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2014年12月29日

第571回「あの頃に負けないように」

 不思議な感覚でした。何気なく、十年前ほど前のバラエティー番組を某動画サイトで見ているときです。つい笑ってしまうのです。それが、懐かしさとか、そういったものが加担しているのではなく、むしろ、新しさを感じてしまうほど、面白いのです。

たいてい昔の番組などを見ると、どうしても時代の壁が厚く、「面白い」と思っているものに古さを感じてしまい、純粋に笑えなかったりします。しかし、30年前のものは古すぎて笑えないのに、10年くらい前のものだと単純に笑えてしまうのは、その頃のバラエティー番組が、いまほど規制や締め付けるものもなく、自由を謳歌していたからではないでしょうか。ただ、くだらないことだけを追求でした。ただ、面白いと思うことだけに邁進できた。いまはどうしても、これをやったらまずいかな、これをやって大丈夫かなと、石橋を叩きながら放送している雰囲気がどこかにでてしまって、心から笑えなくなっています。

 あの頃は、自由で大胆で、勢いがありました。同時に、視聴者を信用していました。番組と視聴者の間にしっかりと、信頼関係がありました。それがいつのまにか信頼関係は崩れ、視聴者は粗探しをはじめ、まるで監視するような目線さえ入り込んでしまいました。その結果、どこか萎縮した、行儀のいい、おとなしい番組ばかりが増えてしまいました。視聴者としても物足りなくなり、だから、冒頭の不思議な現象が起きてします。「あの頃 」が、輝いてしまう。 番組側にも、どこか傲慢な部分もあったり、視聴者を馬鹿にするようなことがあったのだから、自業自得といえばそれまでですが、いざ信頼を取り戻すとなると大変です。もう一度、テレビの前に集まってもらう。テレビに期待してもらう。これはいままで以上の情熱やエネルギーが必要となるでしょう。いつまでものけぞっていたり、時代のせいにしていては、人は離れていくばかり。こんな時代だからこそ、こんな時代を利用する必要があるでしょう。時代のニーズに応える。

ちなみに、「5時に夢中!」という番組は、そんな時代だからこそ輝いているわけで、10年前であれば、きっといまほど目立っていなかったでしょう。また、対照的なのが「ひるおび」という番組で、これはとても行儀がよくて、丁寧に作られています。どちらも、こんな時代だからこそ存在感のある番組ですが、このふたつは対極にあると言えます。

 このままだと、テレビが年配の人のもの、ネットが若者のもの、大きく二極化してしまいます。それは決して悪いことではありませんが、テレビのなかで起こることが、行儀のいいことばかり。薬になることばかり。アイロニーやペーソスといった表現がテレビのなかから消えてしまう。毒も、タレントが個人的にで引き受だけでは限界があります。だれにも咎められない番組を目指していたら、本当に毒にも薬にもならないものしか残らない。様々な価値観が存在すべき場所なのに、むしろ集団による言論統制が進んでしまう。

こんな時代だからこそできる番組。風潮を逆手にとった番組。社会主義政権下の番組は、むしろスマートで非常に面白かったりするように、窮屈な世の中を笑いに変換できるのが、テレビなのではないでしょうか。家族団欒とまではいかなくとも、テレビから離れられない番組を。「あの頃」には、あの頃と同じことでは勝てません。いまだからこそできること。いま「面白い」ことを。時代の変化のスピードは違うけれど、きっと答えはあるはずです。それは、視聴者に媚びるのではありません。真摯な番組作り。多大な情熱も必要です。適当にやってれば視聴者を誤魔化せるだろうなんて思っていたら、絶対にテレビの前に戻って来てはくれません。信用してもらえません。それができなければ、10年前どころか、この小さな窓にさえ負けてしまうでしょう。いまが、一番面白くなるように。

2014年12月29日 15:05

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