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2018年03月30日
第742回「はじめてのニューカレドニア」
「絶対に、外には出ないでくださいね」
その言葉を聞いたとき、まさか自分がその要望を突き破ることになるとは夢にも思っていませんでした。
深夜のラジオを終え、数時間後には成田に向かう車に乗っていました。土曜日に発ち、月曜日の昼に戻るというなかなかハードな海外ロケ。でも、断りたくなかったのは、さまぁ〜ずさんの番組だったからでしょう。
「これがポケットWiFiで…」
久しぶりの海外。それも今回は、訪れたことのない島。スタッフに見送られ、ゲートをくぐりました。直行便で成田から8時間ほどですが、日本より2時間早いので、到着は夜の11時。そもそも南国に強い関心を抱かなかったのもありますが、ニューカレドニアは小さい頃から耳にはしていたものの、実際どこにあるのか知りませんでした。フランス領なので、挨拶は「ボンジュール」。現住民の言葉もありますが、無数にありすぎて「アロハ!」のような共通フレーズがないのだそう。
空港を出ると、民族楽器を抱えた人たちのパフォーマンスを観ながら、車に乗り込みました。冬の日本からやってきた南国の空気。移動中こそ窓を開ければ問題ないですが、ホテルの部屋ではエアコンをつけずにはいられません。なんだか、もわっとするなぁ…。ロケは翌日のお昼から。それまで時間はあるものの、出演者本人に見つかってはいけないので、ホテルから出ないようにと伝えられていました。移動の疲れもあり、南国に来たというのに、気分が高揚しないまま眠りに就きました。
「おお!これは!!」
ベッドから体を起こすと、目の間にマリンブルーの海が広がっていました。かつて、メキシコのカンクンで見た海にも感動しましたが、それに匹敵する色。ベランダでシャッター音が何度も響き渡ります。
朝食。ホテル1階のオープンテラスはすでに燦々と太陽が降り注いでいます。昨晩のじめっとした空気が嘘のように、心地よい風が吹いていました。日本人もちらほら。コーヒーを飲みながら眺める海は、道路を挟んで数十メートル。テラスからそのまま出ることができます。
「ここなら大丈夫だろう…」
写真を撮ろうと、席を立ちました。この道路を渡らなければ、きっと大丈夫。自分の中で決めていました。しかし、海をより間近に感じた僕の体は、言うことをきかなくなりました。
「これはまずいな…」
いてもたってもいられなくなっています。こんなにうずうずするとは思っていませんでした。頭の中をリフレインするスタッフからの忠告。
「絶対に、外には出ないでくださいね!」
そうして、私の体は、道路を横断し始めました。
2018年03月23日
第741回「サクラサク」
京都から東京に向かう新幹線の車内で僕は、いちごのアイスにプラスチックのスプーンを差しては抜いていました。季節限定のみかんがなくなってさみしくなっていた僕の心を埋めるように現れた、同じく季節限定のいちごのアイス。ミルクとの掛け合わせが絶妙で、いちごミルクのような味わい。往きでも食べたのに、帰路でもカートを呼び止めてしまいました。車内販売のそれはとても堅いことが有名ですが、このアイスはさほど格闘することなくスムーズに口に運ぶことができます。いちごとミルクの絶妙なハーモニーが、二日酔い気味のの体の中でゆっくりと融けていきました。
「雪だ…」
降るかもという予報こそありましたが、正直、雪だるまのマークを信用していませんでした。こんなに降るなんて。春分の日。神奈川や東京は本格的な降雪で、車窓は一気に雪景色に変わります。先日まであんなに暖かかったのに。非常にはっきりとした三寒四温に、心を躍らせてしまう午後。咲き始めた桜を覆う雪は、どこかおいしそうで、思わずプラスチックのスプーンですくいたくなります。
「うん、美味しい!」
しょっぱさと、甘みの交錯するサクラアイスは、苦味の強い珈琲にぴったり。しかし、トンネルにはいると、スプーンは窓にぶつかってしまいました。
この文章が皆さんのもとに届く頃、東京の桜は満開を迎えているのでしょう。梅をじっくり堪能する間も無く、お花見の季節になりました。サクラサク。サクラ散る。出会いと別れの春。卒業の春。
「4月からもよろしくお願いします」
浮き沈みの激しい芸能界。やはり、このフレーズを耳にするとホッとします。こちら側からあまり、「で、4月以降も続くのですか?」とは、少なくとも僕から訊くことはできず、ただじっと、その知らせを待つしかありません。番組によって、早咲きのものもあれば、遅咲きの桜もありますが、この春は、どこの桜も満開を迎えることになりました。「5時に夢中!」のMCも、「きらクラ!」のパーソナリティーも同じ年にスタートしたわけですが、この春で7年目。そして、アベマ・プライム木曜日も、だいぶ雰囲気が落ち着いてきて、見やすくなってきたのではないかと思います。大好きな景色をこれからも眺められることに、とても感謝しています。また、DJイベントや、執筆、曲作りに関しても、僕にとって大事な支え。今まで通りのペースで進めていければと思っています。もちろん、このメルマガも。
新たにスタートするものもありますが、大きな変化こそありません。でも、こうやって春を迎えられること、桜を眺められること、とても幸せなことだと思います。どうぞ皆さん、4月からもよろしくお願いしいます。
2018年03月16日
第740回「イエロー・カーペット?」
「映画界では、ここがイエロー・カーペットと呼ばれているそうです」
MCのウィットに富んだ表現に、スタジオはもちろん、お茶の間まで爆笑の渦だったかはわかりませんが、なぜだか世界的ビッグ・スターがやってくるようになりました。ジョディー・フォスターにサモハン・キンポー。そして今回のリュック・ベッソン監督。とてもいちローカル局とは思えません。一体どうして。これは快挙であり、ミステリーでもあります。
「レオン」「グラン・ブルー」美しい情景や心情を描いた作品がある一方で、「TAXi」や「フィフス・エレメント」など、アクションやSFの要素が強いものもあります。当時、おしゃれなカフェには必ずと言っていいほど「レオン」や「ニキータ」のポスター、ポストカードが飾られていました。好きな映画はと訊かれれば、誰もが「レオン」と答える時代がありました。繊細で美しいだけではなく、おしゃれさがありました。そんな世界的に称賛されている監督が、この薄汚れたイエロー・カーペットにやってきました。
「そりゃぁ、この番組が一番だからさ」
「レオン?もう昔のことで忘れちまったさ」
「髪の色?別に意味はないさ」
「愛と宇宙?そりゃ愛に決まってるだろ」
大好きな映画を作った人物がいま、目の前にいる。私の質問に応えてくれている。限られた時間ではありましたが、とても貴重な経験でした。
「愛とは、許すこと」
これは映画「ヴァレリアン」の劇中に出てくる言葉。多少表現は違ったかもしれませんが。「許すこと」それは、5時に夢中!の監督、大川局長が大切にしていることであり、私が肝に銘じていること。ここに共通項がありました。そう考えると、このスタジオにいらっしゃることも決して偶然ではなかったのかもしれません。
「もう一回、劇場で観てみたい!」
このような仕事をしていると、DVDで鑑賞する機会が増えてしまいます。もちろん、iMACの画面でも十分楽しめましたが、キャラクターの動きが非常に丁寧に描かれていて、大画面でも味わいたくなりました。「レオン」から二十余年。様々な色彩こそありますが、大切にしているものは変わっていない気がします。リュック・ベッソン監督には、まだまだ今後も期待してしまいます。さて、次はどんな世界的スターがイエロー・カーペットにやってくるのでしょうか。
2018年03月09日
第739回「YOU GET WHAT YOU GIVE」
「とてもカラフルなステージでした!みんな輝いていました!」
最後にマイクを渡された僕は、周囲を見渡しながら話しました。
先日、事務所のナンバー1芸人を決める、「ワタナベお笑いNO.1決定戦」が行われました。これまでも何度かありましたが、二年ぶりのMCを務めることになり、生放送を終えるとすぐにタクシーに乗り込みました。自分の車ではないのは、その後の打ち上げで飲む気満々ということ。普段は、あまり事務所の後輩たちと接する機会が少なく、飲みに連れて行ったりすることも滅多にないので、僕の楽しみはそこでもありました。
「あれ?ここ来たことあるな」
ライブの打ち上げ会場は、かつてDJメンバーの結婚パーティーで訪れたことのあるお店。戦いを終えた戦士たちが続々と集まり、貸切の会場は一気に熱気に包まれます。今夜はたくさんの後輩たちと話をしよう、そんな気分でした。
「おい、ふかわ、ハンバーガー食うか?」
僕が事務所の門を叩いて間もない頃。もちろんテレビにも出ていないし、事務所のライブにちょこっと出ただけ。そんな超が付く駆け出しの僕に声をかけてきたのが、今やお昼の顔でもある恵さん。その日は、月に一度の事務所のライブの日で、当時MCを務めていたホンジャマカさんは本番の少し前に姿を現しました。他に若手がたくさんいる中でなぜ僕に声を掛けてきたのかわかりませんが、それがはじめての会話でした。
「フッくん、一緒に飯食いに行くか?」
そう声を掛けてきたのが、ネプチューンの堀内さん。これもまた事務所のライブの日。当時ライブのトリを務めていたのがネプチューンさんで、当時はまだテレビにも出演していない頃。はじめてネプチューンさんのコントを観た時は、こんなに面白い人たちがいたのかと激しく感動したものです。そんな憧れの人である堀内さんに声を掛けられるなんて。後にも先にも「フッくん」と呼ぶのは堀内さんだけですが。
こんな僕でも、気にしてくれている。先輩が話しかけてきてくれた。これほど嬉しいことはありませんでした。
だから、今夜はできるだけ動いて、話し掛けに行きました。みんなを褒めて回りました。先輩風は吹かせたくありませんが、ほんの少しでも後輩たちのエネルギーになってくれれば。そんな想いで、お酒を飲み交わしました。
「今日私が感じたものは、決して昨年の余熱ではなく、新たなエネルギーでした!みなさん、これからも頑張ってください!」
気がつけば、先輩の方が少ない立場になりました。まだまだ頼りないですが、多くの後輩たちが憧れるような存在になれるように。後輩たちのエネルギーになれるように。今夜はすっかり、後輩たちからエネルギーをいただいてしまいました。
2018年03月07日
第738回「ずっと変わらない」
「すっかり、国民のアイドルになりましたね」
誰もいない地下のロビーにそのスターはいました。テレビなどでよく拝見するので、久しぶりな気もあまりしないのですが、もしかすると直接お会いするのは数年ぶりかもしれません。
「いやぁ、別に俺は何も変わってないんだけどね」
いつもの調子で笑いながら言うと、ベンチに腰掛けました。確かに何も変わっていない。昔から芸人さんの間では愛されていて、彼を悪く言う人なんていませんでした。
「抱かれたくないのはいいけど、嫌いって言うのはダメなんだよ」
かつて、雑誌の恒例企画だった「抱かれたい男」ランキング。その手のランキングの常連でもありましたが、当時そんな風に洩らしていました。
「嫌いっていうのは、笑いに繋がらないんだよ」
好きな人の言うことはなんでも笑う反面、嫌いな人だと何をしても笑えなくなってしまう。だから、「抱かれたくない」の1位は痛くも痒くもないけど、「嫌いな芸人」の1位は本望ではないのだそう。後輩の我々からすれば、本当に嫌っている人なんていないと思っていましたが、彼はしきりに気にしていました。
「ポスト出川は、お前だからな」
かれこれ15年ほど前に遡ります。隣に座った彼の手が何気なく僕の膝の上に乗りました。顔は笑っていたのでどこまで本気だったかわかりませんが、なんと言うか、身体中に電流が走るような感覚がありました。その言葉は大変光栄であり、嬉しくもありました。しかし、恐れ多いと言うか、あまりに大役すぎるし、やすやすと担えるものではありません。僕のこれまでの活動をふりかえると、それに近い時期はあったかもしれませんが、でも、出川さんの役割は出川さんにしかできないもの。やはり、「ポスト出川」と言うポジションは誰にも担えないのだと思います。
あれから時は経ち、気がつけばバラエティー番組はもちろん、多数のCMにも起用され、「嫌い」どころか、もはや「ゆるキャラ」のように老若男女、国民に愛される存在になりました。スクーターで旅する番組の、行く先々で歓迎される雰囲気は、まるでミッキーマウスのようにすら見えます。
「そうだ、思い出した!お前、夕方の番組で俺の悪口言っただろう?」
「言うわけないじゃないですか!」
「みんなにかわいそうって思われたらアイツも終わりだ、とか」
会うといつもこんな調子です。ワンボックス・カーがやってきました。
「今日はもう終わりですか?」
「これから海外だよ」
日曜のお茶の間に笑顔を届ける仕事。車に乗り込むと、じゃぁなと言って去って行きました。確かに、何も変わっていない。きっと、これからも変わらないのでしょう。