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2017年12月22日
第730回「life is music 2017」
2017年ももうすぐ終わりですね。みなさんにとって、どのような一年でしたでしょうか。光陰矢のごとし。年々早く感じるのは、分母が大きくなるからというのは、以前何度もお伝えしてきましたが、わかっていてもそれを超えるスピードで進んでいる気がします。
今年もたくさんの出会いがありました。新しく始まったもの、終了したもの。再開したこと。この業界に20年以上いると、久しぶりに再会することも増えてきます。その度に、長く続けることの意味を実感するものです。
夏フェスや、アルバムリリース、劇場版ロケットマンショーなどのない一年ではありましたが、それらに注がれるためのエネルギーはおそらく他の場所に回され、もしくはどこかに貯蔵されているかもしれません。細かな部分に目を向ければ、他にもたくさんの変化はあったかもしれませんが、今年、自分を取り巻く環境で起きたこと、自分で見たもの、感じたもの、そこから生じた感情や表情、言葉やメロディーは、すべて2017年と僕との結合によって生まれたもの。それらが、ポジティブなものであっても、ネガティブなものであっても、非常に価値のあることだと思っています。
年輪を重ねる、根を張る。これまで僕が一貫して大切にしてきたことで、これからも変わらないでしょう。その一方で、多くを求めない人間になりました。何も期待しない。期待するから、それに見合わない現実が訪れたとき、気が重くなってしまう。結果は気にしない。イメージに近づいていない自分を、許すこと。そう思うと、浮力のようなものが働いてきた気がします。
2017年には2017年のメロディーがあります。その時にしか奏でられない音があります。短調だったり長調だったり。ワルツだったり4拍子だったり。アンダンテ、アレグロ。第何楽章。「きらクラ!」で、楽章間の拍手に関して話題になっていましたが、拍手は最後に起こればいいのです。華々しく終わる曲、静かに終わる曲。終わり方に決まりはありません。自分らしく終われば、あたたかい拍手に包まれることでしょう。
「life is music」
自分が奏でる音楽。でも、自分一人では音楽はできません。音はできても、音楽にはなりません。たくさんの音が重なり合って、ハーモニーが生まれます。たくさんの出会いに、そして、いつも支えてくださっているスタッフやファンの皆さんにとても感謝しています。この思いを忘れず、謙虚な気持ちで、あらたな年を迎えたいと思います。2018年のメロディーを楽しみにしていてください。それでは、よいお年を。
2017年12月08日
第729回「クラシックの友2」
大勢の関係者に囲まれて入ってくるかと思いきや、会議室に現れたのは、小泉元総理お一人でした。
「本日、インタビューさせていただきます、ふかわりょうです」
忍者のように足音に敏感になっていたので、心の準備はできていました。
「あ、そう。ちょっとトイレ行ってくるよ」
再び二人きりになった僕とカメラマンさんは顔を見合わせました。ここで一呼吸おけました。元総理が用を足している間に担当の者が恐縮した表情で戻ってくると、続いて編集長も現れました。やはり、小泉さんはお一人のようです。
「本日はどうもありがとうございます。以前、厚生大臣時代に…」
一度取材をされたそうで、今よりも若々しい純一郎氏がテーブルの上で天井を眺めていました。
「おう、そうか」
それから一通りの挨拶を経て、対談が始まりました。対談と言っても、もっぱら僕がお話を伺うので、インタビュアーとして。お相手がお相手なので、機嫌を損ねるということはないでしょうが、やはり気持ちよくお話していただきたい、そう思っていました。
あらかじめ著書を読んでいたので、どれくらい造詣が深いかは了承済みでしたが、いざ話が始まると、とても饒舌で、熱心に語るその姿は、かつてのエネルギッシュな総理につながるものはありました。また、幼少期のことなども、鮮明に覚えているようで、幾つになっても好きなことは目を輝かせるものです。
「では、そろそろ撮影の方に」
もちろんインタビュー中も撮ってはいますが、改めてカメラ目線での撮影。握手をすると、まるで充電してパワーを補給するような感覚になりました。
「すみません、私のスマホでも…」
掲載用の撮影の後、自分のスマホを取り出さずにはいられません。その後、場所を移すと、「君も入ったらどうだ?」と周りのスタッフにも声をかけて、しばらく撮影会が行われました。
「それじゃぁ!」
車の窓から顔を出し、颯爽と帰って行きました。さすがに運転手の方はいらっしゃいましたが、その姿は、もはや自由を手に入れ、何にも縛られていない男という印象でした。覚えてくれたかわかりませんが、もしも今度お会いする機会があれば、またクラシックの話をしたいと思います。車を見送ると、僕と、担当者、そしてカメラマンの3人は、顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべました。
「このサンドウィッチ、すごく美味しいです!!」
取材後、目の前にある珈琲店で遅めのランチ。普段は、そんなことしないのに、興奮状態だったため、なんだかテンションがおかしくなっていました。
なかなかお会いできない方々と、クラシックで繋がる。とても素敵なことだと思います。とりあえず一年間ではありますが、世の中、社会に多大な影響を与えた方に、クラシックへの思いを伺ってきたいと思います。これからどんな出会いが待っているのか。クラシックの友。「音楽の友」一月号より掲載となります、よろしくお願いします。
2017年12月01日
第728回「クラシックの友」
「そんな訳ないでしょ」
警戒センサーが作動しました。いくら歴史があるとはいえ、さすがにそれは今回の企画を通すため。いわゆる企画書映えのための人選。テレビ番組の企画書でもよくある話。調子のいいことを言って、誘惑する。だから、その言葉を鵜呑みにしてはいけないと思いつつも、せっかくいただいた有難いお話、過度の期待をせずに受けることにしました。
「初回のゲスト、決まったそうです」
「結局、誰になったのかな?」
その返答に思わず声が漏れました。
企画書映えのためだと思っていたゲスト案が現実になる。どれだけ信頼の厚い出版社なのでしょう。やはり歴史を重んじている国。他にも挙げられていた名前も、あながち企画書映えのためだけではない気がしてきました。
「わたくし、通り沿いに立っておりますので」
ベージュのビートルが坂を登っています。たまたまなのか、そういうタイプの方が集まるのか、編集担当の方はとても上品な男性。それにしても、ものすごい人で賑わっている商店街。あまり足を運ぶ機会がなかったのですが、時間帯によって一方通行の向きが変わるのも、一説によれば、田中角栄氏の意向によるものだとか。坂を登ったところに、その出版社はありました。
「すごい人ですね」
「マネージャーさん、大丈夫ですか?」
今日を楽しみにしていた彼は、インフルエンザで自宅待機となりました。
開戦直前の1941年に「音楽之友」創刊、現在の「音楽之友社」となりました。昨年、75周年を迎えたわけですが、時代を越えて愛されているのも、クラシック愛好家たちから信頼を得ているからでしょう。そんな素晴らしい雑誌の中で、対談企画のような連載コーナーが始まることになりました。その名も「クラシックの友」。その初回のお相手となったのが、小泉純一郎元総理でした。
首相は首相でも、一世を風靡した首相。政治家というよりも国民的スターというイメージさえあります。芸能界で長年活動していても、そうそうお会いできる方ではありません。大きなソファーが二つ並んだ静かな会議室で、元総理の到着を待つことにしました。
「それでは迎えに言ってきます」
担当者が会議室を出ました。僕とカメラマンさんと二人。心拍数が上がります。ほどなくして、気配のようなものを感じました。
「ここでいいの?」
担当の方と入れ違うように会議室に現れたのは、紛れもなく小泉元総理でした。