさわしいものを選ぶ。服のデザイナーも素晴らしいですが、あまたあるアイテムの中から絶妙に組み合わせるスタイリストも素晴らしい。情報過多な現代社会においては、特に求められているもの。選ぶことは、クリエイティブと言ってもいいかもしれません。
2019年11月28日 17:29
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