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2017年10月06日
第721回「ラングラーが届くまで」
だからと言って、到着までずっと胸を膨らませていたかというと、そうではありません。むしろ風船が萎むように、気持ちは収縮していきました。
「もう、ダメだ…」
相変わらず、沼と格闘する日々が続いていました。サイトを開いては、市場に上がっていないかチェックし、街で通りすがりのジープを目撃しては、指をくわえて眺めている。まさしく、恋のように苦しく切ない日々。自分の欲しいカラーと出会いたい。妥協したくない。そうこうしているうちに、年を越してしまいました。
以前もお伝えしましたが、僕が狙っているのは、jeepのラングラーという車種。最近は都内でもよく見かけます。色は、2014年に限定発売されたアンヴィル・グレー。その年にしか生産されていないので、流通量も少なく、さらに黒の革張りとなると日本では100台程度とのこと。もちろん「限定」や希少性に踊らされているのではなく、その絶妙な色と形の組み合わせによるクールな世界観にすっかり虜になってしまったのです。
「出た…」
パソコンの前で思わず声が漏れました。僕の目の前に、ラングラーのアンヴィル・グレーが映っています。実はこれまでも、ネットの中古車市場に出回ることはありましたが、内装が違っていたり、ボンネットに模様があったりと、いまいち踏み切れずに見逃していました。そんな中で、検索史上もっとも理想的な状態のものが現れたのです。
「このタイミングを逃したらもうないだろう」
いつかは現れるかもしれないけれど、きっとしばらくない。いや、中古車なので、これ以上状態の良いものに遭遇する確率はかなり低いはず。ここでスルーするわけにいかない。いよいよ、現実味を帯びてきました。
ただ、一つ問題がありました。取り扱い店が遠方なため、見に行くことができません。試乗もせずに購入なんてしていいものか。決して安い買い物ではないだけに、購入意欲にブレーキがかかります。
「とてもいい状態ですよ」
ディーラーはどんな車でもそう言うでしょう。しかし、この車を狙っているのは間違いなく僕だけではないはず。
「問い合わせがあるので、この週末に決まってしまうかもしれません」
と煽られては、
「府川さんのためにとっておきました」
と調子のいいことを言われ、完全にカモにされていました。お店の人も、「もうすぐ落ちるな」と感じているのでしょう。もう一つ、何か決め手となるものが欲しい。そうすれば背中を押してもらえるのに。このジープの沼に溺れてしまえるのに。
「よし、買おう!!」
冬の日の午後でした。きっと買うまでこの欲求は消えることはなく膨らむ一方。そうなるともう、日常生活にまで支障をきたしてしまうから。
「もう、腹くくりました、よろしくお願いします!」
電話越しにそう伝えると、向こうから、安堵混じりの喜びと感謝の言葉が返ってきました。現物を見ずに購入することや、複数台の所有に若干の抵抗もありましたが、最後は気持ちよくジープの沼に溺れていきました。
「もう1年以上も恋い焦がれているのだから、この感情は間違っていない。これは買っていいものなんだ」
そう自分に言い聞かせていました。それともう一つ、購入の決め手となることがありました。
2017年10月06日 13:47
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