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2015年11月15日

第635回「WHAT’S DJ? 第一話 革命前夜」

はじめに
 中学生の頃、自分の好きな曲を集めて好きな女の子にプレゼントしました。普段はノーマルポジションなのに、背伸びしてハイポジションのテープにダビング。レコードからでもCDからでも、カセットのA面とB面の配分に失敗すると途中で曲が切れてしまいます。カードに曲名を記入し、アルファベットのレタリング。試行錯誤の末にできた、世界でただひとつの「MY FAVORITE SONGS」。この「ただひとつ」は、きっとたくさん存在していたでしょう。
 毎年夏になると、父の運転で帰省していました。車内のBGMは、兄のカセットだったり、僕のカセットだったり。自分のカセットがかかっているときは嬉しい反面、怖れていることもありました。それは、「音量さげてくれ」という父の言葉。それを言われると、僕の気持ちはみるみる萎縮していくのです。好きな曲を聴けないことではなく、好きな曲を受け入れられなかったことに対する現象。逆に、ボリューム上げてとは言わないまでも、父が鼻歌でかぶせたり、リズムにのったりすると、なぜだか嬉しくなりました。
 いま思うと、そのとき、DJをしていたのだと思います。

 ひとえに「DJ」といってもヒップホップやテクノ、最近のEDMなど、ジャンルによってその役割やスタイルは異なりますが、ここでは最近急増しているDJ、いわゆる「曲を順番にかける人」ということで、話を進めていきたいと思います。
 「DJ」と聞くと、かつてはラジオのディスクジョッキーを連想しました。自分でセレクトした曲をかけて電波に乗せる人。そこに、クラブやディスコなどでお皿をまわし、お客さんを踊らせる人も加わり、いまでは後者として用いられる頻度の方が高くなりました。「お皿をまわす」という表現はまさしくターンテーブルという機械の上でレコードが回転していることに由来しますが、ラジオDJにしても躍らせるDJにしても、自分でセレクトした「レコードをかける」から「DJ」だったのです。
 相変わらず軽いイメージを抱かれがちですが、DJはもともと厳しい世界で、レコード持ちという下積み時代を経験しないと実際にクラブでまわせない風潮がありました。クラブ専属でなければ、毎回大量のレコードを持ち運びするのですが、ディスコ全盛時代は、弟子が師匠のレコードを運ぶ光景は多く見られました。もちろん、給料なしでレコード持ちをする者も。
 やがて世の中にCDが普及しはじめると、クラブにも「CDJ」というCDを再生する機材が導入されます。ラジカセやCDコンポもCDを再生する機械ですが、DJプレイに適した機能がCDJにはありました。ただ、まだこの段階では、「DJはレコードをかける」が主流だったので、CDJを使用するのはどこか邪道で、うしろめたさがつきまといます。それでも、勝手にリミックス(追って解説します!)などをしていた僕は、サンプラー(これは説明しません!)で作成した曲をかけるにはレコードでは無理なので、自宅で焼いたCDRをクラブに持っていっていました。
 このCDRに「焼く」という作業も、いまのようにパソコンで簡単にできるわけではなく、それ専用の機械が必要でした。当時は、たとえCDRでも、自分の曲がCDの盤面に刻印されることに感動を覚えたものです。それで、自宅で焼いたCDRを持っていくのですが、当時はまだCDRがエラーを起こしやすく、音が飛んだり、読み込まなかったり、CDJの蓋が開かなくなったり。DJ歴の長い人はみな経験したCDJあるある。しかし、そこらへんはパイオニアさんが機材のブラッシュアップをしてくれて、ひとつひとつ改善してくれます。パイオニアという会社に、足を向けて寝られるDJはいないでしょう。
「CDJ置いてありますか?」
「型番わかりますか?」
 よく問い合わせたものです。CDJがあるとはかぎらない時代。あっても、「なんだよこのCDJ?!」と、見たことのない機材が並んでいたりするので、事前チェックを怠ると散々な結果を招くことになります。
 パイオニアさんのおかげで、CDJは親戚の子供以上に成長がはやく、どんどん進化していきます。機能が増えるとともに、あのとき見かけた「謎のCDJ」は駆逐され、クラブでは常設。型番以外の確認作業は不要になりました。CDだけでプレイするDJも増え、ターンテーブルがCD置き場になっていきます。また、CDJにUSBメモリーを挿入できるタイプが登場すると、CDさえも使用せず、ポケットにUSBメモリーを数本いれてブースに立つ人もでてきます。このときが、革命前夜という段階でしょうか。このあと、大きな転機がやってきます。
 なにをしているかわからないけど、DJブースにパソコンが置いてあるイメージはありませんか?そうです、あるときDJブースにりんごが落ちてきたのです。PCDJ時代の到来です。

2015年11月15日 18:39

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