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2017年05月12日

第702回「頻度マイスター」

「やはり、彼に出会ったことが大きかったと思います。今の僕があるのも、すべて、彼のおかげかもしれません」
 洋平は、そう答えると、窓の外を眺めた。

それは、なま暖かい風の吹く日のことだった。
「どうしたんですか、ため息ばっかり」
振り向くと、見知らぬ男が立っていた。
「怪しいものではありません。どうですか、一服」
洋平の顔の前に、見たことのない煙草が飛び出すと、男は、ニコッと微笑んだ。

「頻度マイスター?」
洋平は、目を丸くした。
「皆さん、そのような表情をされます。頻度マイスターでも、頻度ソムリエでも構わないのですが…」
「どういったお仕事なんです?」
すると男は、淡々とした口調で答えた。
「頻度で、皆様の人生を豊かにするんです」
「人生を、豊かに?」
「そうです」
男は頷くと、胸ポケットから黒いカードケースを取り出した。
「申し遅れました、私、こういう者です」

「有限会社 ハウオッフン?」
洋平は、同僚の小仲といた。
「随分怪しい感じだね。なんか宗教の勧誘とかじゃないの?頻度マイスターなんて聞いたことないし。」
「確かに最初はそう思ったんだけど、なんかぐいぐい引き込まれちゃって」
「その煙草に何か変な成分が入っていたんじゃない?」
「ある意味そんな感じ!でも、まぁ話を聞くだけならいいかと思って」
「その考えが洗脳の第一歩なんだよ!そのうち、何か購入させられるよ?」
「そうかなぁ」
そういって、洋平は串についた最後の焼き鳥を口に放り込んだ。

「金環日食、覚えていますか?」
「金環日食…あぁ何年か前にありましたね」
男は、名刺入れをポケットに戻した。
「あの時はすごい騒ぎでした。金環日食フィーバー。」
「確か、何十年に一度とかって?」
「そう。月、太陽、地球がほぼ一列に並ぶ時に起きる日食のこと。専用のグラスまで販売されて大フィーバーでした。そもそも、人は「何十年に一度」とか、そういった類のフレーズに弱い。金環日食が毎月のことだったら、あんなに騒がないでしょう。頻度が美に与える影響ははかりしれない。じゃぁ、絶対的な美しさはないのか。そんなことをひたすら考えていた時、あることに気づいたのです。」
洋平は、次に出てくる言葉を待った。

「なんだよそれ!どういうこと?」
「いや、まぁ、俺も最初はよくわからなかったんだけどさ・・・」
「今は理解してるの?」
「まぁ、少しはな」
そういって、洋平は、ハイボールを注文した。

続く。

2017年05月12日 13:18

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