« 第638回「シリーズ WHAT’S DJ? 第4話 選ぶこと」 | TOP | 第640回「シリーズ WHAT’S DJ? 第6話 つなぐこと」 »
2015年12月13日
第639回「シリーズ WHAT’S DJ? 第5話 順番の大切さ」
「それじゃぁ大将のおまかせで!」
この言葉を放った瞬間、カウンターの向こうはまさしくDJブースに変わります。木のカウンターというダンスフロアに、握りというナンバーが流れる。ガリは小さなミラーボール。両手を上げるかわりにお客さんは、舌鼓を打つ。DJ握りがフロアを熱くするのです。
「なんでいきなりカルビなんだよ!まずはタン塩だろ!」
そんな風に、お肉の焼く順番に目くじらをたてる人がいたら、それはまさしくDJカルビ。お肉の順番から、火加減、網を変えるタイミングにこだわる男。
「え、餃子が先に来ちゃったよ。。」
ラーメンと餃子の順番にこだわっている人は、DJザーサイ。中華に限らず、コース料理なんてまさしくDJ的感覚。前菜にはじまり、お口直し、メイン、デザート。お口のなかはダンスホールなのです。DJフレンチが味見をする姿は、まるでヘッドホンで次の曲を確認しているかのよう。
サラダは先がいいとか、飲み物はあとがいいとか。イチゴを最初に食べる人、とっておく人。我々の日常の中で順番を決めることは、珍しい作業ではありません。野球の打順や、デートコース。もっというと、政府だって、国民というフロアのお客さんの心をコントロールするために、政策の順番はかなり慎重に決めています。ボタンを掛け違えてしまうとまた一からやり直しというように、順番はとても大事なのです。
「いい流れ」という価値観があります。メジャーリーガーに、「あそこからの流れよかったですね」っていうと、「は?ナガレってなに?」となってしまうそうです。つまり、あくまで個人的な概念しかなく、流れがよかったという感覚は希薄なのだと、聞いたことがあります。しかし、日本人は、「流れ」とか「空気」という非常に曖昧なものを、むしろ、個人よりも大事にしている気がします。
DJという人々は、そんな「流れ」を大事にしています。彼らが全員お肉を焼く順番にこだわるかどうかはわかりませんが、「順番にこだわる人種」なのです。
たとえば曲が10曲あるとして、それをどのような順番でかけるのかというのは軽視できません。同時に、その順番を考える時間はとても楽しいです。最近では、シャッフル機能という偶然性の美学もありますが、それだって普通に感じるときと、いい流れを感じるときとあります。ベートーベンだって、最後に歓喜の歌をもってきたことに意味があるわけで、アルバムの曲順しかり、作り手からしても、順番は軽視していないはずです。
ただ、DJは順番にこだわりますが、こだわり方は十人十色。暗い曲のあとに明るい曲をかける人。1時間ずっと同じテンポでいくひと。フランス映画のような一時間もあれば、ハリウッドアクション映画のような一時間もあります。もちろん、正解はどれということではありません。ですが、順番が違うとだいぶ印象も違います。いかに気持ちいい順番になるか。高揚感をキープできるか。順番を決めることは旅のルートを決めるようなもの。ゴールまでもどのような景色を見せることができるか。でも、これだってこだわりのひとつにすぎず、あくまでひとつの方法論。
「好きな流れ」とか、無意識的なそれが実際のDJプレイに影響するもので、ある程度スターティングメンバーが決まっている人もいば、つねに行き当たりばったりの人もいます。決めないこだわり。僕自身も、やりはじめた頃は、メモ帳に順番を書いて、BPMまで記入していたものです。それを忘れてしまって家に取りに帰ったこともありました。それこそ、「いい流れでかける」ことに対する人並みならぬ美学を感じていたからでしょう。
こだわり方がどうであれ、DJの皆に共通することがあります。それは、一曲目をどうするか。ある程度、そこで方向性が決まってしまうので、一曲目に悩むことは珍しくありません。一度スタンバイしたものの、「やっぱり違う!」とか、前のDJの最後の曲で急遽変更になることはよくあります。逆に一曲目が決まれば、あとは比較的スムーズです。「次の曲はフロアが決める」というDJもいれば、プラン通りに結構する者。 僕なんかのように、次の曲が聞こえて来るDJもいます。作家にしても、出だしの表現が決まらないものですが、逆にここを突破すれば、するすると出てくる。一曲目を決めることは、のちの順番決めとはまた違う筋肉を使用している気がします。
いきあたりばったりというこだわり・スタイルにも価値はあります。毎回くじ引きで次の曲が決まるという企画だってときにはありでしょう。その人の個性がでればなんでもいいのです。正解なんてありません。ただ、絶対にやってはいけないことがあります。それは、ミックスされた音源、つまり、すでに曲順が決まり、つながっている音源を垂れ流すことです。やむを得ない状況をのぞき、これは禁断の果実。しかも、だれにも旨味をあたえない果実。それ以外であれば、なんでもありなのです。
なんでもありだけど、現実には、「いまの流れよかった!」という瞬間は多々あるのも事実。分析をすれば科学的な説明はできるのでしょうが、ここらへんはセンス・感性という言葉で片付けてしまったほうがよさそうです。やはり最終的には、個性。スタイルがある人はやはり強いです。面白みのあるDJもいれば、そうでもないDJもいます。それは盛り上げているかどうかではなく、音楽になっているかどうか。いま、音楽が作られているか。そして、好きなんだという気持ち。その思いが楽曲にのせられるかどうか。センスの押し付けはよくないですが、媚びすぎていてもだめ。盛り上げたもん勝ちともいいますが、その価値観ではいつか痛い目を見てしまいます。順番を大切にしている人々ではありますが、予定調和にならないようにすることも大切。エンターテイメントの世界ではみなに共通することでしょう。たかが順番、されど順番。順番に翻弄されてDJたちは夜を彩るのです。
2015年12月13日 18:49
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.happynote.jp/blog_sys/mt-tb.cgi/97