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2018年05月11日

第746回「sweetest day of may」

 

「これは厳しいなぁ…」

 仕事が終わると、スマートフォンの電池残量が赤く点灯していました。移動するだけだから構わないといえば構わないのですが、bluetoothで曲が聴けなくなってしまうのと、単純に落ち着かなくなります。

「充電させてもらうか」

 させてもらえそうな場所はいくつか頭に浮かびましたが、ちょうどガソリンの残量も少なかったので、スタンドに寄ることにしました。土地勘のない場所。高速の入り口までにあるか不安でしたが、ちょうどその手前に看板が見えました。

「すみません」

 車を停め、スタッフに声をかけると、何やら作業中で手が離せない様子。セルフタイプなので仕方ありません。本来、給油している数分だけ充電させてもらうつもりだったのですが、そのまま給油をはじめました。そしてスタッフがやってきたのは、満タンになる頃。

「あ、そうだったんですか、でしたら…」

 車を邪魔にならない場所に移動させてとのこと。僕は、そこまでしてというプランではなかったので、申し訳ないので大丈夫だと伝えます。

「そうですか、っていうか、もしかして、ふかわさんですか?」

彼は、40代と思われる男性でした。

「あ、やっぱりそうですか!仕事ですか?ラジオ、聞いていたんですよ!」

 どうやら、ロケットマンショーを聴いていたそうで、今でもSDカードに保存していたものを聴くことがあるのだそう。

「あのラジオ、すごく好きだったんです。今まで音楽に関心がなかったんですけど、好きな曲もたくさんできまして」

 作業中の話し方とは完全に別人格。番組への想いが溢れてきました。

「そうですか、終わっちゃったんですよ。またできればいいんですけど、ああいう番組」

彼は、手に持っているスマホに目を向けました。

「っていうか、充電しなくて大丈夫ですか?」

「あぁ、いいです、いいです!どうしてもって訳ではないんで…」

 この時、僕の頭の中に、あるフレーズが浮かんでいました。しかし、これを発してはいけないと、必死にブレーキをかけます。

「そうですか、すみません。もっと早く気づいていれば…」

だめだ。言っちゃダメだ…。

「いえ、いいんです…」

ダメだぞ、言っちゃダメだぞ!!

「心は充電されましたから」

 箍が外れました。言わずにはいられませんでした。そうして車は、都心に向かう中央道を走って行きました。

2018年05月11日 07:53

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