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2014年04月06日

第566回「あの風景を忘れない」

 生放送が終わると、いつも一緒に昼食をとっていました。テレビが斜め上に置いてある定食屋さん、路地裏のお蕎麦屋さんやラーメン屋さん。いくつかのお店をローテーションしているような。食後はたいていゴルフの打ちっぱなし。そこに行けば、「よぉ!」と、ゴルフ仲間がいて、立ち話をしています。さっきまで全国に向けて司会をしていた人が、いつのまにか普通のおじさんになっている。いまから10年以上前のことです。そんな、いつものコースのあと、いつもとは違うコースにはいったことがありました。

「今日は、ふかわの家に寄ろう」

 そのときは冗談だと思っていました。しかし、マンションの前に車が停まると、降りたのは僕だけではありませんでした。そして、車だけが切り離されていきます。

「いいとこ住んでんなぁ…」

マンションの5階。ほかの住人に気付かれてしまわないか心配しながらエレベーターを降り、扉を開けました。

「お、ピアノあるのか…」

 しわしわの指が、鍵盤の上で踊り始めました。往年の「だれでも弾けるチック・コリア」をやってくれました。僕しかいないというのに。ふたりで連弾もしました。

「ちょっと仮眠するな…」

しばらくすると、ベッドの上で仰向けになっていました。サングラスをしたままだったのか、はずしていたのかはもう覚えていません。全部でどれくらいの時間だったのでしょう。そのあとどのようにして帰られたのかもわかりません。ただ、率先してボケを連発していました。僕しかいないというのに、アルタと変わらない、タモさんでした。

「いらっしゃいませ〜!」

経営なさっているというお店をこっそり訪ねたことがありました。もしいたらびっくりするかもしれないし、いなかったらいなかったでいいので。店の扉が開くと、威勢のいい声が飛んできます。活気のあるお店。ビールサーバーでジョッキにビールを注いでいるスタッフがいました。

「あ…」

  その人こそまさに、タモさんでした。経営というより、バイト店員といった感じです。

「なんだよ、言ってくれりゃぁよかったのに…」

 その言葉はほかのタイミングでも耳にしたことがあります。お見舞いを口実に、勝手にご自宅を訪ねたときです。炬燵にはいっていたので、冬だったでしょうか。猫と遊んでいると、カレーライスがでてきました。そのあと、音楽鑑賞ルームのような部屋でジャズを聴き、リビングでテレビを見ていたら、うとうとして、そのまま眠ってしまいました。

 タモリチルドレンはたくさんいて、尊敬している人も山ほどいることはいうまでもありません。なかでも僕はかなりのできの悪い子供で、最後の日にも行けなかったけれど、間違いなくタモさんに影響され、タモさんの背中を見てきた人間。アルタでも、路地裏でも。

「毎日やってるんだから、一生懸命やっちゃだめ。反省しちゃだめ」

残り一か月をきったある日。画面から聞こえてきたその言葉は、まるで僕に向けられたかのように感じました。あの番組が日常の風景になったのは、タモリさんがいつも自然体だったからでしょう。規模も時間帯も異なりますが、タモリチルドレンとして僕も、夕方の風景になりたいと思います。

 

2014年04月06日 14:57

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