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2018年04月20日

第745回「ボレロとビオレ〜後編〜」

 

「では、よろしくおねがいします!」

 デモ音源は、無事にクライアントを通過し、晴れてレコーディングの日を迎えることができました。やり直しこそなかったものの、ギリギリまで注文に応じたり、それこそニューカレドニアからメールしたりと、なかなか油断はできませんでしたが、こちらもその覚悟で臨んでいたので、気合いで乗り切ることができました。

 スタジオで準備していると、何やら賑やかな声が響いてきました。メンバーたちの到着。やはり彼女たちが現れると、一気に場が明るくなります。それぞれマイクの前に立ったかと思えば、終始和やかな雰囲気で、スムーズにレコーディングは進みます。曲調が曲調なだけに、あまり小さなことにはこだわりません。彼女たちのエネルギーが伝わることが大切なので。細かなディレクションはせず、ニュアンスや空気感を大事にしました。

「はい、OKです!お疲れ様でした!」

 レコーディングを終えた彼女たちを待っていたのは、アップルパイでした。

「うわぁ!グラニー・スミスだ!」

 3大差し入れのひとつ、グラニー・スミスのアップルパイも彼女たちに好評でした。

「ミックスの日が決まり次第、ご連絡します」

 ご存知かもしれませんが、レコーディングしたところで曲が完成するわけではありません。ここからまだまだ長い道のり。神経を使う作業。ただ、今回は自分の曲ではないので、ある程度エンジニアさんにお任せしてからの微調整となります。

「では、これで行きましょう!」

 そうして、マスタリングという工程を経て「汗のニオイ気にならないZ体操!」が完成しました。自分の曲の時とは違って、肩の荷が下りたような感覚がありました。

 いろいろな立場の意見を反映させながら作るというのは、確かに大変な部分もありますが、窮屈なようで、意外と心地のいいものでした。自分の尺度だけで進行するのは、自由でもある反面、多くの決断を迫られます。自問自答を繰り返し、完成のタイミングも自分次第。そんな、「すべての決定権が自分にある辛さ」から解放してくれたのが、ほどよい制約だったのです。たまには、オーダーに応える形のトラック製作もいいものです。そして、グラニー・スミスのスタンプがいっぱいになりました。

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2018年04月16日

第744回「ビオレとボレロ」

 

「それと、これはもしできたらなんですが…」

 今回の、唯一と言っていい具体的な注文がありました。それは、普段、なんの制約もない中で作っている僕にとっては、むしろ心地のいいものでした。

 

「まだ、プレゼン段階ではあるのですが」

 マネージャーからの電話を受けたのは新幹線の中。こみ入った話は後日伺うとして、現実味を帯びてくるとは想像していませんでした。それから数週間後。忘れていたわけではありませんが、思わぬ結果が待っていました。

「ももクロの件、決まりました」

 白羽の矢が立つ、そんな表現が似合っているのではないでしょうか。DJやトラック制作こそしてきましたが、外からの依頼というのは数える程しかありません。そんな僕に、国民的スターへの楽曲提供というのは、企画といえど、宝くじが当たったような気分でもありました。

「明るく元気な曲にしたいと思います。」

 記者会見後、レコー会社や担当スタッフの方と打ち合わせをしました。振り付けはラッキー池田さんで、歌詞は放送作家のオークラさん。それぞれの持ち回りを担当するのですが、楽曲に関してはあまり細かな注文はありませんでした。そんな、比較的自由度の高い依頼の中で、唯一の注文。それは、「ボレロ」をどこかで使って欲しいと言うこと。そうです、ラヴェルのあの名曲、「ボレロ」です。

「クライアントからの要望で…」

 そういえば、これまでのCMシリーズではボレロが流れていました。社長さんの好みなのか、会長さんの好みなのか。そういえば、「ビオレ」と「ボレロ」って、雰囲気似ています。このリクエストを受けると、僕の体にやる気がみなぎってきました。

feat.ラヴェル」

 クラシック音楽のダンスリミックスはこれまで何度もやってきたので、お茶の子さいさいとまではいかなくとも、非常にアプローチしやすくなります。完全なる自由よりも、程よい制約。しかも、ラヴェルの「ボレロ」は大好きな曲。とてもポピュラーなあのフレーズをエッセンスとした踊れる曲。これぞまさに、ロケットマンの真骨頂とも言えるかもしれません。帰りの車内ではもう、頭の中で鳴り始めました。

「できた!!」

 そうして、記者会見から数日後には、楽曲のデモを担当の方に送りました。ボレロの譜割りに歌詞を乗せるのではなく、ボレロのメロディーが裏でなっているというスタイル。さぁ、あとはこれをクライアントがOKしてくれるか。全てはそこにかかっていました。

 

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2018年04月06日

第743回「はじめてのニューカレドニア〜後編〜」

 

「天国に一番近い島か…」

 中年の肢体が、透き通った水に浮いていました。

 

「これって、入らずにいられる?」

 道路を渡ってみれば、見渡すかぎりに海が広がっています。写真に収めるだけでは気が済まなくなってきました。

「もうここまできたら何をしても一緒!」

小さく丸められた靴下が、靴の中に押し込まれます。

「うわ!気持ちいい!!」

 ひんやりというよりは生ぬるい海水が足にまとわりつくと、僕はすぐにホテルの部屋に戻りました。もちろん、気が済んだからではありません。

「これではいるなっていう方がおかしいんだ!」

 もはや、ホテルから出てはいけないというルール自体を悪とした僕は、念のためリュックに入れておいた水着を取り出しました。Uターンするように砂浜に戻ってくると、瞬く間に体を沈めて行きました。

「最高だ!」

 まさに楽園でした。天国に一番近い島。遠くの木の小屋が浮かんでいます。海と空の境目がありません。体を大の字にして、雲ひとつない空を眺めていました。このまま天国に行ってしまいそうです。

「あぁ、ずっとこうしていたい…」

 時間帯のせいもあるかもしれませんが、水温も高く、温泉に浸かっているようでした。ほとんど人がいないので、周囲も気になりません。仕事も、スタッフの忠告も忘れて、すっかり極楽気分。

 

「お前、随分灼けてんな!」

 数日前から滞在しているお二人には到底、敵いませんでしたが。

「実は、スタッフさんからはホテルから出るなと言われたんですけど…」

我慢できずに、ずっと海に浸かっていたことを告白しました。  

「お疲れ様でした!」

 ロケも終わり、みんなで夕食。シャンパングラスがテーブルの上で乾杯の音を鳴らします。エスカルゴなどのフランス料理や、美味しい果実のお酒が出てきました。お酒と日焼けと、真っ赤になった大人たちの夜。ちょっぴり肌がヒリヒリしています。

「本当に、ありがとうございました!」

 フライトの時間が近づくと、僕はそのまま空港に向かいました。

 シークレットではありましたが、さまぁ〜ずさんに誘われた夏の楽園。こんな24時間、ジャック・バウアーもびっくりです。滞在時間こそ短かったですが、ロケも楽しく、十分満喫できたのは、さまぁ〜ずさんのお人柄によるものでしょう。お二人のおかげで、はじめてのニューカレドニアは、至福の時間となりました。またいつか、訪れてみたいものです。

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