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2016年06月26日
第664回「風営法改正にともない?」
クラブに行ったことがない方でも、風営法改正という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。もう何年も前から改正を求める動きはあり、僕も署名などをして応援してきましたが、遂に、条件付きではありますが、念願が叶った形となりました。これによって、クラブ運営がしやすくなったのです。少なからず、東京オリンピックが追い風になったのではと思いますが、これまでは、深夜、人を踊らせてはいけなかったのです。ゆえに、あまり声高にインフォメーションもできない部分もありました。
そして、7月からAbemaTVにて「ふかわりょうのCLUB TV〜CLUBを10倍楽しくする方法〜」という番組がはじまります。これも、いままでDJを続けてきたからこそいただいた仕事だと思っていますが、地上波ではないにせよ、こういった番組が生まれるのも、クラブというものがかつてのアンダーグラウンドなものから完全に地上にでてきたことを象徴しています。いまや、ダンスミュージックは世界的ムーブメントとなり、一流のDJは年間数十億もの収入があります。これはまさしく、世の中がダンスミュージックを求めていることの証。クラブカルチャーは、もはや一部の者だけのものではないのです。
こうして、クラブカルチャーがさらに勢いを増しているいま、僕は、ある決断をしました。それは、三宿でやっているロケットマンデラックス。16年続けてきましたが、念願の風営法改正のタイミングで、時間帯を早めることに決めました。
風営法改正には署名をし、応援してきました。でも、時が経ち、ようやくそれが現実味を帯びてきたとき、僕のなかで心境の変化がありました。
「果たして、深夜帯である必要があるのだろうか」
風営法改正には賛成です。しかし、僕自身は、深夜にこだわらなくてもいいのではという意識もありました。というのも、いまとなっては、深夜にこだわらなくても、いつでもDJイベントができる土壌になっていることを実感したからです。
いろんなイベントやパーティーに呼ばれ、クラブじゃない場所で、とってつけたようなDJタイムに呼ばれることがありました。かつては、あまり理解されませんでしたが、いまや、受け入れ態勢ができています。むしろ、イベントにDJタイムは欠かせなくなっています。もう、ダンスミュージックは、ディスコやクラブだけのものではないのです。
だから、終電で帰るどころか、始発でやってくるモーニング・ディスコや、子供たちを対象にした、チャイルド・ディスコ、みたいなものがあってもいいでしょう。もう、いつでもどこでも、DJイベントはできる時代がやってきたのです。
これによって、クラブのイメージがこわくて二の足を踏んでいる人や、ひとりで来るお客さんも、電車のある時間なら少し安心できるかもしれません。
禁煙にしたり、時間帯を早めたり、クラブのイメージの逆に進んでいるようにもみえますが、「こうじゃなきゃいけない」という概念に縛られたくないという思いもあります。
一見、まるで時代に逆行しているような決断ですが、そんなつもりはありません。むしろ、時代の空気を読んでの決断。ただ、このタイミングを狙ったわけではないですが、僕の性格上、このタイミングだから踏み切ることができたと思います。テコの原理のように。もちろん、ゲストDJとしては深夜帯もDJをすることはあるでしょうし、お店の都合で、ロケットマンデラックスも深夜帯でやる回もあるかもしれませんが、定時は19時〜24時でやっていくことになります。もう、いつでもどこでも、音楽さえあれば、みんなが楽しめる土壌はできているのです。
ということで、7月からロケットマンデラックスは終電で帰れるイベントになります。どうぞ、これからも宜しくお願いします。
2016年06月19日
第663回「ままどおるのため息」
「忘れたら最悪だなぁ。絶対忘れないようにしないと…」
そう肝に銘じて、紙袋を上の棚にするっと滑らせるように置きました。
「一本早いのに乗れそうですね」
番組の収録がおわると、楽屋に戻らずそのままタクシーに乗り込みました。できることなら、ゆっくり温泉に浸かり、おいしい食事でもして帰りたいところですが、まだ東京でやることが残っていたため、いわゆるトンボ返り。しかしながら、タクシーの車窓を流れる自然の景観、深い緑や蛇行する川、緩やかな起伏の稜線は、眺めているだけで、心が和んでいきました。
「今度はぜひ、ゆっくり」
ほとんど信号もなく順調に峠を越えたので、余裕を持って駅に到着しました。売店に立ち寄ると、おいしそうな文字が並んでいます。会津喜多方ラーメン、白河ラーメン。普段あまりお土産を選んだりすることがないのですが、この手の、家で作るラーメンの引力に負けてしまうことがあります。
「東京に9時前に着くのか」
新白河から東京まではおよそ1時間半。白河ラーメンと、福島の銘菓「ままどおる」が僕の頭の上で眠っています。コーヒーを飲んでいるうちに、都会のネオンのなかに吸い込まれていきました。
「家に帰ったら曲作らなきゃ」
そう思って、車のドアを開けたときです。ただならぬ違和感を覚えました。
「もしかして…」
最悪なことが起きていました。そうです、棚に置き忘れてしまったのです。あんなに肝に銘じたのに、時間が経って、すっかり忘れてしまったのです。
「最悪だ…」
じわっと汗がでてきます。いまから戻ったところで、もうあの車両に戻れるわけではない。どうしたらいいのか。捨てられてしまうのか。もう諦めるのが手っ取り早いのか。いや、たかがラーメン、されどラーメン。それに、日本は、忘れ物が持ち主に届くことがたびたび耳にします。ケータイにしても財布にしても、海外では考えられないくらい、必ず帰ってくる治安のいい国。きっと、あの土産も戻ってくるはず。できることはやってみよう。
「本日の受付は終了いたしました」
電話越しに、コンピューターの声が聞こえてきました。
「だから言ったんだんよ、きっと忘れるよって」
「あんなに肝に銘じていたのにね」
ラーメンと、ままどおるたちが話していました。
「いくら肝に銘じたってだめなんだよ。人間は忘れる生き物。新幹線でスマホをいじっているうちに、僕らのことなんて忘れてしまうのさ。」
「そう、東京の人間なんてそんなもん!」
すると、一人のままどおるが心配そうに言いました。
「わたしたち、どうなっちゃうの?」
「ある程度の期間を過ぎたら…」
「過ぎたら?」
「処分かな」
「処分?!」
ままどおるは、目を丸くしました。
「処分って、わたしたち、なんのためにここまでやってきたのかわからない!せっかくおいしくなったのに!」
「仕方ないさ、僕は棚に乗せられた時点で、もう、それを覚悟していたよ。」
ままどおるたちから、大きな息が漏れると、紙袋がすこし膨らみました。
「やっぱり来ないね…」
「諦めたのかな…」
東京駅の忘れ物センターで一夜を過ごしました。
「あきらめちゃだめだよ。信じることが大事さ」
その声は、近くにいたうなぎパイでした。
「ワシなんか、置き忘れられるどころか、期間を過ぎていることさえ忘れられている。でも諦めていないんだ。他人を信じることは、己を信じること」
すると、ままどおるたちは顔を見合わせました。
「なんだか、走れメロスの気分!」
「そうだね!信じることが大切!」
「やってくるさ、きっと」
すると、係りのおじさんが入ってきました。
「あ、きた!」
「次は、だれかな?」
母親が迎えを待つ子供のようでした。
「9号車、9号車…」
そうつぶやくと、係のおじさんが紙袋をすっと持ち上げました。
「やったぁ!迎えにきた!」
「おめでとう!信じていたからだぞ!」
「ありがとう、あなたも、いつか!」
うなぎパイが涙を浮かべていました。
「ありがとうございます!」
そうお礼を言うと、僕はあのとき棚の上に乗せた紙袋を受け取りました。もちろん、中身もすべて無事。さすが、日本!さすがJR!
「ふかわさんですよね、いつもラジオ聞いていますよ、クラシックの」
置き忘れた衝撃、自責の念、そして再会の喜び、それらすべてが今回のふくしま土産でした。安心したのか、紙袋がまた少し、膨らみました。
2016年06月12日
第662回「今年も開催!!」
ということで、今年も開催することになりました、「ROCKETMAN SUMMER FES’2016 thank you for the music!」。おかげさまで、今回で7回目。昨年が盛況だったからきっと今年もやるだろうと思っていた人も、その発表を待っていてくれていたのではないでしょうか。出演者はROCKETMAN and moreと、ある程度予想はつくにせよ、ほとんど情報がないにもかかわらず、先行で購入されたみなさんには本当に頭がさがります、ありがとうございます。
現段階でお伝えできる範囲は限られているものの、これまでとの大きな変更点に目が留まったかと思います。そうです、開催場所。恵比寿ガーデンホールになりました。関東の方であれば、ピント来る方も多いでしょう。同じ恵比寿でも、こちらはガーデンプレイスの中にあるホール。演劇なども行われる場所。若干ではありますが、キャパシティーも増えました。ロビーなどを含め、全体的に空間に余裕があるので、これまでパニック寸前だった開場前もかなり緩和されると見込んでいます。リキッドルームの雰囲気も好きなのですが、場所を移したのには、理由がありました。それは、「座って観たい」という声です。
16時から22時まで、6時間ものイベント。はじめから終わりまでいるとは限りませんが、トイレにもいけず、ずっと立ってみているのはかなりしんどいもの。家からの時間なども含めれば、かなり体力も消耗します。10代20代のお客さんばかりならまだしも、幅広い層の方に楽しんでもらっているので、やる側としても、胸が痛くなってしまうのです。実際、リキッドルームは椅子が十数席ほどしかなく、結構な争奪戦。なので、ゆったり座ってみられる場所を設けたかったのです。
ホール後方に200席以上の椅子席があり、入場者であればどなたでも座れる場所を設置しました。疲れたら空いているところに座ってください。もちろん、ずっとそこで眺めていても大丈夫です。ここなら翌日にも支障をきたさないでしょう。座席もあり、スタンディングでも楽しめる場所。そういう目線で探していたら、リキッドルームの目と鼻の先にありました。ひしめきあうのも好きですが、今回は、いろいろな局面で快適に楽しんでほしい、ということを優先しました。
そしてもうひとつ、チケット代金。引き上げました。昨年が赤字だったわけではないのですが、いわゆる「採算が合わない」というところもあり。なので、料金に見合った、いやそれ以上のエンターテイメントになるように、やれるだけのことはやりますので、どうか楽しみにしていてください。
ということで、7回目のロケフェスは、恵比寿ガーデンホールになりました。先行販売は6月18日(土)までとなっております。チケットに明記された番号順に入場となりますので、座って楽しみたい方は先行でお買い求めになることをお勧めします。もちろん今回も、先行でご購入された方には受付でノベルティーグッズを差し上げます。一般発売は6月19日(日)よりローソンチケットにて販売されます。さぁ、夏の準備はいいですか。
2016年06月05日
第661回「劇場版を終えて」
「お疲れさまでした!!」
渋谷からほど近い距離にあるお店。僕とふたりのマネージャーと、平野ノラ、佐々木くん、米田さん、そして平松くんのグラスが集まりました。かつてのスタッフが全員集まることは無理でしたが、こうしてまた土曜の夜のメンバーが一堂に会したことは、非常に清々しいものでした。
「やっぱり、時期がよかったですね」
だれが言ったかは忘れましたが、たしかにそれはあるかもしれません。番組が終了した直後でも、だいぶ経ってからでもなく、本能的に僕が求めた時期。それは、植物の開花までにかかる時間。番組終了を消化するのにおよそ1年半かかったということかもしれません。
「あれからどれくらい経ったことでしょう。あの伝説の最終回から、いくつの夜が通り過ぎたことでしょう」
そんなひとり語りからはじめようと決めたのは当日の朝。前述のような言葉がぽこぽこ降りてきて、緞帳の前で話している映像が頭に浮かんだのです。
「それでは劇場版ロケットマンショー、スタートです」
淡々と伝えると、あのオープニングテーマが流れだし、緞帳がゆっくりとあがりました。舞台上にはどっからどう見てもラジオブースにしか見えないテーブルが現れ、上には、筆文字でタイトルが描かれています。
「それではお呼びしましょう、平松くんです!!」
軽い挨拶のあと、なりやまない拍手を制し、それぞれブースの椅子に腰掛けました。表舞台でこのふたりが顔をあわせるのは番組終了後はじめてで、それ以外でも、まるで離婚した夫婦のようにほとんど会話することのなかったふたりですが、いざはじまってみれば、彼の「あいかわらず」な部分が功を奏し、まったくブランクを感じさせないハーモニーになりました。
途中、平野ノラのパフォーマンスや、岩下尚史さんを迎えてのカフェコーナーなどもありましたが、基本的には、僕が日常生活で引っかかっていた胸の支えを取り除く作業。メモをしたまま消化できずにいたことを、ひとつひとつ消化していきました。
懐かしいジングルやBGMが流れたり、ロケットマンショーのエッセンスこそ散りばめていましたが、今回は、再現することにあまり重きをおきませんでした。「劇場版ロケットマンショー」という言葉から、さまざまな想像、期待があったかと思いましたが、僕が伝えたかったのは、ロケットマンは生きている、ということだったからです。
「自分に嘘つくなよ〜」
そうして、約2時間の劇場版ロケットマンショーは幕を降ろしました。すっかり喉は枯れてしまいましたが、とても心地よい時間でした。僕のなかで、新しい音がきこえてきました。