« 2006年04月 | TOP | 2006年06月 »
2006年05月28日
第222回「雨上がりの旅路〜後編の前編〜」
「さぁそれでは談合坂に着きましたので、降りる際にアメリカンドックを受け取ってくださいね」
自己紹介が半分も済んでないまま、僕たちを乗せたバスは談合坂サービスエリアに到着しました。西へ進むごとに雨は少なくなり、緑に囲まれた談合坂はすっかり晴れて、上着を脱ぎたくなるほどでした。今回のバスツアーは、名目上サービスエリアの旅なので、ここでアメリカンドックを食べることが一番の目的となります。
「いや、サービスエリアを単なる休憩場所として捉えられては困るんです!」
1ヶ月ほど前にした旅行会社の人との打ち合わせで、僕はサービスエリアの大切さを強調しました。
「ここでただ休憩するのではなく、アメリカンドックを持って記念撮影とかをしたいんです!」
「全員で、ですか?」
「そうです。だから前もって50本ほど予約しておいて、当日みんなに配るんです!」
「ちょっと可能かどうか確認します...」
旅行会社の女性は少し困惑していました、しかし、サービスエリア同好会代表の僕としては譲れない部分でありました。
「では受け取ったらガイドさんに着いて行ってくださいねー!」
打ち合わせで熱弁した甲斐あって、50本のアメリカンドックがはいったダンボールが届けられると参加者全員に配られました。
「みなさんこちらでーす!」
旗をもったガイドさんのあとを大の大人たちがアメリカンドックを持って並んで歩いていく光景は、まさにデモ行進を髣髴させるほどの迫力と怪しさがありました。いま思うと、ガイドさんも旗でなくアメリカンドックを持って先導してもらえばよかったと演出に悔いが残ります。
「それではいきますよー!アメリカーン!」
「ドーック!!」
昭和のバラエティーを思わせる掛け声に合わせシャッターが切られました。こげ茶色の衣が雨上がりの空に映えていました。その後、なぜかみんなその場を動かず、サービスエリアの片隅で50人がアメリカンドックをかじっていました。
「それではこのあとフルーツ公園に向かいますので、引き続き、自己紹介をしていきたいと思います」
途中でとまっていたマイクが再び動き始めました。
「私は、ふかわさんが髪を切ったときに、この人かっこいいなぁと思いまして...」
「え、なんていいました?」
「髪を切ったときに...」
「いや、そのあと」
「かっこいいなぁと...」
「あ、そうなんですかぁ!」
基本的に自己紹介は僕の気分をよくするためのコーナーでした。ちなみに、この週刊ふかわでお気に入りをあらためて訊いてみると、
「群青色に染まる前」、「いつものように」、「デリートマン」、「ふかわの愛した数式」、「music takes me everywhere!」、「大切な場所」などが票を集めていました。僕としても、読者の生の声は、どこに共感しているのかがわかるので、とても貴重でした。なんのことだかよくわからない人は、ハッピーノートをチェックしてね!
「あ、そうですか、そこで感動しましたかぁ!」
悪魔が忍び寄っていることも知らずに僕はみんなの言葉をきいて気分よくなっていました。
「さぁ、高速を降りましたよ!」
料金所を境に、僕のコンディションは急降下していきます。
「ガイドさん、あとどれくらいで...」
嫌な汗が出ているのがわかりました。高速道路を走っているときは後ろ向きで話していても問題なかったのですが、一般道に降り、しかも山道にさしかかると、世界一繊細な僕の体はすぐに異常を来たし、体中の毛穴から妙な液体が出はじめていました。
「ガ、ガイドさん、あ、あと、どれくらいで...」
「えー、もうすぐ着きますよ!あと10分くらいです!」
車窓からはきれいな富士山が見えていました。
「みなさん、富士山が見えますよ!」
富士の頂をみているとき、僕の体は気持ち悪さのピークに達していました。(別にうまいことを言おうとしているわけではありません)
「ガ、ガ、ガ、ガイドさん...あ、あ、あ、あと、ど、ど、ど...」
「はい、もう着きますよ!あと5分くらいです!」
こういうときの5分は異様に長く感じます。ともあれ、どうにか自然に逆らわずに第2の目的地、フルーツ公園に到着しました。バスを降りると山の中腹にある公園からは、富士山や広大な甲府盆地を望むことができました。そしてここでは、まるでデートできたかのような富士山バックのツーショット写真を全員と撮りました。
「大丈夫ですか?なんか気分悪そうでしたけど...」
「うん、全然だいじょうぶ!」
きっと、山道をあと10分も走っていたら、ビニール袋に手を伸ばしていたことでしょう。
「さぁ、みなさん、全員いますかー?」
バスに戻るたびにちゃんと全員いるかを確認するこのフレーズはまさに小学生の頃によく耳にした言葉でした。
「では、これから名湯ほったらかし温泉に向かいまーす!」
フルーツ公園から、フルーツの実がなっているようなデザインの街灯が並ぶ坂道を抜けると、山の頂上で、名湯「ほったらかし温泉」が待っていました。日曜日と言うこともあり、多くの観光客で賑わうそこは、まるで天空の楽園ようでした。ここから先はまた来週。
PS:最近見始めた人のために言っておくと、先日5月14日に行われた「200回記念日帰りバスツアー」の模様を2週にわたってお送りするつもりだったのですが、3週になってしまいました。次回でどうにか完結する予定です。あと、それとは全く関係ないのですが、来る8月2日にロケットマンの約6年ぶりサードアルバムが発売されることとなりました。みんなのおかげです。もう少ししたら詳しくお伝えします。
2006年05月21日
第221回「雨上がりの旅路」
「それではまた、どこかで会いましょう。今日は本当にありがとうございました」
そう言って、僕は参加者全員と握手を交わし、お別れしました。本当は握手だけでなく、全員を抱きしめたいくらいでした。
「今週末は天気悪いみたいですね」
「そうですね」
なんとなく見ていたテレフォンショッキングのタモさんがいつものように発した言葉が僕の胸に突き刺さりました。
「今週末...雨...」
天候というのは普段の行いが反映されると思われますが、このバスツアーに関しては晴れてもらわないと正直困るのでした。というのも、行く先々が屋外であり、露天風呂も露天と言ってるだけに屋根がありません。なので雨が降ってしまうとだいぶ印象が変わってしまうのです。さらに僕には不安材料がひとつありました。それは山梨との相性です。なぜか僕が山梨を訪れると降水確率が高くなる傾向があり、これまで山梨で行ったイベント13回のうち7回は雨だった気がします。それくらい、山梨に雨を降らせる男なのです。だから、天気予報でもないタイミングでの不意の雨予告は、不安だった僕を憂鬱にさせました。
「全部、俺のせいだ...」
当日の朝、目覚めるとすぐに雨が降っていることがわかりました。雨の日特有の音、アスファルトを車が通る音、屋根にぶつかる音がきこえていました。カーテンを開けると完全に雨の日の色で、僕はもうバスの中での言い訳を考えていました。
「いやぁ、雨になっちゃいましたねぇ...」
集合場所近くのビルの地下駐車場までスタッフの人が迎えにきてくれました。
「僕の普段の行いが悪いんです...すみません...」
「いえいえ、でも一応雨コースもありますし、雨は雨なりの...」
「はい...」
すっかり気分は落ち込んでいました。嫌だ!雨コースなんて絶対嫌だ!そんなことを思いながら地上へ出る階段を上っていきました。
「やばい、なんかドキドキしてきた!」
地上に出ると、みんなが乗っている大型の観光バスが見えました。近付くにつれ緊張が高まってきました。いままで味わったことの無い感覚でした。
「どうしよう、なにから話そう...」
第一声の言葉がみつからないままバスの乗り口に着きました。
「それでは、お願いします」
スタッフの人に案内されてバスに乗り込むと、みんなの顔が見えました。車内が拍手に包まれるものの、個人参加者ばかりなので、どこか不安定な空気が流れていました。
「えー、非常に微妙な天気ではありますが、今日は皆で楽しみましょう!」
確か、そんなようなことを最初に話した気がします。幸い、バスに乗車する頃はだいぶ小雨になり、なんだか今後に期待できそうな感じだったのです。
「それではせっかくなので、皆さんに自己紹介をしてもらいましょう」
といって始まった自己紹介タイムでしたが、全員ふかわマニアということもあって、僕の人生の中で最も興味深く、楽しい自己紹介となりました。
「私がふかわさんのことを気になりだしたのは、まだ頭に白いターバンをしていた頃の...」
「髪型を変えたときに...」
「なにげなく読んだ本がきっかけで...」
「ある日突然気になりだして...」
「その後、多少の浮き沈みはありましたが...」
「好きな一言ネタは...」
僕を気になり始めたきっかけは様々でしたが、たいてい周囲の反対を押し切って支持してくれていたので、ある種隠れキリシタンのような、社会的迫害を受けた者たちが一つのバスに乗っているという印象を受けました。それで一人一人に、「私とふかわの歴史」を訊いていたものだから、まだ半分も紹介できぬまま、今回の名目上の目的地、談合坂サービスエリアに到着してしまいました。次号へ続きます。
2006年05月14日
第220回「きっと今頃は」
「本日はお足元の悪い中、わざわざお越しいただき、ありがとうございます。普段の行いが悪いためか、あいにくの豪雨となってしまいましたが、こうして皆さんとお会いできて本当に嬉しく思います」
すっかり曇った窓ガラスから、まるで汗をかいているかのように水滴が流れていました。どうにか車内を明るくしようとするも、あまりの豪雨でどんよりとした重たい空気が漂っています。
「豪雨ではありますが、温泉は入れないこともないので、ご心配いりません。また、もしご気分の悪い方がいたら、遠慮なくその旨をお伝えください」
「すみません...」
さっそく具合の悪そうな声がしました。
「どうしました?」
「...ちょっとバス酔いしちゃったみたいなんですけど...」
「え、もう?まだ出発したばかりなんだけど」
「私もすこし具合が...」
「私も...」
「み、みんな、乗り物弱いんだね...ちょっと運転手さん、近くの停めやすいところで一旦停めてもらえますか?...運転手さん?」
返事が無いので振り向くと、運転手さんはものすごい汗を流し、顔も青ざめていました。
「ちょっと運転手さん!大丈夫ですか?」
「すみません、なんか酔っちゃったみたいで...」
「運転手さんも?!」
「久々の運転だったので、すみません...どなたかお医者様いらっしゃらないでしょうか...」
「そんな重症?」
いないのはわかっていながらも一応訊ねてみました。
「この中でどなたかお医者さんはいませんか?」
すると一人の手があがった。
「えっ、あなたが!」
「はい!私!」
「お医者さん?」
「OLです!」
「あれ、きみ、話きいてた?」
「いえ!」
「もういいよ。ちょっと、どうしよう...で、君はなんで包丁持ってんの?」
横に座っている男性に訊いた。
「あ、これですか?これはバスジャック用です」
「バスジャック?」
「はい。バスジャックです」
「いやいや、そういう冗談はいいから。」
すると頬に包丁の先を突きつけてきた。
「冗談じゃねぇんだからおとなしくしな」
「おとなしくしなって、バスツアー応募したんじゃ...」
「そうだよ、すべてはこのためだよ!」
「バスジャックのため?」
「そうだよ!静かにしてな!」
「あ、はい、わかりました。わかりましたんで、とりあえずみんなにも伝えていいですか?」
「勝手にしろ!」
「えーっと、みなさん、よく聴いてください。今回参加者のひとりに、バスジャックをしようとしてる人がいます。なので、バスジャックの人からの指示がでるまでは、その場で待機していてください。よろしくおねがいします。」
車内が静寂に包まれた。
「あの...」
おそるおそる訊ねてみました。
「どちらへ...?」
「なんだよ、ほったらかし温泉にきまってるだろ!」
「え、温泉はいるんですか?」
「そうだよ、あたりめーだろ!」
「なんか、江戸っ子みたいな口調になってきてますけど」
「なに?」
「はい、すみません。じゃぁ、予定通り温泉に向かいましょう。ちなみにサービスエリアは寄らずに?」
「談合坂だろ?寄らないでどうすんだよ!アメリカンドック食うだろ、普通!」
「そうですよね。じゃぁ、予定通り談合坂で休憩しましょう」
ずっとあたっていた包丁が頬から離れた。
「すみません...」
またどこからか声があがった。
「もし可能だったらでいいんですけど...」
「なに、どしたの?」
「ちょっと、ツタヤにビデオ返しに行きたいんですけど...」
「えっ?ツタヤ?」
「はい、返すの忘れちゃって...」
「あ、なら私も行きたいです!」
「私も!」
「私も!」
「アグネスも!」
「え、アグネス?!」
見ると、アグネス・チャンがこっちを見ていました。
「アグネスさん、参加してたんですか?」
「なんか、停まってたから乗っちゃった」
「ちょっと、困りますよ!みんなちゃんと応募して参加費も払ってるんですから、ねぇ」
と見渡すと、僕はおもわず声をあげました。
「アグネス!!!」
車内の人全員がアグネスになっていました。
「ちょっと、とめて!運転手さん!!!」
すると、運転手が角野卓造に代わっていました。
「いやぁ、今日は幸楽が休みでして。一度バスの運転手っていうのやってみたかったんだよね」
卓造氏は嬉しそうにハンドルを握っていました。
「いったいどうなってんだ...」
度重なる衝撃に、めまいがしてきました。
「ちょっと、ふかわさん?ふかわさん?」
参加者の一人が僕の肩を揺さ振っています。
「ふかわさん、談合坂着きましたよ!」
「えっ、談合坂?」
僕はうたた寝をしていました。
「あれ?バスジャックは?アグネスは?」
「アグネス?なんのことですか?」
「あれ、おかしいな、夢だったのかな...」
僕はぼんやりしたままバスをおりました。
「じゃぁ撮りまーす!はい、チーズ!」
アメリカンドックを片手に全員で記念撮影をすると、皆、バスの中に戻りました。
「いま撮ったのデジカメ?」
「そうです。見ますか?」
僕はカメラの画面を覗き込みました。
「あれ?」
「どうしました?」
「みんなアグネスだ...」
きっと今頃はバスの中でしょうか。こんなことになってないことを願って。
2006年05月07日
第219回「偽ふかわにご用心」
「偽ふかわ?!」
「そうなんです。ふかわさんになりきってる偽ふかわがいるんです!」
「周りは全然気付いてないの?」
「どうも信用しちゃってる感じなんです」
「それはまずいなぁ...」
「厄介なことに、偽ふかわは妙にいい人ぶってて、周囲に警戒心を抱かせないんです」
「じゃぁ、順調にふかわを演じてるってこと?」
「そうですね」
「でも、そんなことしてなんになるんだろ?」
「さぁ...」
こんなやりとりがあったのが半年ほど前で、当時、コラムの終わりに「偽ふかわに気をつけて!」みたいなことを書きました。ただその頃は、僕自身あまりそこらへんの事情を知らなかったし、「偽ふかわ」を演じている人もすぐに飽きると思ったので、そのうち収まるだろうと楽観視していました。しかし、半年たった今でも「偽ふかわ」は存続しているらしく、どうもやめる気がなさそうなので、これは付け足し程度で済ませることじゃないな、と思ったのです。
「で、そのミクシー?っていったいなんなの?」
僕は、その実態を良く知りませんでした。
「ちょっと前から流行りだしたんですけど、いわば、会員制のコミュニティーみたいなもので、紹介がないとはいれないんです。既に登録者数は数百万人を越えているそうで...」
「その中に、偽ふかわが紛れ込んでるわけだ」
「そうですね。全体を大きな街と捉えると、偽者は、ふかわという家にたくさんの友人を招きいれてるような感じです」
「どれくらい?」
「3、400人って感じですかね」
「そんなにいるんだ。でもみんないずれ気付くよね。放っておけば勝手に消滅するんじゃない?」
「だと思うんですけど...」
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。
「偽ふかわがまだいます!しかも、ふかわさんになりきって日記まで書いてます!」
もうすっかり「偽ふかわ」のことなんて忘れていました。
「まじで?まだやってるんだ!」
「しかも人数が倍増してて、いま7、800くらいいるみたいなんです」
「なにそれ!みんな信じちゃってるの?」
「日記に対するコメントを読むと、みんな信じてるようです。中には偽者だと気付いてる人もいるんですけど...」
「に、日記かいてるの?偽者が?」
「はい。それにみんながコメントしています」
「どんなコメント?」
「なんか、リスペクト的な感じです」
「俺がリスペクトされたことないのに...」
「でも、そんなことやって楽しいんですかね」
「結構軽い気持ちではじめたら想像以上に楽しくなっちゃったんだろうね。じゃなきゃ、大変だもんね、偽者を演じるの」
野ざらしの掲示板などに比べ、会員制とあって、中傷するようなことはあまり書き込まれないのでしょう。
「でも、みんな気付かないっていうの、ちょっとショックだなぁ...」
「なんでですか?」
「なんか、誰にでもできるのかなぁ...なんて...」
「まぁ、みんなも半信半疑かもしれないですけどね」
「どうしましょうか?」
「放っておいてもいいけど、本気にしちゃう人もいるわけだからやっぱり偽者がいるのはよくないよね。」
「そうですね」
「実際に見たほうがいいのかな、それ」
「どっちでもいいと思いますけど」
「じゃぁ、見ない。なんかわからないけど、嫌な気分になりそうだから」
「そうですね。」
「じゃぁ、できる範囲で偽者に注意してって伝えるよ」
ということで、僕は詳しくはわからないのだけど、ミクシーとかいうコミュニティーで、僕のふりして参加している人がいるので気をつけてください。もしできたら、注意もしてあげてください。やっぱりよくないから、そういうのって。きっとこの「週刊ふかわ」も読んでるんだろうけど。
さぁ、バスツアーまであと一週間です。どうか晴れますように。どうかお腹いたくなりませんように。