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2019年12月25日

第816回「とんぶりの旅2019冬〜中編〜」

 

 校舎が近付いてくると、どこからか声が聞こえてきました。

「おーい!!」

 見上げると、教室の窓から身を乗り出すように、みんなが手を振っています。まるで映画のワンシーンの中にいるようです。ちょうど休み時間だからでしょうか。全校生徒が笑顔で迎えてくれました。込み上げるものをぐっとこらえて、手を振り返します。

「ふかわりょうさん、今日はお越し下さりありがとうございます!」

 下駄箱を抜けた一階のホールに、生徒たちの歓迎の挨拶が響き渡ります。

「今日はよろしくお願いします」

 教頭先生に案内されて歩く廊下は、自分の母校ではないのに懐かしい匂いがします。全校生徒で100名ほどですが、校内はとても活気があって、元気な大館の子供達が飛び回っています。

「とんぶり食べてる?」

「食べてる!」

「今日給食に出た!」

 まるでディズニーランドのミッキーのように、行く先々で子供達が群がってきます。きりたんぽ祭りの舞台上で駄々をこねた少年もいました。校長先生と挨拶を交わし、T-1グランプリの会場に向かいます。

「それでは、今日審査員を務めるふかわりょうさんです!」

 調理実習室には、エプロンと三角巾をつけた4年生の生徒たち、父兄の方々、そしてたくさんの報道陣が待っていました。4年生はきりたんぽ祭りでも一緒に踊っているので、もうだいぶ顔馴染み。

「今日はみんなのとんぶり料理を楽しみにして来ました!とんぶり大使として、全国に広められるような、素敵な料理を期待していますね!」

 3つのグループに分かれて、それぞれ一品ずつ調理するようです。どんなとんぶり料理ができるのでしょう。調理の様子をしばらく見届けたら、マスコミの取材に応じる時間。夕方のニュースに流れることで、とんぶりが家庭の食卓に並びやすくなります。

「ここ音楽室ですか?」

 移動中、廊下の端にある部屋が気になりました。音楽準備室と書かれた札。中に入らせてもらうと、そこにも懐かしい彩が待っていました。

「これって、後でお借りしてもいいですか?」

 僕の頭の中で、アイデアが浮かびました。そろそろ、料理もできる頃でしょうか。

「みなさん、できましたか〜?」

 美味しそうな香りで充満した教室。審査員席に座ると、3つのとんぶり料理が出てきます。炊き込みご飯のようなとんぶり飯と、ふんわり卵で浮かせたとんぶりの味噌汁、そしてもう一つは、ホワイトチョコレートを使用したとんぶりチョコレート。

「ナイスとんぶり!」

 それぞれに工夫が見られ、どれも素敵なとんぶり料理でした。審査員だけでなく、みんなで投票して、一番票の入ったものがT-1グランプリの優勝になるのですが、今年はとんぶり飯がグランプリになりました。

「ご馳走様でした!」

 審査が終わると、もう一つ、依頼されたことがありました。それは、30分ほどの講話。全校生徒と父兄の方々が集まった体育館。窓の外は雪が降っています。暖かな拍手の中を僕は、歩いて行きました。

 

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第817回「とんぶりの旅2019冬〜後編〜」

 

「グランドピアノがあるそうです」

 T-1グランプリに参加するだけではく、放課後、体育館で講話をしてほしいという依頼があったのが数ヶ月前。せっかくみんながいるのだから、ただ話をするよりも、みんなで「とんぶりの唄」を歌いたい。それもCD音源ではなく、ピアノ伴奏で。そんな願いを込めて、学校に確認すると体育館にはグランドピアノがあるとのこと。環境は整いました。

「とんぶり応援大使のふかわりょうさんです!」

 拍手を浴びて向かう、体育館のステージ前。講話のテーマ「とんぶりの輪」と書かれた垂れ幕。席に案内されると、まずは4年生による「とんぶりの唄」の踊りがステージ上で披露されました。歓迎の儀式のようです。

「すごい!変わってる!」

 とんぶりの帽子をかぶった子供達がステージいっぱいに広がって、新たなフォーメーションができていました。いつ練習したのか、今日のために考えてくれたのでしょう。きりたんぽ祭りでは背後で見られなかったので、こちらも込み上げるものがありました。ステージから子供達が戻ってくると、講話の時間。と言っても、小学生なので込み入った話はすぐに飽きてしまいます。クラスメイトや先生、お母さんやお父さん、毎日見ている景色こそが奇跡なのだということを伝えました。今はピンとこなくても、きっと、いつかわかってくれるでしょう。

「それでは、例の物を持ってきてください」

 今年はとんぶりの輪を実感する一年でした。とんぶりのおかげで、たくさんの人と出会い、素敵な景色を見ることができました。そして今日の交流が一過性のものでなく、これからも続くように、これからみんなで唄いましょう。教頭先生に合図を送り、音楽準備室に眠っていたタンバリンや鈴などが運ばれてくると、それぞれに生徒たちが群がります。

「この楽器やりたい人!」

 颯爽と手が挙がった中で、体格のいい、やんちゃそうな男子に任せたのは、ウィンド・チャイム。シャラララーンと綺麗な音が鳴る楽器です。

「風になってこのチャイムを鳴らすんだよ。君の感覚でいいからね」

 グランドピアノの前に座り、軽く前奏を弾くと、合図なしでみんなが歌いはじめました。もうしっかり体に入っているようです。

「では、次、本番いきますよ!」

 改めてピアノ伴奏が流れると、タンバリン、鈴、手拍子、ウィンド・チャイムが鳴り、歌声が聞こえてきました。

「食物繊維たっぷり!」

「ナイスとんぶり!」

 体育館の中に響き渡る声。全校生徒と、先生と、親御さんと、みんなで奏でる、とんぶりの唄。この模様が、夕方のニュースで流れました。

「今日は本当にありがとうございました」

 拍手の中、体育館を後にする応援大使。荷物をトランクに載せると、みんなに見送られながら、タクシーがゆっくりと進んでいきます。日帰りなので、あっという間に過ぎてしまいましたが、心に深く刻まれる一日になりました。大館の街を、雪が彩っていました。

 

PS:今年もご愛読ありがとうございました。来年は、112日(日)の配信からとなります。よろしくお願いします。

17:18 | コメント (0) | トラックバック

2019年12月20日

第816回「とんぶりの旅2019冬〜中編〜」

 

 校舎が近付いてくると、どこからか声が聞こえてきました。

「おーい!!」

 見上げると、教室の窓から身を乗り出すように、みんなが手を振っています。まるで映画のワンシーンの中にいるようです。ちょうど休み時間だからでしょうか。全校生徒が笑顔で迎えてくれました。込み上げるものをぐっとこらえて、手を振り返します。

「ふかわりょうさん、今日はお越し下さりありがとうございます!」

 下駄箱を抜けた一階のホールに、生徒たちの歓迎の挨拶が響き渡ります。

「今日はよろしくお願いします」

 教頭先生に案内されて歩く廊下は、自分の母校ではないのに懐かしい匂いがします。全校生徒で100名ほどですが、校内はとても活気があって、元気な大館の子供達が飛び回っています。

「とんぶり食べてる?」

「食べてる!」

「今日給食に出た!」

 まるでディズニーランドのミッキーのように、行く先々で子供達が群がってきます。きりたんぽ祭りの舞台上で駄々をこねた少年もいました。校長先生と挨拶を交わし、T-1グランプリの会場に向かいます。

「それでは、今日審査員を務めるふかわりょうさんです!」

 調理実習室には、エプロンと三角巾をつけた4年生の生徒たち、父兄の方々、そしてたくさんの報道陣が待っていました。4年生はきりたんぽ祭りでも一緒に踊っているので、もうだいぶ顔馴染み。

「今日はみんなのとんぶり料理を楽しみにして来ました!とんぶり大使として、全国に広められるような、素敵な料理を期待していますね!」

 3つのグループに分かれて、それぞれ一品ずつ調理するようです。どんなとんぶり料理ができるのでしょう。調理の様子をしばらく見届けたら、マスコミの取材に応じる時間。夕方のニュースに流れることで、とんぶりが家庭の食卓に並びやすくなります。

「ここ音楽室ですか?」

 移動中、廊下の端にある部屋が気になりました。音楽準備室と書かれた札。中に入らせてもらうと、そこにも懐かしい彩が待っていました。

「これって、後でお借りしてもいいですか?」

 僕の頭の中で、アイデアが浮かびました。そろそろ、料理もできる頃でしょうか。

「みなさん、できましたか〜?」

 美味しそうな香りで充満した教室。審査員席に座ると、3つのとんぶり料理が出てきます。炊き込みご飯のようなとんぶり飯と、ふんわり卵で浮かせたとんぶりの味噌汁、そしてもう一つは、ホワイトチョコレートを使用したとんぶりチョコレート。

「ナイスとんぶり!」

 それぞれに工夫が見られ、どれも素敵なとんぶり料理でした。審査員だけでなく、みんなで投票して、一番票の入ったものがT-1グランプリの優勝になるのですが、今年はとんぶり飯がグランプリになりました。

「ご馳走様でした!」

 審査が終わると、もう一つ、依頼されたことがありました。それは、30分ほどの講話。全校生徒と父兄の方々が集まった体育館。窓の外は雪が降っています。暖かな拍手の中を僕は、歩いて行きました。

 

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2019年12月13日

第815回「とんぶりの旅2019冬〜前編〜」

 

「条件つきのフライトとなります」

 この時期は珍しくないそうですが、あまり耳慣れないので不安を抱いてしまいました。到着地は雪。氷点下4度。着陸できない場合は羽田に戻る場合もあるという飛行機は、東北の連山を覆う真っ白な雪の上を飛んでいました。

「どうか着陸できますように…」

 ゆっくりと高度を下げる機体が地面に接近していきます。

「よかった…」

 なんとか着陸。安堵の一行をJAあきた北の方と、大きななまはげが出迎える大館空港。空港こそ違いますが、もう毎月のように秋田を訪れています。

「ちょっと降りすぎましたね」

 この時期にしては地元の方でも驚くくらいの積雪だそうで、おそらくこれが根雪となって春まで残るだろうとのこと。それでも、東京から来た者にとってタクシーの車窓を流れる銀世界は美しく、雪化粧した木々や田畑に、いつまでもレンズを向けてしまいます。

「あそこがとんぶり工場です」

 とんぶりを加工する工場の前を通ります。いくつか工場はあるそうで、中には中国産のものを加工して販売する商品もあるそうですが、もちろん「応援」しているのは大館で栽培された、正真正銘、国内産のとんぶりです。

「じゃぁ、きりたんぽいっちゃおうかな」

 以前、旅の拠点となった道の駅で腹ごしらえ。そういえば朝早かったのでまだ何も食べていません。きりたんぽ鍋の周りを、比内地鶏のたたきや焼き鳥が囲み、もはや日本酒が恋しくなっています。

「ソフトクリームありますか?」 

 すっかり身体も温まったので、日本酒の代わりに、隣の施設にある地鶏の卵をたっぷり使用したソフトクリームにしました。氷点下の中、片手に持った黄色のソフトクリームに白いスノウフレークがトッピングされていきます。

「じゃぁ、そろそろ移動しましょうか」

 しばらく休憩して、雪が反射する日差しと眠気が襲い始めた頃、タクシーのお迎えが到着しました。ここから東館小学校に向かいます。

「ぜひ、僕たちのとんぶり料理を食べに来てください」

 そんなお手紙をいただいたのは今年の5月頃。応援大使に任命されてからのこと。お手紙をくれた全員にとんぶりのCDを送り、10月にはきりたんぽ祭りで4年生と一緒に踊ることもできましたが、小学校を訪れることはありませんでした。そうしてこの度、念願叶って学校の調理実習「T-1グランプリ」に参加することになったのです。「T」はもちろん、とんぶりの「T」。生徒たちが考案したとんぶり料理をいただくことが、応援大使の役割です。

「じゃぁ、ここで大丈夫です」

 タクシーを降りて、真っ白な道を歩いていると、やわらかな雪がひらひらと落ちてきます。東館小学校の校門が見えてきました。門を通過し、校舎が目の前に現れると、信じられない光景が待っていました。

 

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