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2019年10月25日

第809回「きりたんぽ祭り〜後編〜」

 

「それではご準備よろしければ」

 きりたんぽ鍋で体がすっかり温まっている頃、スタッフが呼びに来ました。ハチ公ドームのスタンド席に向かって設置されたステージに到着すると、先ほど挨拶に来てくれた小学生たちが白い衣装に着替えて待っています。とんぶり頭を装着してみんなで記念撮影。スタンド席はいっぱいになり、スタージ前にもお客さんが溢れてくると、紹介を待たずにスタージに飛び出しました。

「とんぶり応援大使のふかわりょうです、よろしくお願いします!」

 大館市内のお客さんが多いと伺っていたので、わざわざとんぶりの説明をするのは釈迦に説法。その代わり、自分がいかにしてとんぶりと出会い、ここにたどり着いたかを説明しました。

「さて、とんぶりの唄をこれから披露するわけですが、僕一人にこのステージはあまりに広すぎるので、素敵な仲間たちに協力してもらうことにしました!」

 80’Sバージョンのとんぶりの唄が流れると、ステージの上手と下手からとんぶりをかぶった子供達が転がるように飛び出てきました。地元、東館小学校の四年生のみんなが、この日のために練習してくれました。

「とんぶり食べてる?」

「どんな風にして食べた?」

「振り付けは完璧?」

 14名の紹介が終わると、僕はスタッフに合図をします。

「例のやつ持ってきて!」

 ステージ中央に運ばれてきたダンボール。中から緑色のとんぶり帽が玉入れ競技のように、一つ二つと出てきます。そうして5つのとんぶりがステージに並びました。

「これかぶって踊りたい人!」

 客席から選ばれた五人のとんぶりが新たに加わりました。軽く振り付けのレクチャーをして、いよいよ本番となると、ちょっとしたハプニングが発生します。一人の男の子がやっぱりやりたくないと駄々をこね始めました。いざステージに上がったら不安になったのでしょう。

「大丈夫!飛び跳ねてるだけでいいんだから!」

 なんとかみんなで説得し、四年生の14名と、市長と、トミタさんと、急遽参加することになった五人の子供達がステージでとんぶりの唄をパフォーマンス。一緒に立って踊ってくれている人、手拍子の人、両腕だけ振り付けする人、口ずさむ人。地元・大館の人たちの前で披露できてよかったです。

「ナイスとんぶり!!」

 最後はステージで集合写真を撮り、無事にきりたんぽ祭りの演目を終えることができました。

「え?ニュースになってるの?」

 その日の夕方にはもうニュースになって流れていました。動画を見てみると、そこにはステージ上で嫌がっていた少年が、一生懸命踊っている姿が映し出されていました。

「めちゃめちゃ踊ってる!」

 その姿があまりに可愛くて何度も見てしまいました。その後、ブースで「とんぶり兄妹」バージョンのとんぶりやCDを販売して、直接触れ合うことができました。秋田の地酒もいただきました。とんぶりをいろんな人に知ってもらうことももちろんですが、この歌が大館で愛される曲になってくれるといいなと思います。そうして一行はハチ公ドームを後にして、盛岡に向かいました。

 

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2019年10月18日

第808回「大館きりたんぽ祭り〜前編〜」

 

「よかった…」

 おにぎりをぶら下げて車内のシートに腰を下ろすと、深い息が漏れます。朝7時半。東北新幹線がゆっくりと動き出しました。

 

「秋田まで行けるかなぁ…」

 そんな不安を抱き始めたのは、きりたんぽ祭りの4日前、108日の火曜日。台風の進路が明らかになりつつあり、予報円が日本列島の上に置かれています。これによれば、週末の上陸と見られましたが、当初は、帰りの便に影響するだろうけど、往きは問題ないだろうというものでした。しかし、近づいてくるにつれ、飛行機が危うくなってくると、あらゆる可能性を考慮し、新幹線のチケットも手配。さらに当日が厳しければ前日移動という選択肢も浮上しました。ただ、前日は夜まで仕事なので最終の新幹線で仙台までが限界でした。

「なんとかいけそうだ」

 早い段階で空路は諦めていましたが、案の定、羽田発着の欠航が決まりました。残った新幹線はお昼から計画運休だったので、事前に切符を購入していたことが功を奏しました。ただ、東北新幹線は秋田新幹線と繋がるものの、盛岡で下車してそこから車で2時間弱の道のり。このルートじゃないと間に合わないようです。移動時間こそ長いのですが、とにかく何としても大館までたどり着きたい気持ちでした。

 

「雨、あがってる」

 しばらくすると雨も上がり、仙台のあたりでは穏やかな空が広がっています。朝は土砂降りの中、東京駅へ向かいましたが、台風の影響を抜けたのでしょう。無事に盛岡につくと、「とんぶり兄妹」のイラストがプリントされたポロシャツのスタッフが待っていてくれます。

「ここから1時間40分くらいです」

 冷麺の看板が踊る幹線道路を抜け、車は高速道路に入りました。大館きりたんぽ祭りはもう47回目を迎える大規模な食のイベント。当初は芋煮会のように河川敷などで開催されていたそうですが、現在はニプロハチ公ドームで開催され、3日間で来場者は10万人超。全国でイベントが相次いで中止になる中、予定通りの開催となりました。

「あれだ!!」

 東京ドームなどに比べればやや小ぶりではありますが、田畑の中に突如現れる真っ白なドームに、宇宙人がやってきたかのような印象を抱きました。

「今日はよろしくお願いします!」

 到着するやいないや、楽屋にきりたんぽ鍋やとんぶり料理が運ばれてきました。組合の方々や市役所のスタッフ。そして市長。みなさん、とんぶり兄妹がプリントされたポロシャツを着用してくれています。

「ご挨拶よろしいでしょうか」

 すると、扉から子供達がぞろぞろと入ってきました。今日はとんぶりの唄を披露するのですが、東館小学校の四年生14名が一緒に踊ってくれることになっていて、今日のために振り付けの練習をしてきてくれました。

「じゃぁ、本番よろしくね!」

 ステージまであと30分。温かいきりたんぽ鍋が、無事に大館に到着したことを実感させてくれました。

 

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2019年10月10日

第807回「秋田でナイスとんぶり〜後編〜」

 

「芸能生活二十五年、今は浮力だけでやっております」

 陽光が降り注ぐ会場は、1万人による柔らかいクッションのようでした。

「それでは、フェスっぽいことやらせてもらってもいいでしょうか」

 とんぶりのコール&レスポンスが空に響き渡ります。

「実は楽屋にこんなものがありまして…」

 そうして掲げたのは、あの白いヘアターバン。かつて使っていた正真正銘の「本物」ターバン。会場がどよめき始めました。

「ここで反応する人は昭和生まれです〜」

 そんなやりとりを経て、いよいよネタに。

「四半世紀ほど前のものですが、私が世に出るきっかけとなったものをここでやらせてもらってもいいでしょうか。ただ、これをやるにはバックダンサーが2名ほど必要なんです。と言うことで、拍手でお迎えください。」

 まずは、とんぶり娘のトミタ栞さん登場。しかし、バックダンサーはもう一人必要です。

「もしどなたかやりたい方いらっしゃいましたら…」

 さすがに会場からは志願者はでません。すると突然、大きな歓声が上がります。何も言わず、まっすぐな瞳でこちらを見つめ、空に剣を突き刺すように、右腕を伸ばす男の姿がそこにありました。

「優さん!」

 しっかりエアロビ・スタイルに白いヘアターバンまで装着して、表情も仕上がっています。

「これはバックダンサーというより、センターですよ!」

 会場がいろんな声であふれています。さぁ、準備は整いました。

「大仙の空に響け!小心者克服講座!」

 音楽が鳴り始めると、三人の体が縦に動き始めます。背後なので動きは見えませんが、お客さんの表情で伝わってきました。

「ありがとうございました〜!」

 無事に小心者克服講座、フルバージョンを終えることができました。強力なバックダンサーのおかげで、広大な屋外にも関わらず、しっかりと届けることができました。

「みなさん、バックダンサーいかがでしたでしょうか」

 大きな歓声の中、もう一人のターバン男は去っていきました。

「さて、ここからはみなさんにもご協力いただきたいと思っています。」

 曲を作った経緯などを発表し、一番の目的である「とんぶりの唄」をみんなで踊りたい旨を伝えました。もちろん、曲自体も知らない人もいるので、サビの部分をアカペラで歌って、トミタさんに振り付けをレクチャーしてもらい、あとは見様見真似でなんとかなるでしょう。

「それでは準備はいいですか?次、本番行きますよ〜」

 するとまた会場が賑やかになりました。グリーンのとんぶりを被った男がステージ脇から現れました。そうです、優さんです。ヘアターバンからとんぶり頭になっています。

「もしかして、一緒にやっていただけるんですか?」

 聞くところによると、振り付けも事前に習得されたそうで、ご自身の演目もあるというのに、本当にありがたい話です。

「それでは、みんなも一緒に踊って、歌いましょう」

 とんぶりの唄が流れました。僕が歌い、トミタさんと優さんが踊るとんぶりの唄。今日だけの、とんぶり三兄妹。初めての人も僕らに合わせて踊り、歌ってくれました。最後の腕をふる部分では、1万人の手が天を仰ぐように揺れて、大海原のようでした。

「ナイスとんぶり!!」

 そうして鳥海ステージでの演目は、無事に終了しました。その後、一息つくまもなく物販のコーナーに移動。とんぶりCDの即売会をして、お客さんたちと直接触れあうことができました。毎年参加していたり、地元の方や、全国から集まっていることがわかりました。CDがなくなったあとは、とんぶり撮影会になりました。

「いやぁ、最高だった〜」

 ババヘラアイスを片手にホット一息。秋田の魅力をあらためて実感した、素晴らしいフェスでした。とんぶりが繋いでくれた、とんぶりの輪。最高の「ナイスとんぶり」になりました。

 

 

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2019年10月04日

第806回「秋田でナイスとんぶり〜前編〜」

 

 先日開催された、秋田キャラバン・ミュージック・フェスティバル。天候にも恵まれ、とても素敵な一日になりました。そもそも主催の高橋優さんとはほとんど共演していなかったのですが、「とんぶりの唄」を作った際に秋田出身の方に聴いてもらえたらと思い、ツイッターで声を掛けてみたところ、温かく迎えてくれたことで、歯車が動き始めました。

「フェスの出演のお話なのですが」

 マネージャーから報告が来たのは「とんぶりの唄」をリリースして数ヶ月後。まだちゃんとお会いしたことのない高橋優さんのからの、フェスの出演依頼。もちろん、断る理由はありませんし、心のどこかで待っていた気がします。ひょっとすると、高橋優さんの「ナイスとんぶり」が見られるかもしれない。そんな期待に胸を膨らませていると、イベントに先駆けてラジオにも呼んで頂いたのですが、そこで予想外の出来事が待っていました。

「実は、小心者克服講座、大好きなんです!!」

 濁りのない眼差しを向けられていました。そんじょそこらの熱量ではなく、30分番組に収まりきらないほど、次から次へと言葉が溢れ、ネタへの熱意が伝わってきます。とんぶりの話を終え、この後の2本目の収録のことを心配していましたが、完全に取り越し苦労。褒められることに慣れていないため、かなり恐縮していると、追い打ちをかけるように、さらに耳を疑う言葉が飛んできます。

「バックダンサー、やりましょうか?」

 冗談交じりのようですが、目は真剣です。オファーを頂いてからそのときまで、僕は秋田のイベントなので「とんぶりの唄」をみんなで踊って歌えればと思っていました。しかし、主催者である高橋優さんがこんなにも「小心者克服講座」を好きでいてくれるとなると話は別。ましてや、バックダンサーを志願されている。収録を終えると、家であるものを探しはじめました。

「あった…」

 もう久しく使用していなかった無印良品の白いヘアターバン。これを装着する日がやってきそうです。

「ということで、ネタの振り付けもよろしくね!」

「とんぶりの唄」を踊る「とんぶり娘」として同行することになっていたトミタ栞さんに、急遽ネタのバックダンサーもお願いすることになりました。もう四半世紀ほど前のネタなので、知っている人もいるでしょうが、全く知らない人も多いはず。会場でどのような反応になるのかわかりませんが、この3人でやることはとても価値のあること。もう、迷いはありませんでした。

「いいところだなぁ…」

 その日、僕たちを待っていたのは、心地よい秋晴れの空。秋田空港から少し車を走らせれば、緑が一気に広がり、のどかな光景が車窓を流れます。「秋田キャラバン」なので、毎回違う場所で開催しているのですが、4回目の会場に選ばれた大仙市は比較的空港に近く、30分もしないうちに会場が見えてきました。この野球場に、一万人ほど集まっているそうです。

「今日はよろしくお願いします」

 高橋優さんが楽屋まで挨拶に来てくれると、軽くネタ合わせ。ラジオでの話の通り、微妙な動きもしっかりマスターされていました。

「さぁ、いよいよだ」

 僕が出演するのは、鳥海ステージ。隣接する白神ステージで人気バンド・クリープハイプの演奏が終わると、ブリッジ音楽が流れました。1420分。大きなモニターに片肘をついた写真が映ります。そうしてハンドマイクを手渡されると、1万人の中に一人、飛び込みました。

 

 

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