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2019年04月26日
第788回「とんぶりの旅 ⑤」
「大使!大使!」
耳を疑いました。目の前に広がるのは、果物や魚介類など、色とりどりの食材が並ぶ、活気のある市場。しかし、その賑わいの中に、間違いなく僕に向けられた言葉が混ざっていました。
「あ!とんぶり大使!」
まるで、ディズニーランドのミッキーのように、足を運ぶ先々で迎えてくれる笑顔は、東京から来た人間と言うより、「大使」という特別なニュアンスが加わっているようです。それにしても、昨日の大館のことがどうしてこんなにも知られているのでしょうか。
「ほら、ここに出ているわよ!」
そう言って、お店の人が広げてくれた新聞には、でかでかと昨日の模様が掲載されていました。そればかりでなく、昨晩のニュースや、今朝の情報番組などでも取り上げられていたそうで、一日にして一気に広まったようです。ここまで認識してもらえるとは思いませんでしたが、何より地元の方々が受けいれてくださっていることに感銘を受けました。
「いただきます!」
器を片手に、いろんな場所でネタを乗せてもらい、オリジナルの丼の完成。大きな筋子やエビにホタテにマグロ。新鮮な魚介類が宝石のように輝いています。わさび醤油をかけていただく最高の朝食。その後、地元の情報番組の生中継に緊急出演したり、それを観た人が駆けつけてくれたり。ここでもたくさんの人たちと触れ合うことができました。
「30分なら…」
ラジオ出演は午後なので、まだ余裕があります。ツイッターで教えてもらった温泉を調べてみると、ホテルから30分ほど。意外に近い距離に、早速車を走らせました。少し走れば自然の景色が広がり、朝日に照らされた田畑がキラキラしています。どこに目を向けても心が穏やかになる風景。車を停めては写真を撮るので、予定よりも時間かかってしまいました。
「うわぁ、最高!」
山間に佇む熱めのお湯に体を沈ませるひととき。やっぱり朝の温泉は最高です。ここ貝の沢温泉は艶々の湯と呼ばれるそう。すっかり体もポカポカになって休んでいると、ここでも「とんぶり」の話になりました。
「秋田にいらしているとは聞いていましたが、まさかこちらにいらっしゃるとは…」
玄関先で、スタッフの皆さんとナイスとんぶり。CDも喜んで受け取ってくれました。どこへ足を運んでも暖かく迎えてくれる秋田のみなさん。帰りには、地元で有名なフルーツサンド屋さんのフルックリーを訪れました。人気店だけだって、次から次へとお客さんが入ってきます。そして駅前を通ると商業施設「OPA」の文字を発見。確かこの中にタワーレコードが入っていたような。せっかくなので、伺うことにしました。
「それが、売り切れなんです!」
店員さんからこのような報告が聞けるとは。ちょっとずつとんぶりの輪が広がっていることを実感できました。そうこうしているうちに集合時間。マネージャーと合流して、ラジオ局に向かいます。
だいぶ道も把握してきました。東京の交通量に比べれば市内はスムーズで快適。長年続くラジオ番組と、夕方の報道番組の生放送を終えると、地元でも比較的有名な居酒屋さんで夕食。「春霞」をお供に、とんぶりやいぶりがっこ、じゅんさい、ハタハタなど、秋田の名産に舌鼓を打つ二日目の夜。
「雪?」
みぞれのような雨がタクシーを濡らしていました。マネージャーは東京に戻り、明日は一人で大館に向かいます。天気予報は雪マーク。果たして無事にたどり着けるのでしょうか。
PS : 来週はゴールデンウィークのため休載となります。次回は、5月12日(日)の配信。よろしくお願いします。
2019年04月19日
第787回「とんぶりの旅④」
「ここかな?」
ゆっくりと日が落ちて、視界が薄暗くなりかける頃、タクシーが一軒のお店の前に停まりました。ツイッターで教えてくれた数々の情報から、インスピレーションで決めたお店。
「昨日お電話した、ふかわですけど」
「はい、お待ちしていました!」
カウンターの中のご主人と、ラジオに見学まで来てくれた奥様と、若いスタッフが迎えてくれる18時。マネージャーと二人、カウンターに並びました。
「今日は、何軒か周りますか?」
この質問は要約すると、ここでたらふく召し上がりますか?ということでした。なんでも、前日の予約にもかかわらず、とんぶりメニューを考案してくれたようで、とんぶり三昧コースになっているとのこと。小鉢に入った前菜からスタートする、地のものをベースにした料理のほとんどにとんぶりが入っています。ビザやグラタンのような洋風のものまで。
「昨晩、いろいろ試してみたんですよ」
今日だけの特別メニュー。まさかここまでしてくれるとは。お店の方の心意気もさることながら、ここまでくると自分の選球眼も侮れません。梅酒から、秋田のお酒「春霞」に切り替わると、他のお客さんとも会話が弾んできます。
「せっかくですから、かぶっておきます?」
地元の方と触れ合うひととき。すっかり酔いも回ってきました。
「ごちそうさまでした!」
お腹も心もすっかり満たされて、お店を後にする21時。
「いいお店だった…」
翌日はラジオ番組と、報道番組の出演が予定されています。剣道の全国大会があるそうで、ホテルのロビーは高校生たちがいつもウロウロしていました。
「せっかくだから、これかぶってみようか」
全国からやってきた剣道少年たちと、ナイスとんぶり!それを見ていた他の宿泊客とも撮影が始まります。今日1日で何人の人がかぶったことでしょう。大館から秋田市へ、たくさんの人たちと言葉を交わした一日。部屋に戻ると、そのままぐっすり眠りにつきました。
「市場でも行ってみるか」
やはり朝は冷え込んでいます。せっかくなので、ローカルヒーローの超神ネイガーさんに教えていただいた秋田市民市場へ向かいました。ホテルから歩いて5分ほど。そこに足を踏み入れると、予想もしない光景が待っていました。
2019年04月04日
第785回「とんぶりの旅②」
もしかしたら初めて降りたつかもしれません。羽田から飛行機で一時間ほど。秋田県は、大館・能代空港にたどり着きました。
なまはげのオブジェ前で写真を撮ると、レンタカーに乗り換えます。東京は桜が満開を迎える頃。まだ雪が残る田畑を左右に望みながら30分ほど走ると、山の中に公民館のような建物が現れました。車が並んでいますが、農家さんたちが集まっているのでしょうか。雪が溶けてぬかるんだ地面に靴が埋まります。誘導されるままに階段を上がると、そこには驚きの光景が待っていました。
「それでは只今より、とんぶり応援大使、ふかわりょうさんの就任式を行います」
たくさんの人の拍手。そこには地元の子供達や、農家の方をはじめ、多くの人たちが集まってくれていました。予想だにしなかった光景に、涙腺は完全に崩壊。挨拶の言葉を出そうとすると、先に涙が溢れてしまいます。
「…もしご迷惑でなければ、応援させてください」
どこかで不安はありました。自分の想いだけで曲を作り、CDまで制作したものの、果たして地元の方々は喜んでくれるのだろうか。受け入れてくれるのだろうか。そんな不安や葛藤が、温かな拍手で粉砕され、抱えられないほどの喜びでいっぱいになりました。
「大館のとんぶりを、よろしくお願いします」
緑の木枠に入った、とんぶり応援大使の任命状。受け取ると、再び温かな拍手に包まれました。
「どなたか被りたい方、いらっしゃいますか?」
子供達の元気な声と、可愛らしい手がたくさんあがります。今回持参したのは3つのとんぶり。組合の方や親御さん、できるだけたくさんの人にかぶってもらいました。あのとんぶり頭をかぶると、付ける人も、見ている方も、皆笑顔になります。
「もしよかったら、一緒に歌ってください」
スクリーンにとんぶり兄妹が現れました。とんぶりの歌のPV。メロディーがが流れ始めると、あちこちから声が聞こえてきました。
「とんぶり食べましょう、とんぶり食べなくても、そんなに人生はあんまり変わらないけど」
会場中が一体となって唄っていました。子供達も、大人たちも、とんぶりの唄が、しっかりと伝わっている。もはや、リードしなくても大丈夫な状況でした。握手をしたり、集合写真を撮ったり、地元の方と言葉を交わすひととき。本当に来てよかった。地元の方々と一緒に唄えた時間は、一生の思い出となりました。
「本当にありがとうございました」
任命式を終え、子供とたちの見送る中、車は別の場所に向かいます。雪に覆われたとんぶり畑がカメラに収められました。