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2015年07月26日
第623回「胃薬を忘れずに」
「はい、お待たせしました、当店自慢のスペシャルプレートです!」
目の前に出された一枚のお皿には、スパゲッティーやピザ、オムライスにフライドチキン、そしてフライドポテトやソーセージまで、こんもりと盛り付けられていました。それはちょっとした丘陵地帯。頂上には旗が立っています。
食べ物に変換すれば、そのようなことでしょう。見るからにハイカロリー。胃もたれ必至。お皿から溢れているし、食べきれるとは思えません。第六回となる今年のロケットマンサマーフェスは、おかげさまで史上最高のハイカロリーなイベントになりそうです。
いつものメンバーも、新しい顔ぶれも、今回もたくさんの方の力をお借りして、一夜限りの「夏」を盛り上げてもらいます。
まずは、おなじみ中塚武さん。僕の兄貴的存在。ロケフェス定番となっているあの曲は今年も聴けるのでしょうか。続いて、ナカムラヒロシさん率いるi-dep。sotte bosseも含めると、こちらもほぼ毎年。リキッドルームに虹は架かるのでしょうか。そして、大ブレイク前夜だった2年前、「もうこの距離では会えないから、今日が見納め!」とみなさんに伝えたとおり、昨年は本当に大忙しで届かないところにまで行ってしまったmay J.さんが、今年はロケフェスに帰ってきてくれます。日本を代表する歌姫となった彼女は今年、あの空間でどんな歌声を披露してくれるのでしょうか。
初参戦の目玉のひとつとしては、やはりDJ kooさん。奇しくもバラエティーで何度も共演させてもらい、いまではメールのやりとりをするほどとなりましたが、番組の企画はあったものの、DJとしての本格的な共演ははじめて。TRF世代としては感動もひとしお。鳥肌が立ってしまうかもしれません。そして、こちらもおなじみになりつつあります、DJ KAORIさん。Kooさんと並んで、日本を代表するDJがリキッドルームをあっという間にダンスフロアにしてしまうでしょう。世界のDJプレイをぜひ堪能していただきたいです。
世界といえば、ヒューマン・ビートボクサーのdaichiくん。あどけない表情から繰り出される数々の技はまさに世界級!毎回毎回、新技を披露してくれていますが、今回はどんな技を見せてくれるのでしょうか。そして、まさかのk dub shineさん。泣く子も黙るキングギドラのリーダー。日本のヒップホップ界を牽引してきた重鎮がロケフェスに初参戦!どんなラップを披露してくれるのでしょうか。
「5時に夢中!」からは、誰よりもこのイベントを愛してくれている岡本夏生さんや、ディスコクイーン美保純さん、そして昨年、リキッドルームを笑いと妖艶の世界に誘ってくれた岩井志摩子さんに加え、金曜日からミッツ・マングローブさんが初参戦!さらに妖艶な時間が増すことでしょう。僕に影響されてDJをはじめたジョナサンをのぞく黒船メンバー全員も参加。ガウちゃんの歌声も響くことでしょう。そして、そうです「ザ・おかわりシスターズ」が、奇跡のアラフォー・アイドルユニットとして初参戦! 目下ダンス特訓に励んでいる彼女たちの、番組ではみられない勇姿をぜひご覧ください。
ぐいぐいきている若手枠、バブル芸人・平野ノラも初参戦。肩パット増量でバブリーな夜にしてくれるでしょう。もちろん、三宿ロケデラチームもオープニングからあたためてくれます!
さぁ、これだけのメンバーが一堂に会していいのでしょうか。果たして6時間というお皿にはいりきるのでしょうか。だれがカロリーをあげているのか、だれがフライドチキンなのかわかりませんが、正真正銘、異種格闘技。楽屋はもちろん大混乱。もはや、音楽フェスというよりサーカスと呼ぶべきかもしれない今年のロケフェスですが、実は、まだ発表していない人がいます。え?まだなにか増えるの?そうです、いるんです!これだけハイカロリーなイベントに、さらなる人物が加わります。さぁ、このスペシャルプレートに加わるのはいったいどんな味なのでしょうか、それは次回お伝えします!
2015年07月21日
第621回「きらきら星はどこで輝く〜第10話 遅れてきた少女」
「じゃぁ、もらっていない人はいませんね?」
羊たちが草を食んでいるポストカードが全員の手に行き渡ったところでした。
「すみません、わたし、まだです!」
そういって現れたのは、見るからに部活から抜け出してきたような、青いジャージ姿の少女。
「部活から直接来たの?」
「はい!」
「そっかぁ、大会前だから、しょうがないよね?水泳部だったっけ?」
「いえ、陸上部です!」
部活の練習で遅刻した設定で進む会話に、笑いが起こりました。それにしても、いままでこの真っ青なジャージの存在に気づかなかったのでしょうか。
「もしかしてキミ、いま来たわけじゃないよね?」
おそるおそる尋ねました。
「はい、いま来ました!」
「じゃぁ、一曲も?」
「はい!」
その清々しささえ感じる返答に、会場が再び笑いに包まれます。彼女は母親とチケットをとっていたようで、母親のほうは最初からいたものの、娘の彼女は部活が長引いたため、急いで来たものの、すべてのプログラムが終えてからの到着になってしまったとのこと。
「しょうがないなぁ…」
それを知ってしまったら、このまま帰すわけにいきません。とはいえ、いまの僕になにができるのでしょうか。ピアノの前に向かうものの、楽譜はすべて楽屋にあり、楽譜なしで弾くとなると、もう、この曲しかありません。
「集中力切れちゃったから、つまずいたらそこで終了だからね」
すでに帰る準備をしていた羊たちがみな、一斉に腰をおろしました。そしてピアノの前に座ると、ドビュッシーのアラベスクを弾き始めました。この曲は今日、前半に弾いた曲で、今回のために楽譜なしでチャレンジした曲でもあります。途中で旅立ちそうになったものの、どうにか最後まで弾くことができました。
「ごめんね、一曲だけで」
申し訳なさそうに伝える僕の体は、充足感に包まれていました。なんというか、弾きたいように弾けたという実感がありました。同じ楽譜なしでも、本編で弾いた時とは確実に、なにかが違いました。「間違えないように」という意識で弾いた演奏と、「もうどうにでもなれ」という意識で弾いた演奏の違いかもしれません。大きな差はないかもしれないけれど、それは、なにか、大きなものを掴んだ手応えでした。
「キミのおかげで、今日はぐっすり眠れそうだよ」
彼女が遅刻してこなかったら、この感覚は味わえませんでした。きっと、自分の不甲斐なさにいらいらして、なかなか寝付けなかったことでしょう。それにしても、この曲を楽譜なしで弾くことにチャレンジしていなかったら僕はあのとき何を弾いていたのでしょうか。偉大なる遅刻。偉大なる部活少女。彼女はフーマンに力を与えてくれました。音楽の神様からのプレゼントだったのでしょうか。それは、ソノリウムに光が差し込んだ瞬間でした。
2015年07月19日
第622回「小さなくす玉を割りながら〜2500回を迎えて〜」
「明日、2500回なので」
と、スタッフからオープニングを外でやりたい旨を報告されたときは、正直、耳を疑いました。というのも、以前2000回という節目を迎えたことは記憶にあったのですが、それから500回も進んだ実感はなく、まったく身に覚えがなかったのです。「10周年」に気をとられていたこともあるかもしれません。
「あれから2年経つのか」
光陰矢の如し。この前MX小学校に入学したかと思えば、もう4年生になっています。そりゃ、毎日通っていればいつの間にか100回200回を迎えるもので、積み重ねというのはつくづく大切な営みだと思いますが、放送の度に回数を気にしているわけではありません。本当に、気がつくとという印象。こうやって3000回、5000回と、節目を迎えるのでしょうか。その度に、玄関先で小さなくす玉を割って、いつものように始まる夕方5時。歴代MCが受け継いできたバトンを握って、共演者の方々とくだらないことで笑いながら流れる時間は、60分のシンフォニー。手にする棒は、指し棒であり、バトンであり、指揮棒なのです。
僕は、音楽家に憧れていたもののの、お笑いの道に進みました。音楽家にはなれませんでしたが、こうやって毎日、夕方5時に、指揮棒を振っているつもりです。コメンテーターというそれぞれの楽器。交響曲ではなくコンチェルトかもしれません。マツコ協奏曲のときもあれば、岡本狂詩曲のときもあるでしょう。明るい曲調の日もあれば、静かな調べを届けるときもあるでしょう。とにかく、あの空間にいる人たちは、みんな楽器であって、毎日毎日、その日しか聴けない演奏をしている。日によって楽器こそ違いますが、笑い声という「音」は欠かせません。
「それでは、また明日」
この言葉を毎日言えること。こんな幸せなことはありません。テレビ離れと言われている昨今、毎日観てくれている人たちにも感謝しなければなりません。5時夢オーケストラの演奏を毎日聴きにきてくれる人たち。小さなくす玉をあと何個割れるかわかりませんが、汗をかきながら、日々の演奏会、たのしく指揮棒を振っていきたいと思います。
2015年07月05日
第620回「きらきら星はどこで輝く〜第9話」
「どうして僕はいつもこうなんだ」
楽屋での僕は、不甲斐ない自分に、腹を立てていました。
5月の最後の日曜日。雨予報をはねのけ、すっかり夏のような日差し。夕方なのにまだ昼間のような明るさのなか、僕は会場にはいりました。
「よろしくお願いします」
こんなにも早くここに戻ってくるとは。まだ、懐かしいという感覚さえ生まれていません。前回は9時に会場にはいり、リハーサルなどを経て、14時スタート。今回は17時にはいって、本番は19時から。なので、通しリハーサルではなく、気になる箇所をおさらいする程度。もちろん、自宅で朝からみっちり練習しています。
「2回目だし、ほとんど同じ曲だから、前回よりもリラックスして弾けるにちがいない」
そんな憶測が飛び交うなか、時間が迫ってくると、やはり気分は高まり、心臓が持ち上がってきました。緊張という言葉で表現せざるを得ないほど、体が硬くなってきます。
「あ〜、やっぱりだめだ!」
「どうしてこんな大変なことを選んでしまったんだ!」
「もう、今回で最後にしよう!」
時間が迫るほどに情緒不安定になる僕の心情をよそに、羊たちがゲートをくぐって飛び込んできました。3月に比べ、もこもこ具合は薄まったものの、会場がみるみる白く染まっていきます。
「では、お願いします」
連絡を受けると、楽譜を抱えて階段を降ります。扉が開き、一度深呼吸。えいっと中にはいると、暖かい拍手に包まれました。前回は、現実逃避もあって一曲目を弾くまで10分くらい話をしましたが、今回は話をせずに弾くと決めていました。
お辞儀をして椅子に座ると、拍手でほぐされた空間が徐々に張り詰めた空気へと変わっていきます。すべてがカチカチになってしまう前に鍵盤の上に手を載せると、そのまま何も考えずに指を動かしました。音がひとつひとつ、ピアノからこぼれてきます。エリック・サティのジムノペディー第1番。この曲からフーマンの日曜日ははじまりました。
「順番は違いますが、中身は一緒です」
夜公演なので、この曲からにしました。夜に合う曲も今回追加して弾くことになっていました。前回とまったく同じでもよかったのですが、それでは刺激が足りなかったのです。
「この曲はベートーベン作曲と書いてありますが…」
「楽譜が途中で動かないように、裏に画用紙を貼ったのですが…」
前回に比べればだいぶ短くしましたが、それでも時折、座りながら、お話をしました。もしかすると、第一回も観た人にとっては、少し余裕を持っているように感じていたかもしれませんし、実際、少しはあったかもしれません。しかし、僕の胸の内は前回よりも、雲がかっていました。
「どうして僕はいつもこうなんだ!」
楽屋に戻るたびに、そんな気持ちになりました。
「どうして失敗を恐れてしまうんだ!」
それはミスが多いことではありません。ミスを恐れている姿勢に対してでした。
たとえミスなく弾けたとしても、石橋を叩いている姿勢が自分で許せるものではありません。腰が引けてるというのでしょうか。
また、失敗を恐れた結果、家では間違えなかったような箇所でミスが生じてしまう。それで動揺し、また、別の事故が生まれてしまう。羊たちこそ温かい目で見守ってくれますが、厳しい目の人もいました。それこそまさに、フーマンでした。
失敗することを恐れ、ミスタッチをおそれ、石橋を叩きながら弾いている自分。守りに入っている自分。頭ではわかっているのに、いざ、人前(羊前)で弾くとなると、守りの姿勢になってしまう。たしかに間違わないように弾くことは大切なことではあるけれど、それに気を取られすぎて、慎重になりすぎて、自分の演奏ができていない。それは、第一回のときに強く反省したこと。
「それでは、ひとりずつ取りに来てください」
一言感想をいただくかわりに、卒業式のようにひとりずつ今日のプログラムとポストカードを渡します。
「では、もらっていない人はいませんでしょうか?」
そうして、2度目のフーマンの日曜日に幕が降りようとしたとき、信じられないことが起こりました。