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2017年11月02日

第724回「ラングラーが届くまで4」

 

「いた…」

 一気にテンションが上がりました。太陽に照れされたラングラー。頭に描いていたアンヴィル・グレーがそこにありました。

「今から降ろしますんで」

 大きなトレーラーの荷台がゆっくりと動き出しました。遂にやって来た。遠路はるばるやって来ました。あのラングラーが、今、目の前にいる。憧れのスターが地元にやって来たような感覚。斜めになったラングラーにレンズを向けずにはいられません。

「では、ここにサインをお願いします」

やはり、何歳になっても納車はなんともいえない高揚感があります。しかも、試乗も見学もしていなかったから余計に高まります。

「長旅ご苦労様、きっと疲れているでしょう」

 大きなトレーラーがいなくなると、鍵を握った僕は恐る恐るジープに乗り込みました。太陽に温められた車内。エンジンをかけると、休めてあげたいところですが、ちょっと出かけたくなってしまいました。

「うわ、やばい!ジープだ!ジープの目線だ!」

 アスファルトの上を走り出しました。いつもと違う目線、匂い。ジープからの景色は格別でした。フロントガラスの角度が独特で、垂直に近く、長方形の枠がジープらしさを感じさせてくれます。窓やオーディオの操作もよくわからないまま、高速道路へと吸い込まれていきます。

「ひとつ言っていいですか、これ最高なんですけど!」

 やろうと思えば屋根を取り払うこともできるのですが、そんなことをしたら人格まで変わってしまいそうです。車を離れる際には何度も振り返り、コーヒーを片手にまたうっとりしてしまう、パーキングでのひととき。ラングラーの凛々しい姿。シルエットが本当に美しい。この存在感は、単に奇抜なわけではなく、伝統と歴史の重みからくるものでしょう。正面の表情もいいですが、やはり横顔が一番好きです。

 新車のような革の香りに、コーヒの香りがブレンドされて、このまま海へと向かいたくなってしまう暖かな午後。遠出は今度のお楽しみにしました。

 1年半も恋い焦がれていた相手との最初のデートは1時間ほどのドライブ。もはや、不安や後悔なんて微塵もありません。守りに入らなくってよかった。買ってよかった。この高揚感は、きっと人生に必要なもの。そうして、ジープは家の車庫におかれました。

 

「わぁ、すっかりなおってる!」

 下町の工場で一週間ぶりの再会。強力なボンドのおかげか、綺麗に修理されていました。

「保証は一年だけど、今まで剥がれちゃったって人、いないから安心してね」

 確かに剥がれる気配がありません。ただ、まだ乾いていないってことはないでしょうが、退院したばかりなので、屋根は開けずに帰宅しました。

 

「え?ここどこ?」

「今日から君はここで寝てもらうよ」

「え、どうしてよ。おかしくない?あの子がこっちじゃないの?ねぇ、おかしいでしょ!」

 その日からビートルは、家から少し離れた駐車場で眠るようになりました。実際、使用頻度はビートルが高いわけですが、しばらくはそばに置いておきたいのです。眺めているだけでも幸せなのです。ジープを肴にお酒を飲みたいくらい。さて、これからどこに連れて行ってくれるのか、非常に楽しみです。

2017年11月02日 13:51

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