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2019年02月07日

第776回「音楽にまつわる」

 

 昨年のフランシス・レイに続き、先日のミシェル・ルグランの訃報。音楽界の巨匠たちがこの世を去っていく。もちろん、彼らの音楽はこれからも輝き続けるわけですが、喪失感は否めません。せめて、この機会に知らなかった人の胸にまで響くことを願います。

 「シェルブールの雨傘」は、その曲自体も素晴らしいですが、全編にわたってミュージカルという、非常に斬新かつ大胆な演出も際立っています。すべての登場人物の台詞を五線譜に乗せてしまっているのに、いつの間にかその違和感がなくなって。音楽だけではありません。あのカラフルという言葉で片付けられない絶妙な色彩感覚にはもう、ひれ伏すしかないのです。芸術の都で培われたフランス人の感性が、あのような作品を生むのでしょう。映画は総合芸術と言いますが、あの作品はパリの宝石であり、パリそのものといってもいいかもしれません。

 総合芸術という意味では、「街」もそういうものだと思います。街は、時代や社会、そこに暮らす人々の価値観を反映しています。パリという街こそ、時を重ねたフランス人の総合芸術でしょう。

 最近ではあまり「銀幕のスター」という表現を耳にしないのと同様に、「映画音楽」がヒットするケースは少なくなり、むしろ楽曲の宣伝の場として商業的に使用されてしまうことが増えました。かつて映画音楽は、作品を広めるためにありましたが、楽曲を広めるために映画が利用されてしまっています。

 映画において、音楽が重要な役割を担うことは少なくありませんが、決して感情を煽るだけがその目的ではありません。映像と音楽が絡み合うことによって、深く印象付けられる。それはテレビ番組においてもそうです。

 「笑っていいとも!」を思い出す時、あの「お昼休みはウキウキウォッチン〜」を切り離すことができません。我々が、「I WANT YOU BACK」を聴くと、「5時に夢中!」を思い出してしまうように。かねてから、サザエさんは30分のミュージック・クリップだと主張していますが、我々は毎週日曜日、「サザエさん」という音楽を聴いているのです。映像を観ながら、音を味わっている。だから習慣になるのです。

 仮に、「5時に夢中!」のオープニング・テーマが存在せず、「こんばんは!」から始まっていたら、これほどたくさんの人に愛されていたかはわかりません。それくらい、人々は音を感じている。

 教会音楽だって、きっと、信者を増やすためという目的もあったでしょう。どんな目的であれ、美しいものは美しい。時代的に、ショパンやベートーベンのような、また、フランシス・レイやミシェル・ルグランのような大作曲家が生まれる可能性は低いですが、人々の心を潤すのが音楽であることは変わらないでしょう。どんなに時代は変わっても、その目的や形は変わっても、僕たちの人生を彩ってくれる音楽こそ、素晴らしいものなのでしょう。

 

2019年02月07日 08:14

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