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2005年02月27日
第159回「自己投資〜後編〜」
では、なぜ数十万円もする大画面テレビを購入することが「自己投資」につながるのか、街のパン屋さんを例に解説していきたいと思います。
そのパン屋さんは、一日に100個焼ける機械を使っていました。ある日の夜、店の主人である辰雄が言いました。
「よし!うちも新しいパン焼き機を買おう!新しい機械を買って、もっともっとパンを売ろう!!」
すると、お茶を運んできた妻の良枝が口を挟みました。
「なに言ってるの。そんなの無理に決まってるじゃないですか」
「なんだ、良枝は反対か?」
「反対もなにも、うちにはそんな機械を買うお金なんてございませんよ」
「金なんてものはどうにでもなる。大切なのは決断する心だ!」
主人はお茶をゴクリとのみました。
「何年か前もそんなことを言ってる人がいましたね」
「いや、今回は本気だぞ。ほら良枝、これ」
主人は一枚のパンフレットを妻に渡しました。
「パン焼き君デラックス?」
「そう、デラックスだ!うちで使ってるパン焼き君が遂にデラックスになったんだ!」
「デラックスになったんだっていわれても...」
良枝は戸惑いました。
「この機械だと一日1000個のパンが焼けるんだぞ!」
「1000個なんて、うちの店では売り切れないわ」
「そんなことは百も承知さ。だからお店以外でも売るんだよ。ホテルや施設なんかと契約を結べば一日1000個なんてすぐさ!」
「言うのは簡単ですけど...」
主人は電卓を持ち出しました。
「えーっと、この機械が500万円で、パンひとつ50円として...」
「あなた、いま、なんて?」
「なにが?ひとつ50円?」
「そうじゃなくって、機械がいくらですって?」
「500万だけど?」
「パン焼き君が、500万円?!あなた、そんなことしたらパンを1000個売る前にお店がつぶれちゃいますよ!」
「良枝はカネの心配なんてしなくていい!パンを売ることだけ考えなさい。あとはパン焼き君が全部やってくれるから」
「もう、知りませんから...」
良枝は呆れた表情で台所に戻りました。そして3ヵ月後。
「遂に、我がパンドールも黄金時代の到来だな!」
パン焼き君デラックスを目の前にし、辰雄は満足気な表情をしていました。
「あなた、もう後戻りできませんからね...」
良枝は釘をさすように言いました。こうして、パンドールに新たな機械が導入されたのです。メンテナンスや材料費など、一切の細かい要素を排除した上で単純計算します。パンひとつ50円の利益として一日1000個売る場合、一日に5万円の利益。ということは、100日で機械の500万円に到達することになります。つまり、約3ヶ月で元がとれ、それ以降はグングン売り上げが伸びていくこということになるのです。非常に長い道のりでしたが、つまり、このパンドールにとってのパン焼き君デラックスが、僕にとっての大画面テレビなのです。
これまでの小画面テレビでは、自分が出ている番組を見ても、「あぁ、今回も失敗してるなぁ。まぁ、いっか、それも味だしな」という感じでした。しかし、僕は思ったのです。「自分の失敗を許せるのはそれを映している画面が小さいからだ!これを大画面で見せ付けられたらきっと自分で許せなくなるはずだ!」と、考えたのです。つまり、小さい画面でスベるのと大きい画面でスベるのとでは、同じスベるでも度合いが違うということです。大画面テレビなら、極端に言うと、映画のスクリーンでスベってるようなものだ、という理論です。それで、「よし!自分に投資をしよう!!」となったのです。
投資をし、自分の失敗を大画面で確認すれば、「だめだ!もっと頑張らなくっては!」と思うはずです。その闘志は、きっと今後の活動によい影響を与え、さまざまな番組にも反映されるのです。そしてそれが仕事の量にも比例し、やがてバラエティー界にしっかりと君臨するようになるのです。それを考えれば、いま45型の液晶テレビに80万円使うことなんて屁でもないぜ!ということになるわけです。へたに中途半端なサイズのを買うのではなく、いくなら現在の液晶の一番デカいのにしちゃえ、となったのです。これは浪費ではないのです。明るい未来のための、自分への投資、「自己投資」なのです。
そんな理論を自分で打ち立て、「決してこの買い物は間違ってない」と自分に言い聞かせ、購入したわけです。おかげでポイントもたまりました。いつかみんなでポイントカード祭りもしたいものです。ちなみに、この投資が実際に画面に伝わってくるのには数年かかることをご了承ください。
2005年02月20日
第158回「自己投資」
交通違反の切符を切られたことは、少なからず、新しくテレビを買うべきかどうかずっと悩んでいた僕の背中を押す結果になりました。
「チキショー!あの警官のせいで最悪な一日になっちまいそうだ!よし!こうなったら45型の液晶テレビでも買ってやる!!」
そうつぶやきながら僕は、違反切符をポケットにいれたまま、ヤマダ電機へと向かいました。その日を、「切符を切られた日」ではなく、「大画面テレビを買った日」に塗り替えたかったのでしょう。最悪な一日で終わらせたくなかったのです。とはいうものの、まったく突然に思いついたわけでは当然なくて、以前から「そのうち買うだろう」とは思っていたのです。ただ、「そのうち」というのが曲者で、実際には「そのうち」はなかなか訪れず、なんだかんだここ数年間ずっとシャープの14型の液晶テレビで問題なく生活をしていたわけです。
「麦藁帽子は冬に買え」という言葉があります。夏に使用される麦藁帽子は冬の安い時期に買う方が得だ、ということですね。僕の中で「そのうち」というのはつまり「麦藁帽子にとっての冬」であって、「大画面テレビにとっての冬」を待っていたのです。しかし、そんなことを言いながらもうすうす感じてはいたのです。僕も大人だからわかってはいたのです。「大画面テレビに冬は訪れない」のです。もっというと、「電化製品に冬は訪れない」のです。大画面テレビが安くなるタイミングを待っちゃいけないということです。とはいっても人は商品を安く購入したいものです。わざわざ高い方の店を選ぶ人はいないはずです。そして値段が高ければ高いほど、「そのうち安くなるだろう」と、絶好のタイミングを見計らってしまうのです。しかし企業としては、そんな「タイミングを見計らっている人」にいかに買わせるかしか考えていないのです。もっというと、そんな絶好のタイミングを与えようとはさらさら思っていないのです。相手は商売のプロなのです。じゃなきゃ季節ごとにパソコンの新機種を発売する必要はないのです。機能を小出しにしているだけなのです。だから「麦藁帽子の冬」はあるかもしれないけど、「電化製品の冬」は存在しないのです。もしも「冬」が訪れたとしたらそれは「冬」ではなくて、「衰退」ないし「死」を意味しているのです。その商品としての価値が、社会的に評価されなくなってしまったということです。
ただ、僕自身、YJ(ヤマダ電機とジャスコに対する敬意を込めた略称)マニアであるし、ヤマダ電機を消費者の敵と思われては嫌なのであえていいますが、大事なのは「気分」なのです。「お得な買い物をした」という気分を味わえるかが大事なのです。その最たるものが「ポイント還元」というシステムです。たとえば「30万円の商品を購入してくれたら6万円分のポイントがつきますよ!」という店側のサービスなのですが、これぞまさしく「気分」をうまく利用した商売なのです。
「30万円の商品を買ったら6万円分の商品がタダになる」ということと、「30万円の商品を24万円で購入した」ということは、消費者からしてみれば変わらないことかもしれないけど、店側からすればそこにはとてつもなく大きな違いがあるわけで、誰がなんといおうと、お店には30万円入金されたほうがいいのです。お客様の24万円はヤマダ電機で残りの6万円はコジマ電機ということになってはだめなのです。全部ヤマダで使って欲しいのです。だから、ポイントカードを作るということは、「一生ここで買います」という契約を結ぶようなものなのです。ただ、さっきから言ってますが、大事なのは「気分」なのです。「冷蔵庫買ったら洗濯機も買えちゃった!ラッキー!!」という「得した気分」を味わうことが大事なのです。「実際に4万円得すること」よりも、「6万円得した気分」を味わえるお店の方が喜びは大きいのです。宝クジにしたって、「当たるかもしれない」という気分を買うのです。ちなみに僕はフランスに行く前に国際免許証の手続きをしました。でもそれは、実際にフランスで運転するためではなくって、運転しようと思えばできる、という気分を得るためでした。目には見えないものだけど、「気分」って大事なのです。そんな「気分」を売るヤマダ電機は間違っていないのです。
そんなことを自分に言い聞かせ、僕は店員さんを呼びました。はいなんでしょう?と来るやいなや僕は、45型の液晶テレビを指差しました。これで、「切符を切られた日」は「大型テレビを買った日」に塗り替えられました。ただ、これまでの段階で「自己投資」にまつわる話がでていません。テレビに数十万円ものお金を掛けることがなぜ自己投資なのかは、次週にしましょう。
2005年02月13日
第157回「ささやかな反抗」
「あんまりネタにしないでよ!」
彼の口からこの言葉が出てきたことによって僕は、週刊ふかわのネタにしようと心に決めたのでした。
幼少時代から、どこか権力に対して反感や敵意を抱いているタイプだったから、社会の権力者達が私腹を肥やすという報道があれば人並み以上に腹が立ち、昨今のニュースに見られる権力を振りかざした悪行に対しては、いつかどうにかしなくてはと常日頃から思っているのです。権力はろくなことをしない、わけです。だから、自分がその権力の剣を抜かれる対象にでもなれば、その巨大な権力に対してどうにか一撃を喰らわしてやりたいと思うのも当然なのです。
「はい、そこの原付!ちょっとこっち来て!!」
道路わきに立っていた警官が僕に呼びかけていました。僕は状況を把握できないもののなんとなく不安を抱きながらその警官の前で原付を停めました。
「じゃぁ免許証見せて」
「いや、あの、なんですか?」
「いいから免許証」
僕はしぶしぶ免許証を取り出しました。
「あの、なんか違反とか、そういうのですか?」
「そう。じゃないと停めないでしょ」
すでにこの段階で僕は理性と戦っていました。
「ふかわりょうって、あのテレビに出てる人?」
「あ、そうですけど...」
「やっぱりそうかぁ!似てるなぁと思ったんだよ」
「それで、僕がなにか...?」
「ふかわさんね、いまあそこから出てきたでしょ?」
ようやく説明が始まると、彼は数十メートル先のT字路を指しました。
「はい、そうですけど...」
「あそこね、ウキンなの、知ってた?」
「ウキン?」
「そう、右禁」
「ウキンって...?」
「右折禁止!!」
「あっ、その右禁...いや、知らなかったですけど」
ただでさえ略すことが嫌いな僕は、右折禁止を右禁という警官の顔がムカついてしょうがありませんでした。
「知らないにしてもね、あそこは右禁だから、違反には変わりないから」
「はい、わかりました、すみませんでした...」
僕は、原付だし、注意で済むのかと思いました。
「じゃぁ、切符きっとくから」
「えっ?これで、切られちゃうんですか?!」
「そうだよ、違反だもの」
「いや、そうですけど...ちなみに」
「点数は2点ね」
「2点?!原付で右折しただけで...」
「そう、2点」
「いや、ちょっと待ってくださいよ!だって知らなかったんだし!!」
警官の人柄や、この流れになってしまうとなにを言っても無駄だというのはわかっていました。ただ、その2点によって免許停止になることは以前に調べてわかっていました。それだけに、しかも原付でその処分を受けることは、なんとしても避けたいことだったのです。
「あの角はねぇ、右禁なのに右折しちゃう人が多いんだよ。それでここで見張ってるんだよ」
「なら、違反するのを見張るんじゃなくって、違反しないようにあっちに立ってればいいじゃないですか」
無駄とは思いつつも、簡単に引き下がるわけにはいきませんでした。
「それだと警官が立ってないときは右折してもいいってなっちゃうでしょ?」
「安全とかじゃなくって単純に違反者を見つけたいだけじゃないですか!」
そう言いながらも、気持ちは、免許停止を受け入れる体勢になろうとしていました。
「これで僕、免許停止ですよ...」
青い紙にサインをすると、免許証が返されました。
「まぁでも、講習受ければ短縮されるんでしょ?」
「短縮って、どれくらいなんですか?」
「えーっとねぇ、たしか...僕も交通専門の警官じゃないからよくわからないんだけど...」
「え“―――――っ!!ならお前こんなとこで取締りとかやってんじゃねーよぉーーー!!!」と心の中で大きく叫びました。「ネタにしないで」と言われたから僕は、こうして書いてやりました。僕の精一杯の反抗というわけです。そして僕は、ますます略すことが嫌いになりました。
2005年02月06日
第156回「こたえてちょーだいを見ていたときに」
「今日はふかわくんにすごいお土産があるんです!!」
収録前の楽屋で僕は、こたえてちょーだいを見ていました。
「菊間アナと川合さんって、なんか妙に仲いいんだよな…」
「ふかわくん、きいてます?」
「絶対男女の関係になったよ、このふたり…えっ?なんて?」
スタイリストのやっくんが嬉しそうに話しかけていることにやっと気付きました。
「こたえてちょーだいをそういう目線で見る人いるんですね」
「だって、俺は昔からこのふたりの仲むつまじい感じは気になってたんだ
よ。っていうか、お土産がどうしたって?」
「そうですよ!おみやげがあるんですよ!それもすごいのが!」
「すごいおみやげって、そんなハードルあげちゃっていいの?」
「まぁ見てくださいよ」
なにやら自信たっぷりの様子で、やっくんはそばに置いてあった紙袋を手に取りました。
「えーなんだろ?ぜんぜん予想つかないな」
僕は、彼が取り出すものを固唾を飲んで見守りました。彼の右手がゆっくりと紙袋から引き出されます。映像ではスローモーションになっています。
「えっっ?うそ?!まじで?!えっ?どしてどして?!」
「遂にみつかったんですよ、これが」
それは、もうこの世には存在しないと、なかばあきらめかけていたものでした。
番組であればここでCMをいれて引っ張るところですが、ここではスタイリストに関する話をしましょう。
人それぞれ契約のスタイルは違いますが、僕の場合、スタイリストさんがついている番組と、そうでない番組があります。「えっ?ふかわでもスタイリストなんているの?!」みたいに感じる人もいるでしょうが、テレビ出演の頻度が高くなると当然私服にも限界が生じ、また、タレントとしての意識を保つためにも、スタイリストという存在が欠かせなくなってくるのです。僕の場合は、ネタでテレビ出演していた頃はスタイリストさんはいなかったけれど、その後レギュラー番組などをやるようになってから、衣装をお願いするようになったのです。だから、現在ネタなどで出始めた若手芸人の人たちも、やがて私服から衣装にチェンジするようになるのです。
これも人によって様々ですが、スタイリストさんは、ひとつの番組に5パターン程度の衣装を持ってきます。それらの中から、オススメなんかも聞きつつ、番組で着る服を選ぶわけです。僕の場合、この時期はこんな感じのがいい、みたいに好みを伝えてあるので、着たくない衣装を持ってくることもないのです。また、気に入った服があったりすると、買い取ってしまうこともよくあります。だから、バク天で着ていた服を内Pで着てたりするのはそういうことだったりするのです。さぁ、そろそろ本線に戻りましょう。
「えっ?うそ?!まじで?!えっ?どしてどして?!」
「遂にみつかったんですよ、これが」
それは、もうこの世には存在しないと、なかばあきらめかけていたものでし
た。
「うわぁ、すげー!!本物だよね?」
「そうですよ、本物ですよ」
僕はそれを両手に乗せ、うっとりするように見つめていました。
「これだよ、このシルバー。そしてこのマジックテープ。よく見つけたね」
やっくんが持ってきたお土産はアディダスのスニーカーでした。スタンスミスというスタンダードモデルで、それ自体はそれほど稀有なものではありません。ただ、僕が求めていたのは、シルバーでマジックテープという、なんともいえない風合いのスニーカーで、まさにのどから手が出るほどの逸品だったのです。僕がそのスニーカーに出会ったのは5年位前で、それから年中無休で履きつぶし、かなりヨレヨレになってしまったためにずっと新しいのを探していたのだけど、どこのお店に問い合わせても、「あー、あれは限定商品だからもうむずかしいっすねぇ…」みたく冷たくあしらわれ、本当にあきらめていたのでした。だから実際に新品のスタンスミスが目の前に登場したときは、その状況に脳がついていかず、それこそクラクラしてしまいそうでした。
「でもいったいどこにあったの?」
「それがですねぇ、また意外なところで見つけたんですよ!」
よくぞ聞いてくれました、という表情で。
「え、どこどこ?」
「なんと…ドン・キ・ホーテで見つけたんです!」
「えっ?ド、ド、ド、ドンキー?!」
「そうなんです。しかも厚木の!」
それは意外な盲点でした。都内のシューズショップや古着屋になかったものが、ドンキーにあったわけです。たしかに豊富な品揃えではあるけれど、まさかねぇ、といった感じです。しかも、おそらく古着屋さんなどで売っていたら数万円くらいになっているようなものが、ドンキーでは数千円で普通に売られていたのです。いくらシルバーであろうと、マジックテープであろうと、限定であろうと、他の白いスニーカーと平等に扱っていたわけです。
「いやぁ、これは本当にうれしいわぁ、ありがとう、やっくん!」
「いえいえ、僕もほっとしました」
とはいうものの、大事すぎて、なかなか履けなくなりそうです。