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2021年01月25日

第862回「恋とマシンガン」

 

 雑誌の対談で向かったのは六本木にあるスタジオ。雪になりそうな冷たい雨の中、建物の脇にある駐車場に車を停め、館内のエレベーターを上がるとそこには、教室の隅に座る生徒のように、彼の姿がありました。

「早いね、もう着いてたの?」

 バカリズムとして知られる彼のことを、私はマスノと呼んでいます。最近こそあまり共演するタイミングはないですが、かつて、頻繁に会っていた時期がありました。「ミツバ学園中等部入学案内」のイラストを担当してもらったのはご存知の方もいるでしょう。当時は原宿のジョナサンに入り浸って作業していたのですが、「ロケットマン」のロゴもその流れで描いてもらいました。まるで中学の同級生のように、ドリンクバーで長居して、しょっちゅうつるんでいたのです。

 出会ったのは、フジテレビの「P-STOCK」という深夜番組だった気がします。バカリズムがコンビだったとき。それ以前に存在は知っていたかもしれません。若手がたくさんいる中で、僕は、彼が面白がっていることに、類稀なる才能を感じていました。そこからどうやって距離が近くなっていったのかは覚えていないのですが、いつの間にか、お互いの感性を尊重し、理解し合える仲になりました。

 1998年。僕はすでにテレビタレントして活動していましたが、マスノはまだ知る人ぞ知る若手芸人。そんな二人がいつものようにファミレスでふざけて笑いながら本を製作しています。そして、作業が煮詰まってくると、僕が言いだすのです。

「ちょっと外の空気でも吸いに行く?」

「そうですね、行きましょう」

 それは、街に繰り出し、ナンパをすることをさしました。集中力が切れるといつもこの流れ。同潤会アパートの前を通るおしゃれな女性たちに声をかけようと、意気込んでファミレスを出ます。

「じゃぁ、あれ行く?」

 遠くからやってくる女性二人組を発見し、二人で打ち合わせます。しかし、いざ近くにやってくると、二人は突然黙り、一切声をかけずに素通りします。

「ちょっと違ったな。なんかプライド高そうだったな」

「ですね、今のは行かなくて正解だと思いますよ」

声を掛けられないのではない、掛けなかったんだ。散々悪態をついて、お互い傷をなめ合いました。

「場所が悪いな」

「そうですね、表参道は違いますね」

 ある日のこと。ナンパがうまく行かないのは自分たちのせいではなく、場所のせい。そうしてたどり着いた、小田急線新百合ヶ丘。ここならプライド高い女性はいないだろうという理由です。

「ちょっと、ここも違うな」

「ファミリー向けの街ですね」

 結局、ろくに声も掛けず、近くのカラオケボックスに二人で行きました。本当は女性を誘って行きたいのに。最後は二人で、フリッパーズギターの「恋とマシンガン」を歌っていました。

 それから数年後、マスノのテレビ出演も増え、それぞれの活動の場所ができ、あまり接点がなくなりました。それでも、同級生のように、彼の活躍は嬉しく思っていました。そんな中で、驚いたことがありました。

 彼がテレビドラマの脚本を担当することになった時、私は勝手に不安を抱きました。彼のセンスがお茶の間に受け入れられるだろうか。そんな心配を胸に、ドラマの第一話を見ました。

「お茶の間に合わせに行ってる!!」

 完全に取り越し苦労でした。彼は、しっかりとゴールデンタイムのお茶の間に合わせた脚本を仕上げていたのです。その後の彼の活躍は、いうまでもありません。今や名実ともに不動の地位。彼の才能が何度も開花しています。

「あの頃、楽しかったよね〜」

 もう彼は独身ではないので、新百合ケ丘でナンパはできませんが、また、いつか一緒に仕事をして、その帰りにカラオケで、「恋とマシンガン」を歌いたいものです。

 

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2021年01月20日

第861回「半地下DISCO」

 

 緊急事態宣言に始まった2021年。昨年のそれに比べると、非常事態の印象は薄まっているようです。やはり、人間は慣れる生き物。コロナの観点で言うと、賛否あるかとは思いますが、社会のあり方でいうと、健全な姿かもしれません。

 私個人的なことになりますが、1月2日に3回目となる「ほろ酔い朗読会」を、そして8日には、初めての配信DJ、「半地下DISCO」を開催しました。文字通り、自宅の半地下部屋からお届けする、生DJミックス。遭遇した方いらっしゃいますでしょうか。

 昨年、三宿webが閉店するなど、すっかりDJをする機会が減ったためか、公私共に、しばらくクラブ・ミュージックからも遠ざかっていたのですが、年末あたりから気持ちがあがってくる感覚があり、移動中の車内で低音が響くようになりました。そうして年が明け、「朗読会」で自宅からの配信に慣れてきたこともあり、DJの配信も試してみたくなったのです。

「いま、やれることをやろう」

 いくつかクラブから声を掛けていただいたものの、断らざるを得ない状況が続いていたことと、緊急事態宣言という空気が、私の背中を押してくれた気がします。おそらく、例年のような日常を送っていたら、自宅から配信する必要性を感じることもなく、このような心境にまで至らなかったでしょう。

 実際配信となると、朗読会のように部屋で流れる音をスマホのマイクが拾うのではなく、機材から直接ケーブルでスマホに繋ぐので、いくつか買い足すものも出てきます。なんとか発信側の環境は整えてみたものの、これがネットを介し、参加者の手のひらでどのように鳴るかはやってみないとわかりません。今日はもう疲れたから、今度でいいかと、先送りしようとしました。

「試しに半地下discoやってみます」

やはりいまやるべきだろう。ツイートをして、逃げ道を塞ぎました。

 その数分後の22時。配信開始のボタンを押し、インスタグラムでの初DJライブ配信「半地下DISCO」が始まりました。

 事前告知なく始まったものの、一人二人、五人六人と、瞬く間に集まって、トータルでは300人以上のお客さんが来てくれました。突発的で慌ただしかったかと思いますが、いきなり始まるDJというのもなかなか面白いような気がします。また、椅子に座り、自分のトラックのみで繋いだ約30分のDJは、目の前にお客さんこそいないものの、流れる参加者のコメントに、フロアの人たちの心境が伺えて、とても楽しく過ごせました。思い立ったら即DJ。ゲリラ豪雨のようにゲリラ配信によるDJ。仮に、コロナが収束しても、このスタイルは残ってもいいような気がしました。

 奇しくも「半地下の家族」がテレビで上映されていたタイミングだったようですが、実際、「朗読会」と「DISCO」は、同じ半地下でも、別の部屋。ほとんど使用せず、物置と化していた空間にブースを設置し、ようやく役に立ってよかったです。背景となる、コンクリートの打ちっぱなしの風合いが地下感を醸し出しています。「半地下」にこだわって部屋を探した甲斐がありました。あまり登場しなかった機材「DJコントローラー」も活路を見出しました。

 朗読会のようにアーカイブは残していませんが、お風呂に入るときに、自分のミックスを聴いています。尺的にもちょうどいいのですが、考えてみれば、自分のDJミックスってほとんど聴いたことがなかったので新鮮でした。

 急なお知らせにも関わらず駆けつけてくださった皆さんありがとうございました。今後も、あまり前もってお知らせしないかもしれませんが、たまたま遭遇した虹のように、タイミングも含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。ということで、今年もよろしくお願いします。

 

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