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2014年03月24日

第565回「ふかわ大陸はどこにある?」

「4月から、なにか変化ある?」

 この時期になると、メイク室で飛び交う言葉。あたりまえのように存在していたいくつもの番組がこの春で終了し、なんだか、大きな歴史的転換点を感じずにはいられないのですが、ここまで大きなケースは稀にしても、「4月」は、世間と同じように、なんらかの変化が生じる時期。僕はといえば、大きな変化はなく、「ロケットマンショー」は9年目、「きらクラ」は3年目。「5時に夢中!」も就任してから3年目に突入することになりました。これだけたくさんのタレントさんが存在するなかで、「変化なし」というのは幸運にちがいないでしょう。つくづく恵まれているなと思うのであります。

 ことに「5時に夢中!」に関していえば、これまで月曜日から木曜日までの司会を務めてきましたが、このタイミングでまさかの「一曜日追加」。月曜日から金曜日まで担当することになりました。いまとなっては、ローカル局とは思えないほどの認知度と影響力を持ったこの番組。なんだかんだ、司会をやりたいと思っている方もたくさんいらっしゃるかもしれません。そんな中で、継続に加え、一日追加という判断をいただいたことは本当に光栄なこと。ただ、これまでは、木曜日の18時に燃え尽きてしまった体を、金曜日のクラシック音楽で癒し、土曜日の深夜に、一週間に溜まったものをぶちまける、そんな流れがあったのですが、たかが一日、されど一日。金曜日が追加されることによって、体に、日常生活に、どのような影響を及ぼすかはやってみないとわからないところ。しかも、共演メンバーから想像しても、決して油断することの許される日でないことが窺えます。未開の地へ踏み込む感覚。

 初年度からいきなり月金よりはまだ、多少の肩慣らしはできているかもしれません。そういう意味ではちょうどいいタイミングなのでしょうが、もはや、日常生活の大半を半蔵門で過ごすことになるわけです。もはや、契約社員から正社員になった気分。僕は、MXテレビに就職してしまったのでしょう。そろそろ、普段使う楽屋でアロマでもたきはじめるかもしれません。家から加湿器とか持ってきて、テーブルとか、絨毯とか、内装も自分好みにカスタマイズ。もちろん、ほかの方も使うので、実現不可能ですが。 昔と違うのは、いろいろと打診されること。判断を委ねられること。「どうしますか?」 と打診され、いま基準になっているのは、「人生で、そんな時期があってもいいか」という感覚。一生続くわけではなく、僕は、いま、そんな時期にいる。

テレビ、ラジオ、舞台、作曲、執筆。いったい、情熱大陸はいつ僕に密着してくれるのでしょうか。いまを逃したらもう、密着しがいのある時期はやってこないと思います。次の現場へのタクシーのなかで語ることも準備しているのに。カメラ持ってアイスランドにだって行くのに。いまのところ一切打診がないので、よほどのことがなければ情熱カメラは向けられないでしょう。なので、どうかみなさんのレンズは、こちらに向けていてください。大陸と呼べるほどの規模ではないかもしれませんが、きっと「ふかわ大陸」が見えてくるはずですから。

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2014年03月16日

第564回「わがまま王子の憂鬱」











むかしむかし、あるところに、とってもわがままな王子がいました。人のいうことをきかず、なんでも自分の思い通りにしないと気が済まない、とてもわがままな王子。そんな王子が、どうしてもやりたいことがありました。





「そんなことしてはいけません!この国に時計はひとつしかないんです!」





「なぜ時計は思い通りにならない?」





「なにを言ってるんですか、時計とはそういうものです!王子のいうとおりに動かしたら、大変なことになってしまいます!」





窓から時計台を眺めながら、王子はため息をもらしました。どうしてあの時計は思い通りにならないのだろう。どうしたらあの時計の針を動かすことができるのだろう。この世のものはなんでもいうことをきくのに。





「運動会?!」





執事は目を丸くしました。





「そうだ、運動会だ。この国のみんなで運動会をするんだ!」





王子のわがままがはじまりました。さすがに執事もこんなわがままははじめてでした。





「運動はからだにいいことだ。競うことで団結力も生まれる。悪いことではないだろう?」





そうして国をあげての運動会へと、準備がはじまりました。





「運動会?」





町のみんなは大きな張り紙に釘付けです。





「全員参加らしいぞ!」





「賞品もあるみたいだぞ!」





「俺、綱引きなら自信あるぞ!」





そして、運動会の日がやってまいりました。今日ばかりは、町の者はみな仕事をせず、運動会に参加します。王子は朝からそわそわしていました。それは、運動会があるからではありません。





「よし、いこう!」





運動会がはじまると、王子はだれもいない丘へ向かいました。





「高いなぁ…」





空にまっすぐのびる時計台を見上げています。運動会で町のみんなが気を取られている間に、時計を動かしてしまおうという魂胆でした。時計台の扉をあけ、らせん状にのびる階段をあがっていきます。





「ふー、こんなに高いとは…」





頂上にでると、素晴らしい景色が広がっていました。そこから、運動会の様子も見えました。





「いまなら、だれも、気付くまい…」





王子は手を伸ばすと、大きな針をゆっくり動かしました。





「すべて、僕の思い通りだ…」





時計の針が不自然に動いたことは、だれも、気づきませんでした。





「王子!どこへ行かれてたんですか?!」





王子の顔は埃だらけで黒ずんでいます。それでも王子はやりたいことができて満足げでした。王子にとって世界は、自分のものでした。





「次は、あの国旗だ…」





王子は、これまで代々受け継がれてきた国のマークさえも変えたくなりました。





「次の運動会はいつにしようか」





王子は、変えたいものがあると、運動会を開きました。この国の大切なことはすべて、運動会の間に変えられてしまいました。王子の思い通りにならないものは、もう、なにもありませんでした。













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2014年03月09日

第563回「銃声の鳴る城で」




 むかしむかし、あるところに、ひとりの王様がいました。かれはとても臆病で、いつも、だれかが自分の悪口をいっていないか、心配していました。それでもし、王様の悪口をいっていたり、ちょっとでも王様の意に反することをいっていたら、すぐに城へ呼び出し、銃で撃ち殺していました。





「王様、連れてまいりました…」





王様の信頼する家来の一人、マスコーニが町から戻ってきました。





「そうかそうか、今日は何人だ?」





「今日は、7人でございます」





「どんな、悪口をいっていた?」





「ひとりは王様の顔に対して、ひとりは王様の政策にたいして…」





マスコーニは得意げに答えました。





「それは許さん!」





王様は銃を構えると、壁の前に並べられた人々を、順番に撃ち殺しました。





 





「また、だれか、殺されたか…」





 今日も、銃の音がきこえていました。町の人々は、その音を聞くたびに嫌な思いになり、王様に対する不信感は募りましたが、決して、口にはしませんでした。口にすればすぐに城に連れていかれるからです。





 





「ひとりは王様の服装に対しして、ひとりは王様の好き嫌いに対して、ひとりは…」





マスコーニは、来る日も来る日も、王様の悪口をいっている者を探しに町へ繰り出しては、男たちを城へ連れてきました。ときには、女が混ざっていることもありました。





 





「私は悪口はいっていません!どうか殺さないでください!」





「悪口なんていっていません!いままで王様のために働いてきました!」





 





なかには、連れてこられて言い訳する者や、暴れる者もいました。それでも、王様は許してあげませんでした。なぜなら、一度、許して町へ返した者が、再び王様の悪口を言っていたからです。





 





「ったく、どうして皆、悪口をいうのか…」





何度撃ち殺しても、城に連れてこられる者は後をたちません。みんな死にたくてわざと悪口を言っているのかと思ってしまうほどです。





 





「ちょっと待ってください!私は悪口なんて言っていません!」





「いや、言った!あれは間違いなく悪口だ!」





「どうしてですか!ぜんぜんそんな気はないんです!誤解です!」





連れてこられたのは、城に住む家来のひとりでした。王様は、マスコーニのいうことを信じ、連れてこられた男を撃ち殺しました。それからというもの、城のなかでさえも悪口を言っている者がいれば、いつもの部屋で撃ち殺すようになりました。





 





「どうしてみんな、悪口を言うのか…」





王様は、言いました。誰も殺さない日がないのはどうしてだろう。自分がいけないのだろうか。王様は、なんだか眠れなくなりました。





「王様がいけないのではありません。悪口をいう奴らがいけないのです!」





マスコーニは言いました。





「安心してください。私の、王様に対する忠誠心は永遠です。みんなが裏切ろうと、私だけは、死んだって王様を裏切りません!王様に忠誠を誓う者だけでこの国を守りましょう!」





そして、朝が訪れました。





 





「やめてください!!」





その日も、たくさんの町人、そして家来たちが連れてこられました。





「この男は、別の国の王様のほうが素晴らしいと言っていました。この男は、前の王様のほうがよかったと。そしてこの男は…」





壁の前にずらっと並べられ、マスコーニがひとりひとりの言動を紹介すると、王様はいつものように銃を構えました。





 





「パーン!!」





 銃声が、町に響きわたると、ちょうどお昼の鐘が鳴り始めました。町の者も、銃声をあまり気にならなくなっていました。それから一時間たったでしょうか。





 





「おい、どうしたんだい?!」





 町の人々が目を丸くしています。というのも、城に連れていかれた男たちが皆、町に戻ってきたのです。





「どうしたんだい?逃げ出したのかい?」





「いや、とんでもない!帰っていいって言われたのさ」





「言われたって、だれに?」





「そりゃ、王様さ!」





「王様?!」





迎えた町人たちは、口を大きく開けました。





「でも、お昼頃、銃声がきこえたぞ?」





すると、一人の男が答えました。





「あれは、マスコーニを撃ったんだ…」





「え?マスコーニを?」





「あぁ、そうだ。間違えて撃ったのかどうかよくわからないが、マスコーニを撃ったあと、もう帰ってよしって言われたんだ…」





町人たちには、なぜ王様がマスコーニを撃ったのかわかりませんでした。それからというもの、城から銃声が聞こえる日はありませんでした。



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2014年03月02日

第562回「よってたかる島」




 むかしむかし、あるところに、見太郎という男がいました。温厚というのか、無頓着というのか、とにかくたいていのことは大目に見てしまう性格で、周囲の粗相はもちろん、自分の粗相さえも許してしまうほど。それでいつからか、「大目に見太郎」と呼ばれるようになりました。そんな見太郎が、ある日、よからぬ噂を耳にします。





「なんだって?」





海の向こうにみえる小さな島で、鬼が悪さをしているとのこと。





「まぁ、大目に見てやろう…」





いつもならそうなるところですが、さすがに島を荒らしているとなると、大目に見るわけにもいきません。見太郎は船を出すことにしました。





「鬼はどこだ!でてこい!!」





しかし、見太郎を待っていたのは、いままでと変わらない島。穏やかで、波の音以外、なにもきこえてきません。





「なんだ、単なるうわさか…」





そう思いながら、島を歩いていると、ボロボロになった家を見つけました。





「あれか!鬼が荒らしたというのは!」





近づくと、おじいさんがうずくまって震えていました。





「どうしたんですか!」





おじいさんは、怖がってなにもいえません。





「鬼にやられたのかい?そうなんだね?」





しゃべろうとすると、なにかがつかえているように、言葉がでてきません。





「鬼はどっちへ行った?」





おじいさんはただ震えていました。





「僕が成敗してやるから、もう安心だからね」





そうして、島を歩きはじめると、また同じようにボロボロになった家を見掛けました。





「鬼なんだね?鬼がきたんだね?」





女の人が、ぶるぶると震えています。それからというもの、同じように荒らされている家をいくつも見掛けては、怯える人たちに食べ物をやりました。





 





「すみません、鬼は見かけませんでしたか?」





島の人たちに訊ねてみました。しかし、鬼を見たという人はだれもいません。いったいどうしたことでしょう。何度訊ねても、誰も鬼を見たことがない、そればかりか、鬼の存在さえ口にしないのです。そこで見太郎は、自分で見張ることにしました。





「きっと、現れるに違いない…」





日が沈むと、島は一気に暗くなり、なにも見えなくなりました。





「ぜったいに捕まえてやる!」





しかし、なかなか鬼は現れません。辺りはすっかり冷たい空気に覆われてきました。見太郎の体が、ぶるぶると震えはじめたときです。なにやら暗がりのなかで、大きな黒い影が動いているのが見えました。





「き、きたな…」





あんなに意気込んでいた見太郎も、実際に鬼がくるとなると、さすがに怖くないわけありません。この震えは、寒さだけによるものではなさそうです。大きな影が徐々にちかづいてきます。





「こればっかりは、大目に見るわけにいかない!こらしめてやる!」





黒い影が民家を覆うと、見太郎は、目を丸くしました。





「あれは!」





近づいていた黒い影は、鬼ではなく、人間でした。幾重にも重なった人間の影が民家を囲んでいます。





「なんでこんなことを!」





すると、彼らは一斉に、家にむかって石をなげこみました。





「やめたまえ!!」





すかさず発した見太郎の声に、家を囲んでいた人々の動きがとまりました。





「いったい、どうしてこんなことをするんだい!」





「うるさい!邪魔するな!悪者はこうされて当然なんだ!」





「悪者?どうして悪者なんだい!」





「島の掟を破ったのだからな!」





「そうだ、島の掟を破ったのだからあたりまえだ!」





彼らがいうには、この家の男は、船を停める場所を守らないのだそう。





「ならば、正々堂々と話し合ったらどうだい!」





「そんなことしてる暇はねぇんだよ!」





そういって、また、石を投げ始めました。





「やめろ!やめたまえ!!どうして寛容になれない!どうして大目に見てあげないんだ!」





すると、ひとりの男がいいました。





「お前、もしかして見太郎か?そうだよな、大目に見太郎じゃないか!」





「そうだ、それがどうかしたのか!」





「なんだ、やっぱり!大目に見太郎なら、俺たちのことも大目に見てくれよ」





見太郎は、手をぎゅっと握りしめました。





「よってたかっていじめる人たちを、大目に見られるわけがない!」





「だって、悪いのは掟を破ったこの男だからな。そんなこといってると、お前も同じ目に遭っちまうぞ!」





「卑怯だぞ!はやくやめたまえ!」





そう叫びながら必死に体にしがみつく見太郎の頭に、石が命中しました。





 





「ここは…」





昨晩のことはなにもなかったかのように、静かな朝が広がっていました。





「おはようございます」





村の人が声をかけてきました。





 





「それで、鬼はいたのかい?」





見太郎は首を横に振りました。





「あの島には、鬼はいなかった。けれど、もっと恐ろしいものがいた…」





「もっと、怖ろしいもの?」





「そう。とてもとてもひとりじゃ手におえない、怖ろしいもの…」





「鬼よりも、大きいのか?」





「あぁ、鬼よりも大きいさ…」





それからというもの、あの島は、よってたかる島と呼ばれるようになりました。





 



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