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2017年08月04日
第715回「クーピー・ペンシルのように」
僕が小学生の頃は、スマホもケータイもなかったので、筆箱がその代わりを担っていました。もちろん筆箱なので、鉛筆やシャーペン、消しゴムなどを入れることを主な目的としていますが、そこに遊びの要素が付けられていて、授業の退屈をしのいだり、娯楽の一つとして筆箱が活躍していたのです。
カンペンと呼ばれる缶の筆箱のものが流行ると、内部で2層になっで、ゴルフや野球ゲームができるタイプのものが登場しました。また、当時CMでもやっていたのが、開け方が何通りもあるタイプ。いくつも隠し扉があって、ボタンを押すと小窓が開くというもで、子供心をガンガン刺激されました。それなりに馬鹿でかいものになってしまうわけですが、僕たちにとっては、これがスマホだったのです。開け方が何通りあるのかということがある種、富の指標。たくさんの開け方があると自慢もできるし、満足する。スマホの容量や画素数みたいなものでしょうか。
5段変速や6段変速など、ギヤ付き自転車も流行りました。車を運転できない代わりに、ギヤを動かすことで乗り物を操縦している感覚が楽しめました。案の定、ギヤの数が自慢の対象となると、スポーツタイプの自転車が現れました。なんと、ギヤは36段変速。ハンドルもぐにゃっと曲がっているため前傾姿勢で乗るのですが、それに憧れたものです。その反動か、全くギヤのないママチャリも流行りました。これは主にヤンキー軍団が乗り回していましたが。
ギヤにせよ、筆箱にせよ、その数が豊かさの指標になったものの中で、もうひとつ象徴的だったのが、クーピー・ペンシルです。
説明不要かもしれませんが、色鉛筆とクレヨンの中間に位置する優しい風合いのもの。12色入り、18色入りなどあって、色鉛筆よりもポップな感じで人気を博し、みんなのロッカーの中に入っていました。すると、松竹梅の松が現れました。圧巻の36色入り。ここには他にはない色が入っていて、憧れの的でした。
「あの色が欲しい…」
なぜなら、持っていないからです。
あの時の僕は、36色で描きたいものがあったわけではありません。ただ36色を手に入れたかった。綺麗に並んだクーピーペンシルを見て、うっとりしたかった。どうせ使わないのだし、12色で描けるようになりなさいと言われましたが、結局、手に入れてしまいました。
そんな少年も大人になり、たくさんの音色を所有するようになりました。36色が1万色になりました。結局、あの頃と変わっていません。もう何がどこにあるんだかわからない状態。ほとんど変わりはなくても、新たな音色を手に入れることで心が潤うシステムになってしまったのです。もはや、心の薬と言えるでしょう。
36色だろうが1万色だろうが、結局、描かなきゃ意味がないのですが、いまは、1万色を使って落書きしている時間がとても重要になっています。子供の頃のお絵かきのように、何のテーマもなくひたすら夢中になって描いている。そんな時間は決して無駄ではありません。環境が変わるだけで、子供の頃とやりたいことは変わっていないもの。僕はいま、1万色のクーピー・ペンシルにうっとりしながら、ひたすら落書きを続けているのでしょう。
2017年08月04日 12:58
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