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2020年03月26日

第828回「春の便り」

 

 東京の桜も満開となり、見頃を迎えています。新型コロナの影響でお花見は自粛。ライトアップなどもされていませんが、それでも街や山の至る所で見かける淡い桜色に気分も高揚します。今年もまた春がやって来ました。開花の日に降雪となったくらいで、それほど雪の多い冬ではありませんでしたが、厳しい寒さを乗り越えてたどり着くこの季節は、年を重ねるごとに味わい深いものになっています。

 さて、令和になって一年が経とうとしています。「Beautiful harmony」と英訳された時代にまさかこんなことが起きるとは想像だにしませんでした。元号が変わっていようがいまいが、人間にはコントロールできないことが起きるものだと改めて実感。「令和令和」と浮かれていたことが恥ずかしくなってしまいます。開催予定だった東京オリンピックも延長となり、経済も世界的に混乱の様相。ただ、きっとここから新しい何かが生まれているのだと思います。

 そんな中、イベントのお知らせです。

 まず、ゴールデンウィークに開催予定だったクラシック音楽の祭典、「ラ・フォル・ジュルネ2020TOKYO」ですが、正式に中止が決まりました。とても残念ではありますが、規模の大きさもありますが、海外から集うこともできない状況なので、仕方ありません。しかしながら、アンバサダーとして声を掛けていただき、たくさんの演奏家の方にもお会いでき、本場の音を味わうこともできました。「プチョヘンザ・クラシック」も、このお話がなかったら浮かんでいなかったと思うので、アンバサダーを受けて良かったと思います。お披露目はいつになるかわかりませんが、いつか「プチョヘンザ・クラシック」を実現できればと思います。

 そしてもう一つ。

 令和二年五月一日。下北沢は北沢タウンホールにて、「劇場版ロケットマンショー」を開催します。

 今回で3回目。前回が令和の元日だったので、ちょうど前回から一年後になります。前述の通り、自粛ムードが依然として漂い、大規模イベントなどの開催の是非もありますが、予定通り開催したいと思います。

 あらためて内容は、普段は相槌に徹している私が日常で感じている些細なこと、ブログやラジオなどで報告するほどでもない小さなことを、ダラダラとお話する空間。もちろん、受け皿となる聞き手は放送作家の平松政俊さんです。彼のヨイショするでもないクールな相槌。興味があるのかないのかわからない熱量。目を瞑ると、番組のような雰囲気を感じるかもしれません。

「ロケットマンショー」が終わって六年弱。「ロケショー」の火を消さないように、なんて言う意図は一切ありませんが、ラジオを聞いていた人も、そうでない人も、ぜひ、気分転換にお集まりください。

「劇場版ロケットマンショー」

202051日(金)19時開演

前売り¥4,000-(税込) 当日 ¥4,500-(税込)

ローソンチケットにて、41日(水)19:00より販売いたします。 

 

 

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2020年03月13日

第827回「それぞれのONE TEAM」

 

 河津桜は散り、ソメイヨシノの蕾も膨らんできました。季節は確実に春になろうとしています。河川敷で自転車に乗っていると、キャッチボールやサッカーをする少年たちと、おじいちゃんおばあちゃんが孫を連れて歩く姿に、平日でも日曜日のようなのどかな光景が広がっています。

 政府の自粛要請期間も延長となり、遂にWHOから「パンデミック」という言葉が飛び出しました。ライブや舞台は軒並み中止。テーマパークは閉園、飲食店などの商業施設も客足が減少しています。経済的混乱。それは、感染とともに世界規模で広がっています。延期や中止が現実味を帯びてきた東京オリンピック。そして甲子園じゃない場所で高校球児の涙を観たのは初めてかもしれません。今、日本中が足並みをそろえて感染が広がらないように努めています。

 それに伴って、9年前のあの時に似た雰囲気がこの国を覆っています。ただ、今回猛威を振るっているのは「不謹慎」ではなく「無責任」という言葉。閉鎖された空間でのライブ公演は、感染を広げるのではないか。もしそれでクラスターが起きたら責任は取れるのか。エンターテイメントの是非。いたるところで振りかざされる正義。そうして生まれた自粛ムード。しかし今回の「自粛」は、何もしないことではなく、見えない敵と闘っている。その点も、震災の時のそれとは違います。

 数ヶ月前に皆が口にしていた「ONE TEAM」という言葉。あの頃は、日本が一丸となってラグビーボールを追いかけていました。そしてまた日本が「ONE TEAM」になっています。今回の敵は、目には見えないもの。新型コロナウイルス。闘いの相手が決まると、敵に有利になるような行為をする者に対して「どうしてチームの輪を乱すのだ!」と、チームメイトは憤る。非常に大きな「ONE TEAM」が出来上がっています。 

 ライブや舞台の人たちも「ONE TEAM」。本番に向けて一丸となって積み上げてきました。東京オリンピックも。しかし、それが大きな「ONE TEAM」の価値観にそぐわないものになってしまいました。イベントの規模が大きければ大きいほど槍玉に上げられ、強行するとすっかり悪者の印象になってしまいます。小さなそれは、大きな「ONE TEAM」には敵わない。

 もうひとつ、大きなONE TEAMがあります。それは「経済」という種目。敵は恐慌。自粛によって感染拡大を抑制できるかもしれないけれど、これによって経済活動ができなくなる人がいるのも事実。豊かになりたいのではなく、生活ができなくなってしまいます。死活問題。どちらのチームを優先するべきか。ウイルスは直接的に人命に影響を与えるのに対し、経済は直接的ではありません。まずは人命を優先させることが社会の優先順位。大きな地震が起きたら、テレビもそれをまず先に伝えるように。

 最も大きいチームの価値観が社会で優先される。だから、コロナウイルスが終息すれば、今度は経済の「ONE TEAM」が最も大きなチームとなり、エンターテイメントや他の小さな「ONE TEAM」を牽引するでしょう。

 大きな「ONE TEAM」ができると同時に、それに従わないと何もできなくなってしまう風潮も怖いです。コロナウイルスも怖いですが、風潮や同調圧力、社会の空気というものは、ウイルス並みに手強いものかもしれません。そうなると、過度な自粛を求める「風潮」に屈しないための大きな「ONE TEAM」ができる可能性もあります。

 全てのONE TEAMが同時に勝利することはできません。先の見えない状況ではありますが、一日でも早く終息し、それぞれの「ONE TEAM」が順番に勝利する日が訪れることを願います。

 

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2020年03月08日

第826回「過去の男」

 

涼子が帰ると、家の前に一人の男が立っていた。

「誰?」

「よ、久しぶり!」

男の顔を見て、それが誰だか思い出すのに時間はかからなかった。

「…六郎」

「なんだよ、そんな表情するなよ、元気?」

「なんでここにいるの?」

「なんでって、ちょっと近くまで来たから寄ってみただけだよ」

「いきなり来られても困るんだけど。っていうか、もう用事ないから」

涼子は彼を無視して家に入ろうとするが、鍵が見当たらない。

「そんな冷たいこと言うなよ。どうなの、最近?」

「最近って?」

「新しい彼、うまくいってんの?」

「別にあなたには関係ないでしょ」

「そんなこと言うの?ほんとひどいね、女って。」

「もう用事ないなら帰ってよ」

涼子の手がカバンの中をかき混ぜている。

「あんなに別れたくないって言っていたのに、気持ちは変わるんだね。っていうか、本当は後悔してるんじゃない?」

「後悔?」

「そう、別れたこと」

「いい加減にして!しつこいと警察呼ぶから」

涼子は静かに語気を強めた。

「確かにあなたと一緒にいた時間は楽しかったし、別れる時は辛かった。あなたのいない世界は想像できなかった。どうにかしてあなたと一緒にいれないものかと四六時中考えた。でも、、、、」

涼子の口が止まった。

「十一郎のことか?」

「なんで知ってるの?」

「そりゃわかるさ。俺と付き合ってる頃から意識していただろ?なんなら二股かけてたとか?」

「もう、ふざけないで!ねぇ、帰ってよ!」

「あいつもやがて俺みたいになるよ。」

六郎はタバコを取り出した。

「どう言う意味?」

「俺だって最初はなんの問題もなかった。長年付き合うと、何かと不具合が生じるものさ。そうしたらお前はまた若いのに乗り換える。そうだろう?」

「さっきからなんなの、私のこと怒らせたいの?せっかくあなたのこと忘れていたのに。」

「一緒にいろんなところ出掛けたよな。」

「もう過去の話だから」

すると、扉が開いた。

「十一郎…」

「声がしたから気になって。お客様?」

十一郎は六郎を見て言った。

「ううん、知らない人」

「気をつけた方がいいよ。この女、また新しいのに乗り換えるから」

六郎は十一郎に言った。

「別に構わないさ。さぁ、入ろう」

十一郎に抱えられるように涼子は家の中に入った。

「お前がいけないんだからな。俺のことを廃棄せずにずっと置いておくから」

扉の向こうから六郎の声が聞こえる。

「大丈夫?」

「うん、ごめんね。気にしないで。」

そう言って、涼子は十一郎の胸に顔をうずめた。涼子のカバンの中には、新しいパンフレットが入っていた。

 

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