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2015年12月20日
第640回「シリーズ WHAT’S DJ? 第6話 つなぐこと」
「あれ?いつのまにか違う曲になっている?!」
クラブにいったことない人でも、そのような状況はあるでしょう。カフェや美容室
で耳を傾けてみれば、だれが作ったのか、曲がつながった状態の音楽が流れています。かつては、「SPIN OUT」や「STYLE」など、いわゆるMIXアルバムがCDショップに並び、飛ぶように売れていました。DJの名刺代わりでもあり、作品性が高いので、DJたちの憧れでもあったミックスアルバムのなかには、現場で培った素晴らしい「つなぎ」がたくさんありました。
曲を選び、順番に並べたら、あとはどのようにつなぐか。これもDJの個性・感性が表面化するところ。もしかすると、選ぶことや順番以上に、センスや人柄が浮き彫りになるかもしれません。連結部分に投影される世界観。この「つなぎ」こそ、DJの肝なのです。
「つなぐ」わけですから、途切れさせてはいけません。よくNON STOP MIXといいますが、文字通り、音をとめないのが大原則。もちろん、あえて止めることもありますが。DJが首を傾げてヘッドホンに耳をあてていますが、あれはフロアに流れているのと同じ曲ではなく、次にかける曲を聞き、スタートの位置やテンポなどを「耳で」確認しているのです。
説明するまでもないかもしれませんが、DJブースにある機材は、レコードの針がそうであるように、曲のどこからでもはじめられるようになっています。CDコンポや他の再生機器はアタマからだと思います。これによって、つなぎには不要な部分をそぎ落とした状態でスタートさせることができます。それでは実際につないでみましょう。
たとえば、4分の曲が15曲あるとします。便宜上、セレクトも順番も、あらかじめ決められているとします。それをそのまま流せば、60分ですが、当然DJたちはそんなことはしません。
フルでかけてアウトロで乗り変わる礼儀正しいつなぎもあれば、一回サビを聞いたらすぐ乗り変わるテンポのいいつなぎも可能です。毎回ワンコーラスで変えていけば、15曲かけても30分くらいかもしれません。そのときの気分や、フロアの空気に左右されることもあります。これも教科書にのっているわけではありませんが、センスが問われます。15両の列車のように、同じ長さの車両をつなげる人はあまりいません。やはり人間なので、長い車両があったり短いのがあったり。そのほうが、メリハリが生まれます。60分の間に山をふたつ作りたい、みたいな大きなイメージのなかで、曲を連結させていくのです。
どこで連結するかの次に大事なのは、この連結部分自体の長さです。8小節のときももあれば、2分くらいかけて次の曲に移行する場合もあります。のりしろもなく、ぶっこむこともあります。なにが正しいわけではありません。大事なのはその場のノリ。自分の中の美学を追求するものもいれば、フロアの盛り上がりを一番に考える人もいます。
つなぐ際には、いま流れている曲と次の曲のテンポが一致していることが理想なのですが、ここで重要となるキーワードがあります。そう、「BPM」です。BEAT PER MINUTE。いわゆる曲の心拍数。クラシックでは、「アンダンテ」、とか「アレグロ」といった、ニュアンスで表記されますが、クラブミュージックはデジタルで作成されるので、明確に数値化されています。だいたいHOUSEやEDMはBPM125が一般的。127だったり130というものも少なくありません。かつて流行ったトランスなんかは135くらい。一分間で10拍なんて大した違いではないようですが、体感的にはかなり違います。一般的に曲を再生するものにはテンポを変更する機能はありませんが、ターンテーブルやCDJ、もちろんPCなど、DJブースにある機材は、テンポを変えるつまみがあります。
細かい話ですが、レコードはテンポをあげる、つまり回転速度をあげると音の高さも上がります。高速回転させれば「帰ってきた酔っ払い」のような声になるわけですが、CDJは音の高さを変更せずに速度だけを変えることもできます。(そもそもCDは速度をあげるといってもCDの回転が早くなっているわけではありません。あくまで、デジタル処理です。)また、連結部分は一度にふたつの曲が流れているので、普通に考えるとやかましくてしょうがありません。そのあたりは、DJミキサーでバランスを調整しています。ちなみに、クラブミュージックは、そういったのりしろ部分を多くとってある曲が少なくありません。
こういったことを踏まえても踏まえなくてもいいのですが、言葉で説明すると、このような環境で「つないで」いるのです。つなぐことで気持ちが高揚する人は、DJに向いているといえるでしょう。なぜ気持ちいいのかを言葉で説明するのは難しいですが、とにかくこの気持ち良さを一度味わってしまうと抜け出せなくなってしまいます。だからといって、その気持ち良さに溺れるとあまりよくありません。
「つなぐことは大切だけど、つなげばいいってもんじゃない」
安定してつなぐことがすべてではないということ。むしろ、いったん離れていたものがかみあっていくダイナミズムも心地よいもの。とにかく、いろいろなつなぎかたで表現できるほうが寿命は長いと思います。
良いつなぎ、悪いつなぎ。厳密なことをいえば、曲のコード進行やリズムの打ち方、譜割りなどでその気持ち良さに影響はでます。もちろん、どのタイミングで次の曲がスタートするかも。しかし、結局のところ、好きなようにつなげばいい、たのしければいいのです。自分が気持ち良いと思ったところで次の曲を発車させればいいのです。
PCDJからはいると、勝手にテンポを合わせてくれる機能もあるので、「つなぎ」の面白さが半減してしまうのですが、目であわせるにせよ、音であわせるにせよ、機械に任せるにせよ、「あそこのつなぎ、最高でした!」と言われて、悪い気になるDJはいないでしょう。DJにとって「つなぐこと」が、DJプレイの柱なのです。
2015年12月13日
第639回「シリーズ WHAT’S DJ? 第5話 順番の大切さ」
「それじゃぁ大将のおまかせで!」
この言葉を放った瞬間、カウンターの向こうはまさしくDJブースに変わります。木のカウンターというダンスフロアに、握りというナンバーが流れる。ガリは小さなミラーボール。両手を上げるかわりにお客さんは、舌鼓を打つ。DJ握りがフロアを熱くするのです。
「なんでいきなりカルビなんだよ!まずはタン塩だろ!」
そんな風に、お肉の焼く順番に目くじらをたてる人がいたら、それはまさしくDJカルビ。お肉の順番から、火加減、網を変えるタイミングにこだわる男。
「え、餃子が先に来ちゃったよ。。」
ラーメンと餃子の順番にこだわっている人は、DJザーサイ。中華に限らず、コース料理なんてまさしくDJ的感覚。前菜にはじまり、お口直し、メイン、デザート。お口のなかはダンスホールなのです。DJフレンチが味見をする姿は、まるでヘッドホンで次の曲を確認しているかのよう。
サラダは先がいいとか、飲み物はあとがいいとか。イチゴを最初に食べる人、とっておく人。我々の日常の中で順番を決めることは、珍しい作業ではありません。野球の打順や、デートコース。もっというと、政府だって、国民というフロアのお客さんの心をコントロールするために、政策の順番はかなり慎重に決めています。ボタンを掛け違えてしまうとまた一からやり直しというように、順番はとても大事なのです。
「いい流れ」という価値観があります。メジャーリーガーに、「あそこからの流れよかったですね」っていうと、「は?ナガレってなに?」となってしまうそうです。つまり、あくまで個人的な概念しかなく、流れがよかったという感覚は希薄なのだと、聞いたことがあります。しかし、日本人は、「流れ」とか「空気」という非常に曖昧なものを、むしろ、個人よりも大事にしている気がします。
DJという人々は、そんな「流れ」を大事にしています。彼らが全員お肉を焼く順番にこだわるかどうかはわかりませんが、「順番にこだわる人種」なのです。
たとえば曲が10曲あるとして、それをどのような順番でかけるのかというのは軽視できません。同時に、その順番を考える時間はとても楽しいです。最近では、シャッフル機能という偶然性の美学もありますが、それだって普通に感じるときと、いい流れを感じるときとあります。ベートーベンだって、最後に歓喜の歌をもってきたことに意味があるわけで、アルバムの曲順しかり、作り手からしても、順番は軽視していないはずです。
ただ、DJは順番にこだわりますが、こだわり方は十人十色。暗い曲のあとに明るい曲をかける人。1時間ずっと同じテンポでいくひと。フランス映画のような一時間もあれば、ハリウッドアクション映画のような一時間もあります。もちろん、正解はどれということではありません。ですが、順番が違うとだいぶ印象も違います。いかに気持ちいい順番になるか。高揚感をキープできるか。順番を決めることは旅のルートを決めるようなもの。ゴールまでもどのような景色を見せることができるか。でも、これだってこだわりのひとつにすぎず、あくまでひとつの方法論。
「好きな流れ」とか、無意識的なそれが実際のDJプレイに影響するもので、ある程度スターティングメンバーが決まっている人もいば、つねに行き当たりばったりの人もいます。決めないこだわり。僕自身も、やりはじめた頃は、メモ帳に順番を書いて、BPMまで記入していたものです。それを忘れてしまって家に取りに帰ったこともありました。それこそ、「いい流れでかける」ことに対する人並みならぬ美学を感じていたからでしょう。
こだわり方がどうであれ、DJの皆に共通することがあります。それは、一曲目をどうするか。ある程度、そこで方向性が決まってしまうので、一曲目に悩むことは珍しくありません。一度スタンバイしたものの、「やっぱり違う!」とか、前のDJの最後の曲で急遽変更になることはよくあります。逆に一曲目が決まれば、あとは比較的スムーズです。「次の曲はフロアが決める」というDJもいれば、プラン通りに結構する者。 僕なんかのように、次の曲が聞こえて来るDJもいます。作家にしても、出だしの表現が決まらないものですが、逆にここを突破すれば、するすると出てくる。一曲目を決めることは、のちの順番決めとはまた違う筋肉を使用している気がします。
いきあたりばったりというこだわり・スタイルにも価値はあります。毎回くじ引きで次の曲が決まるという企画だってときにはありでしょう。その人の個性がでればなんでもいいのです。正解なんてありません。ただ、絶対にやってはいけないことがあります。それは、ミックスされた音源、つまり、すでに曲順が決まり、つながっている音源を垂れ流すことです。やむを得ない状況をのぞき、これは禁断の果実。しかも、だれにも旨味をあたえない果実。それ以外であれば、なんでもありなのです。
なんでもありだけど、現実には、「いまの流れよかった!」という瞬間は多々あるのも事実。分析をすれば科学的な説明はできるのでしょうが、ここらへんはセンス・感性という言葉で片付けてしまったほうがよさそうです。やはり最終的には、個性。スタイルがある人はやはり強いです。面白みのあるDJもいれば、そうでもないDJもいます。それは盛り上げているかどうかではなく、音楽になっているかどうか。いま、音楽が作られているか。そして、好きなんだという気持ち。その思いが楽曲にのせられるかどうか。センスの押し付けはよくないですが、媚びすぎていてもだめ。盛り上げたもん勝ちともいいますが、その価値観ではいつか痛い目を見てしまいます。順番を大切にしている人々ではありますが、予定調和にならないようにすることも大切。エンターテイメントの世界ではみなに共通することでしょう。たかが順番、されど順番。順番に翻弄されてDJたちは夜を彩るのです。
2015年12月06日
第638回「シリーズ WHAT’S DJ? 第4話 選ぶこと」
つなぐ大切さの前に、しなくてはならないことがあります。それは、選ぶことの大切さの話です。
「作曲家がデザイナーなら、DJはスタイリストのようなもの」
DJを説明する際に、このように例えると、納得してもらえることがあります。あくまで服を作るのはデザイナーだけど、組み合わせたりコーディネートするのはスタイリストの役割。彼らは服を作っているわけではないですが、その存在はとても重要です。僕がテレビに出る際に着る服を用意してくれるのですが、スタイリストがいないといつも同じ服になってしまいます。一回ならまだしも、毎回自力で選ぶとなると、容易なことではないし、それに、センスが問われます。服は作らずとも、無限にある服のなかから服を選んでコーディネートする作業は、ひとつのスタイルを構築するわけで、それは服を作ることと同じくらい重要なこと。そのあたりが、DJと非常によく似ています。
最近は、両方やってしまうDJが増えてきていますし、世界的に有名なDJのほとんどは、作った曲で名を馳せて、DJプレイで世界を飛び回る、という流れになっています。だからDJというと、「人の曲ばかりかけてるくせにアーティストぶりやがって」と、いわゆる人の褌で相撲をとっている印象を抱かれがちですが、実は、自前の褌で相撲をとっているDJも多いのです。もちろん僕も、自前の褌。デザイナーであり、スタイリストでもある。どちらが優れているということではなく、あくまでスタンスの違いなのですが、DJといっても人の曲をかけているばかりではないというのは知っておいてもいいでしょう。なんせ、ビルボードのトップ40などを見れば一目瞭然。ヒットチャートに並ぶのはDJの名前ばかり。それだけ、ダンスミュージックが世界で求められていることの裏返しでもありますが、もはや、ヒットソングをDJが作っている構図ができています。
だからといって、人の褌で相撲をとっているDJの肩身が狭いかというと、そうではありません。人の褌であっても、立派なアーティストなのです。
最近では、定額制サービスの音楽配信が日本でも見かけるようになりました。一ヶ月数百円で数万曲の楽曲を聴き放題。といえば、聞こえはいいですが、実際何万曲もあったところで大して聴きません。なぜなら、曲がありすぎて、何を聞いていいかわからないのです。そこで求められるのが、プレイリスト作成者という存在。いわゆる、くくりすと。
カフェコンピやダンスコンピ、ジャズコンピからクラシック。無限にある楽曲から、ニーズにあった楽曲を選ぶこと。このような、キュレーターの存在は、情報過多な時代にとても重宝されるのです。ニーズに合うというよりも、くくることで新たなニーズが生まれる。数万曲聴き放題という満足感にも価値はありますが、やはり活用できてこそその真価が発揮されるというもの。膨大な量の楽曲が放置されたままではもったいない。どんな世界でもそうです。専門でないユーザーたちは、どうしたらいいかわからない。ネットが普及してからはとくに、選ぶ人、くくりすとの存在感が高まっているのです。
あまたあるダンスミュージックから自分でセレクトしてダンスフロアに届けることももちろんくくりすと。立派なアーティストなのです。音楽のスタイリスト。だから、曲の選び方に個性やセンスが現れます。同じ1時間でも大きく違いが出るのです。もちろん、フロアの状況に応じて流れを変えたりもしますが、選ぶことにDJ作業のスタートがあるといってもいいでしょう。では、選んだら次はなにをするのか。次回は、順番のお話をしましょう。