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2017年06月09日
第707回「頻度マイスター6」
「ライフイズミュージック?」 インタビュアーがその言葉を書き留めた。 「ライフイズミュージック?」 小仲はそう言って、煙草に火をつけた。 「頻度がリズムで、人生が音楽なのはわかったけど、実際どうしたらいいわけ?」 「いまの頻度を見直すんだよ。例えば、飲みに行くのだって、なんとなくじゃなくて、週に一回とか、月に一回とか、頻度を見直すだけで、人生は豊かになるんだって。ほら、これだって、見直してもいいんじゃない?」 洋平は、吸殻が積まれた灰皿を指差した。 「余談ですけど、私は以前ヘビー・スモーカーだったのですが、今はほとんど吸いません。というのも、毎日吸っている本数を数えてみたら、それだけで減ったのです。意識するだけでみるみるうちに。つまり、タバコを無意識に吸っていた。それから、タバコは食後のみと決めたら、その一本の美味しいこと。なんとなく吸うことも悪くはないですが、リズムに組み込んだ一服は、格別なものになりました。少し大げさに聞こえるかもしれませんが…」 男は、少し間を置いてから、話を続けた。 「これから先、この国は衰退していきます。少子化、高齢化。政府が何を言ったって、何をしたって、もう、無駄なのです。ただ、衰退して行くことは悪いことではありません。長い歴史の中で、どの国も経験してきました。いけないのは、まるで成長しているかのように、国民を騙すこと。現実を受け入れないこと。我々は、衰退を楽しむべきなのです。」 「衰退を、楽しむ?」 「そう、享受する。そのために必要なのは、頻度を見直すことなのです。これ以上、経済的な豊かさを見込めることはできません。そもそも、経済的な豊かさが、人生の豊かさとは限りません。全く別の尺度。我々は、仕事の音が多すぎたのです。これからは、今までと違うリズムにするべきなのです。頻度を変えて、各々のリズムを奏でる時代。他の人のリズムに合わせる必要はありません。人の数だけ、リズムがある。我々は、奴隷に比べれば、どれだけ裕福なことでしょう。奴隷達の悲しみさえも、リズムが支え、素晴らしい音楽に変えたのです。リズムがあれば、どんな状況だって、素晴らしい音楽を奏でられる。たとえ世界がどうなろうと。それが、本当の豊かさなのです」 洋平は、音楽教室でのドラムのことを思い出していた。 「そう言えば、これを渡されたんだよ。」 洋平は、おもむろにカバンの中から紙袋を取り出した。 「なにそれ?」 洋平は袋の中を小仲に見せた。2017年06月09日 13:25
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