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2019年03月28日

第784回「2泊3日とんぶりの旅」

 

「よし、秋田に行こう」

 いつかは訪れたいと思っていましたが、その気持ちが強くなったのは、ラジオで初めて曲をオンエアした時。番組に寄せられたメッセージに背中を押されました。

 これまで数々の楽曲を制作してきましたが、作った曲をただ聴いてもらうのとは訳が違います。地元の方にどう感じてもらえるか。受け入れてもらえるだろうか。秋田でDJはしたことありますが、他県の僕が作った楽曲が何の前触れもなくラジオから流れたら、地元の方々はどんな気持ちになるのでしょう。ただ自分の気持ちだけで突き進んできましたが、電波に乗せるときは合格発表のような緊張感がありました。

「秋田からのメッセージです!」

「秋田にお住いの…」

「大館の方からです!」

 曲が流れると、今まであまり聞こえてこなかった、秋田のリスナーさんからの声が続々と届いてきました。反応があるだけで十分嬉しいのですが、その文脈からは、喜びのようなものを感じます。少なくとも、拒絶反応は確認されませんでした。地元の方全員に聴いてもらったわけではありませんが、電波を通じて秋田まで届いた実感と、リスナーさんの言葉が、僕に安心と勇気を与えてくれました。

「とんぶり農家さんにお会いしたい」

 地元の方、それも、とんぶりを生産している農家の方々に直接お会いしたい。作成した曲を聴いてほしい。そのようなことが可能なのか、どのように連絡を取ったらいいのかわかりません。地元のラジオや情報番組に出演し、曲とともに、とんぶりへの思いを伝えられたら。そして、地元の方々と直接触れ合うことができたら。

「今月末に行こう」

 そう決めたのは、まだ、とんぶりのCDが出荷される前。とにかく行くだけいってみよう。何ができるかわからないけれど、そこで感じるものがあるかもしれない。たとえ、単なるひとり旅になったとしても。

「よし、これでOK!」

 航空券、ホテル、レンタカー。準備は整いました。あとは日を待つだけ。2泊3日の秋田。この間に何が起こるかわからないけれど、訪れることに意義がある。Seeing is believing。では、とんぶりの旅、行ってきます。

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2019年03月22日

第783回「とんぶりの輪」

 

 遂に発売となりました。とんぶりの唄。もう届きましたでしょうか。すでに購入してくれた方、これからの方、本当にいつもありがとうございます。少しずつ、でも確実にとんぶりの輪が広がっていて嬉しいです。ジャケットもさることながら、開けるとさらにかわいいとんぶりが待っています。こんなかわいいキャラクターが生まれただけでも、作った甲斐がありました。

 リリース記念とんぶりパーティーにもお集まりいただきありがとうございました。急遽お願いして、とんぶりカクテルまで用意してもらいましたが、味はいかがでしたでしょうか。途中から手のひらに乗せて、フリスクのように食べていたら、だんだんクセになってきて、今ではこのままのプレーンとんぶりが好きになってしまいました。これが習慣となったら、体調もすこぶる良好でしょう。

 さて、映画は、「作って半分、売って半分」と言います。作品は、作ることと同じくらい、売ることも大切だということ。かつて、有名な脚本家の方に「視聴率は気にしますか?」と尋ねると、このような言葉が返ってきました。

「当たり前じゃない。せっかく大根作っても、誰も食べてくれなかったら悲しいでしょ」

 作った以上は多くの人に知ってもらいたい。せっかく作った料理を誰も口にしないのは勿体無い。やはり、作品は多くの人に触れられることが幸せなのでしょう。

 今回は、ラジオ番組を中心に回っています。曲はもちろん、食材としての「とんぶり」を知ってもらうことが目的ですが、現状、とんぶりの認知度はあまり高くありません。しかし、それはむしろチャンス。これだけ情報に溢れている時代に、まだ知られていないものがあるのは、むしろ素敵なこと。ラジオの電波に乗せて、地元の方はもちろん、全国にとんぶりの魅力を届け、とんぶりの輪を広げていけたら。そのための、とんぶりの唄。

 CMソングのアレンジをSNSでアップしましたが、あらためて音楽の力を痛感します。ハトヤもそうですが、アート引っ越しセンター、パンにはやっぱりネオソフト。最近ではトントントントン日野の2トン。人の頭に残るのは、やっぱりメロディー。もはや言葉から引き離すことができません。「とんぶり食べましょう」と、言葉だけでアピールするよりも、メロディーに乗せた方が心にも入りやすく、印象にも残る。そうして、いつの間にか、みんなの心の中にとんぶり愛が生まれている。

 海を越えて、とんぶりが愛される日。それくらいのポテンシャルはあると思っています。これだけ栄養価が高いのですから。夢は大きく広がりますが、まずは、地元の方と直接触れ合って、秋田の、そして大館の空気を感じてこようと思います。

 

 

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2019年03月15日

第782回「とんぶりの唄ができるまで〜後編〜」

 

「本日よろしくお願いします!」

 年が明け、お正月ムードが薄まり始めた頃、レコーディングが行われました。前述の通り、今回のCDは、いろんなバージョンの「とんぶりの唄」を収録することになっています。歌詞こそ同じですが、曲調が違うので、それぞれ歌わなくてはなりません。こちらは作った側なのでしっかりと識別していますが、果たして、美人すぎるトレーダーは対応できるだろうか。そんな不安は見て見ぬフリ。メールをして、彼女の到着を待ちました。

 昨年末にとんぶりに出会い、3月にCDリリース。ここに間に合わせるのには、なかなか急ピッチの制作になりますが、これには理由がありました。どうしても、平成のうちに発売したい。平成の最後の作品として、「とんぶりの唄」を形にしたかったのです。新元号になってからではなく、この曲を聴きながら、平成の最後の春を迎えて欲しかったのです。

「遅くなってすみません!駐車場が見つからなくて!」

 僕の中では全然早い到着です。「恋はおかわり」や「期待感ゼロ」でも使用しているスタジオ。ソファに座ってキーの最終確認をすると、レコーディングが開始されました。

「では、録っていきましょう!」

 とんぶりの唄は、兄パートと妹パートに分かれていますが、製作の過程でどう転ぶかわからないので、お互いに全てのパートを録ることになっていました。

「いい感じですね!」

 歌いやすい曲だからか、デモをしっかり聴いてくれていたからか、思いのほか歌声は安定しています。しかも、イメージした通り、若林さんの声にも合っていて、ほとんど指示もなく安心して聴いていられました。くしゃっとなった長いブーツ。脱ぎ捨てられたベージュのコート。おてんばトレーダーのレコーディングは順調に進んでいきました。

「食物繊維、たっぷり!」

 若林さんの決めのセリフを録って、一旦休憩。

「うん、行けそうだ!」

 これなら今日3曲録れる。不安は確信へと変わっていきました。オリジナルのレコーディングに続いて、80’Sバージョン、EDMバージョンとテンポよく進んで行きます。

「お疲れ様でした〜!」

 しっかり予習してきてくれていたおかげで、妹の声を無事にレコーディング完了。あとは、兄のレコーディングになります。

「じゃぁ次、ハモ撮ります〜」

 妹にハモリまではお願いできないので、兄のメインパートを録ったら、ハモリを重ねていきます。妹のディレクションと、兄のレコーディングと、とんぶりにまみれた一日。まだ完成ではないですが、実際の声が入るとよりカラフルになります。

 レコーディング自体は1日ですが、ここから先が長い道のり。声を整えたり、音のミックス、そしてマスタリングへと、根気のいる作業。登山は8合目から大変だそうですが、ここから先はかなり神経を尖らせないといけない段階で、それはそれは精神や体力までをも蝕んでいきます。やはり、完成させるのは特別なエネルギーが必要。だからこそ、できた喜びは得も言われぬものなのです。

「じゃぁ、これで完パケましょう!」

 そうして約二週間後。とんぶり応援ソング、「とんぶりの唄」が完成しました。もちろん、連日作業していたわけではありませんが、その間は四六時中聴いていました。

 DDPファイルというものを作成し、マスター音源の納品となります。もう、これを提出したら止めることはできません。そして、ジャケットや歌詞カードなどの紙の納品も終わり、あとは完成を待つだけとなります。

「明日、届くそうです」

 レコーディングから2ヶ月ほどたった頃、段ボールが届きました。大丈夫だろうかと、ドキドキしながら開けると、中にはぎっしり、とんぶりが詰まっていました。

 配信やストリーミング・サービスなど、音楽の聴き方は多様化し、時代も変わりましたが、それでもこうやってCDとして形になる喜びや高揚感は他では得られないもの。どうか、このCDが一人でも多くの人の手に渡り、とんぶりの輪が広がりますように。そして、とんぶり応援ソングではありますが、みんなへの応援ソングでもあります。日々、辛いこともあるけれど、とんぶり食べていきましょう。この唄が、春の風に乗って、多くの人の心に届きますように。

 

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2019年03月08日

第781回「とんぶりの唄ができるまで〜中編〜」

 

「♪とんぶり食べましょ〜とんぶり食べなくてもそんなに人生は〜あんまり変わらないけど〜」

 メロディーに言葉がはまりやすかったのは、きっと、「とんぶり」という響きのおかげ。語感が良かったです。「とんぶり」「あんまり」「そんなに」「たっぷり」。ほのかに韻を踏むように、フレーズがスルスルと降りてきます。曲を作りたいと思った要因の一つは、この「とんぶり」という名前のキャッチーさがあったからでしょう。

 今回、一緒に歌うのは若林史江さん。かつて、ザ・おかわりシスターズでもCDを出しました。「恋はおかわり」と「期待感ゼロ」と、2曲レコーディング経験があったので、歌声のイメージはしやすかったのです。

「今回は、男女のデュエットで行こうと思います!」

 当初は、僕が作って若林さんが歌うのがいいと思ったのですが、曲調がみんなで歌う雰囲気になったので、二人で歌うことにしました。

「アーティスト名は、とんぶり兄妹!」

 そのことをデザイナーに伝えると、数日後、妙なイラストが戻ってきます。

「こ、これはいい!」

 とんぶりを頭にかぶった謎の生き物。可愛いのか気持ち悪いのか、とにかく見た目のインパクトが凄い。落書きのようなスケッチのおかげでイメージが固まり、敵か味方か、謎の生命体「とんぶり兄妹」が誕生しました。

 あくまで僕と若林さんは声の出演で、表に出るのは「とんぶり兄妹」というキャラクター。そういう意味では、ザ・おかわりシスターズのときと多少コンセプトが変わりました。このキャラクターを見ていたら、イメージがさらに膨らみます。

CDにしてしまおう!」

 ザ・おかわりシスターズのときも、レコーディングは一曲だけで、あとはリミックスを入れてCDにした経緯がありました。今回も同様の流れでできるのではないか。一つのメロディーラインができれば、様々なバージョンの「とんぶりの唄」を作ることができる。出会って数ヶ月でCDにする現象としての面白さと、一曲では収まりきらなかったとんぶりに対する愛情があれば、決して困難なことではありません。年末年始の時間のあるところで、一気に別バージョンのアレンジを作成しました。正直、この手の作業は大変ではありますが、楽しくて仕方ないのです。

 そうして、オリジナル、80’SEDMという、全くカラーの違う曲調のとんぶりの唄のデモができました。もう一曲は、ピアノバージョンのインストルメンタルを入れて。しかし、若干の懸念はありました。

 オリジナルがゆったりとした歌い方なので、それをリミックスするのはなかなか厳しいところがあります。テンポはもちろん、ノリが違う。なので、一度歌った素材を流用するのではなく、それぞれのバージョンごとに歌うことになります。レコーディングでの負担が大きく、1日に何曲も歌えるだろうか。そんな不安の中、レコーディングの日を迎えました。

 

PS:ダウンロードしてくれた皆さん、ありがとうございました!

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2019年03月01日

第780回「とんぶりの唄ができるまで」

 

 昨年12月。目の前のテーブルに、キャビアのような形状のものが小皿に載っていました。この番組の予算からして、そんなことあるだろうか。

「それでは、とんぶりを使って調理をしたいと思います」

「とんぶり?」

 もしかしたら、それまで目にしたり、耳にしていたかもしれませんが、しっかりと意識に届いて認識したのはその時が初めてでした。

「畑のキャビアと言われるんですよ」

「畑の、キャビア?」

 どうにも頭で処理できません。これはキャビアの劣化版なのだろうか。恐る恐る口に入れてみると、確かに食感はあるものの、とりわけ味もなく、どう解釈したらいいのでしょう。そんな中、明太子のパスタに投入されていくとんぶり。すでに明太があるのに、そこにこの緑のつぶつぶを混ぜたところでなんの意味があるのだろうと、それほど期待せずに口に運びました。

「なにこれ!ちょー美味しい!!」

 衝撃でした。この多幸感。歯ごたえが全然違います。とんぶりがいるだけで、劇的に美味しさが増しました。聞くところによると、山芋や納豆、ツナマヨに混ぜたり、醤油を絡めてご飯にかけたり、色々な場所で発揮するのだそう。味がしないのは決して欠点ではなく、他の食材とぶつからず、その食感はチームに馴染むどころか、全体を盛り上げる長所に変わっていました。しかも、魚卵ではないので、とてもヘルシーです。

「ほうきの材料?」

 さらに驚きがありました。ほうきの材料となる箒木の実。これがとんぶりの正体。今は食べ物はたくさんありますが、昔は決して豊かではありません。どうにかして食べられるものはないかと、厳しい環境の中で生まれたのが、この小さな小さなとんぶりでした。そんな、ひもじい人々を救ったとんぶりですが、現在、深刻な事態に直面しています。とんぶり農家さんが減少しているようです。

 僕自身、その時まで知らなかったくらいですから、決して認知度が高いわけではありません。それが農家さんの後継者不足に繋がり、今ではごく一部でしか栽培されなくなってしまいました。このままでは絶滅してしまうかもしれない。そういった背景を知るにあたって、僕のとんぶりに対する気持ちが膨らみ、居ても立ってもいられなくなり。

「曲を作ろう」

 タンクから溢れて出しました。いつもスタートはそう。感情が音楽の原点。微力ながら、一人でも多くの人に「とんぶり」を知ってもらいたい。とんぶりと、とんぶり農家さんへの応援ソングを作り始めました。

 鍵盤と向き合っていると、やがて、天から降ってくるように、メロディーラインと言葉が合致する瞬間が訪れました。

「これでいこう!」

 とんぶりに出会って、まだ二週間ほどのことでした。

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