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2020年08月28日
第843回「ハヤシライスが食べたくて」
タレントによってもタイプが分かれると思いますが、私は、空き時間があると家に帰ることが多いです。極力、空き時間が生じないようにマネージャーもスケジュールを組んでくれるのですが、どうにもならない場合、例えば次の仕事まで3時間。移動の時間を考えると家で30分くらいしかいられなくても、帰ったりします。合間にジムに行くなんて絶対無理。何をするわけじゃないのですが、家に戻りたい。だから、たまに帰らず喫茶店などで時間を潰したりすると、ものすごくアクティブな一日として識別されます。
「一旦、帰るか」
打ち合わせが早く済んだこともあり、余裕で帰宅できる時間帯。これなら2時間は休めます。通常であれば、迷いなく家に帰るのですが、すでに次の現場であるMXテレビの近く。わざわざ往復するよりは楽屋で待機が一番負担ないのですが、ちょっと早すぎる気がします。しかし、その日の私は大胆な行動に出ました。
「久しぶりに行くか」
帰宅を決めたものの、霞が関の首都高には乗らずにハンドルを切ります。銀座・新橋方面に向かった車は、日比谷公園の地下駐車場に入っていきました。
「今日は、ここのような気がする」
地上に出ると、蝉たちの大合唱に包まれます。工事していた箇所もなくなり、お昼休みが終わる頃の園内には夏の日差しが降り注いでいました。向かうはそう、松本楼。以前も紹介したと思いますが、無性に食べたくなったのです。
「ハヤシライス大盛りで」
コロナ・シフトではありながら、店内は結構賑わっています。気持ちよさそうだったので、外の木陰の席に座ると、5分としないうちに屋内退避。時折風はそよぐので、かき氷を食べるだけならちょうどよさそうですが、熱中症にでもなったら大変なので、涼しい席でハヤシライスをいただくことにしました。もう何回目でしょう。かつては、カレーかハヤシか迷っていましたが、今はもうハヤシライスまっしぐら。銀の器から大きなスプーンでルーをよそって、大盛りはちょっと多かったかと思っても、軽く平らげてしまいます。
私の目の前を飛び交う大きなかき氷は、宇治抹茶味。しかし今日はオレンジ・プリンにしてアイスコーヒーを堪能することにしました。ここからMXまでは車ですぐですし、時間に余裕があるので、店員さんに確認して、パソコンを開くことにしました。
文章を書くとき、家だと音を消すことが多いです。音に神経を持って行かれてしまうので。だから無音がいいかといえば、そうとは限らず、ファミレスなどの雑多な音が意外と邪魔にならず、逆に図書館のように静かすぎると落ち着かなくなるかもしれません。松本楼の程よい賑わいは、とても心地よく、集中力が削がれることもありません。ソーシャル・ディスタンスと美味しいアイスコーヒーのおかげで没頭できました。
「さて、そろそろ行くか」
ノートパソコンを閉じ、店を出ると、冷えた体を生ぬるい風が覆います。蝉たちの声が鳴り響く、日比谷公園。仕事と仕事の合間に立ち寄る、森のレストラン。すっかり頭の中も整理できた気がします。背の高いビルが空に伸びていました。
2020年08月25日
第842回「はじめてのアラフィフ」
今年も無事に誕生日を迎えることができました。例年であれば、音楽イベントで乾杯をしていましたが、今年は静かに迎える46歳。
四捨五入なら45、しかし、印象としては46歳からアラフィフ。ぼーっとしていたらすぐに50歳になるのでしょう。子供の頃は自分がこんな感じの中年になるとは思っておらず、もう少し渋さを兼ね備えていると思っていました。私は、外見に気を使いすぎている男というのはどうも抵抗があり、ましてや「ダンディー」という言葉は絶対言われたくありません。心配ないとは思いますが。かと言って、いわゆる昭和によく見かけた中年男性にはなりたくない。どうしたらいい感じのアラフィフになれるのでしょうか。もう、ふわふわのジェラート・ピケで身を纏うわけにいかないでしょう。娘にプレゼントされてよくわからず着るならまだしも、能動的なピケフィフは流石に痛いかもしれません。
アラフィフらしさといえば、お酒を嗜むようになったこと。もちろん、これまでも愛飲してきましたが、ようやく板についてきたというか、「嗜む」感が増してきた気がします。考えてみれば、初めて家で飲むお酒として買ったのはカシスだったと思います。20代。お店で飲んで美味しかったので自宅でも飲みたいと、買ってはみたものの、これが全然美味しくない。烏龍茶を混ぜるだけなのに。やはりカシスウーロンとペペロンチーノはお店でいただくものだと学びました。
数年前に出会った「獺祭」を皮切りに日本酒を飲むようになると、仕事の帰りにハンドルを握りながら、今日は何を飲もうかと想像する時間が生まれました。また、焼酎の入り口は「鍛高譚」と言う紫蘇焼酎でしたが、そこから裾野も広がり、最近よく飲むのは、「鳥飼」と言う焼酎。これは、三宿にあった熊本のお店のご主人から誕生日に頂いたもので、徐々に体に馴染んでいきました。「吟香」と書いてあるだけあって、氷を入れて飲むとフルーティーな香りが鼻を覆い、幸せな気分になれます。
鳥飼は、熊本の地名で、今年は甚大な被害に見舞われた場所。こうした美味しいお酒も、自然環境で長年培ったもので、簡単にできるものではありません。飲むことで微力ながら、復興へのエールになればと思っています。
時折足を運ぶ歯医者さんの院長はお酒が好きで、院長室には高級なウイスキーが並んでいます。もちろん、依存症ではありません。薄いグラスに氷を浮かべてウイスキーなどを飲み出したらアラフィフっぽさが出るかもしれません。
20歳の誕生日にこの芸能界の門を叩いてから、26年。景色も大きく変わってきましたが、そんな中で、お笑いライブに出ていた頃の顔ぶれも同様に年を重ね、時々テレビ局などで会うと、あの頃の面影が重なり、感慨深いものがあります。
そういえば先日、久しぶりにさまぁ〜ずさんの番組に呼ばれたのですが、最近の司会やコメンテーターとは違うスタンスのものだったので、懐かしさもあり、バラエティーの楽しさを実感しました。全員アラフィフ。20代のころは、面白いおじさんになりたいと思っていましたが、それは計算ではなく、滲み出る味への憧れだったのかもしれません。焼酎のように熟成され、私は、「鳥飼」のような、芳醇でフルーティーな男になれたらと思います。
日常の変化を余儀なくされ、今年は大きな節目の年となりました。クラブ・イベントも、DJブースに立てないことは非常に残念ですが、いつまで続けるかわからなかったので、自分で決めずに済んだことに、どこかホッとしている部分もあります。収束するまでみんなで乾杯はできませんが、家でゆっくり美味しいお酒を飲みたいと思います。いま、自分を取り巻く景色を堪能しながら。
2020年08月09日
第841回「海に行けなくても」
以前にもお伝えしていると思いますが、私のボサノバとの出会いは古く、小学生の時。家のピアノの上に乗っていた色褪せた楽譜の中にあった「イパネマの娘」になります。それまでにどこかで耳には入っていて、「イパネマの娘」という言葉自体も認識はしていました。「これがあの曲の楽譜か」と、頭の中にあるメロディーを参考にしながら鍵盤を押さえた時の感動。なんてオシャレな響き。クラシックにはないハーモニーとリズム。表現するならこのような気持ちだったでしょう。行ったことのないイパネマ海岸の波の音が聞こえてくるようでした。その後「WORLD MUSIC」にも関心を持ちましたが、やはり心惹かれたのは南米、ブラジルの音楽。中でも、清涼感あるボサノバに魅了され、大学の時に入った「ラテン・アメリカ研究会」の仲間とボサノバ・ユニットを組んだほど。一言ネタのピアニカはその時購入したものです。また、ブラジリアン・ジャズにも踏み込んだことが、「小心者克服講座」の曲に繋がっていきます。
いまだにブラジルこそ訪れていませんが、いつか行ってみたい場所の一つ。ジョアン・ジルベルトのライブや映画にも足を運びました。潮の香りがするボサノバの調べは、私の日常、いや人生に欠かせないもの。だから、銀座のデパート屋上や九品仏のカフェでボサノバをひたすらかけている時間は至福の時でした。
同じボサノバでも、私の場合は夏用と冬用があり、プレイリストも分けています。朝の目覚めにかける音楽は時期によって変わり、ある意味季節がDJをするのですが、夏になると必ず流れる曲があります。Duke Pearson の「Sandalia Dela」。この曲が「冷やし中華始めました」のように、夏を実感させてくれるのです。夏になったらというより、この曲が聴きたくなったら「夏の始まり」。今年は、梅雨が明ける前から流れ始めました。夏が恋しくなったのかもしれません。
この曲はブルー・ノートの良質なラテン・ジャスを集めたコンピレーションに入っていたもので、とにかく聴きまくりました。もう25年以上。だから、音の中にたくさんの「夏」がミルフィーユのように重なっています。イントロのピアノのアルペジオ。この曲を聴かなくなる日までが、私にとっての夏。そんなボサノバな日常と、あの曲が重なりました。
「どうにかなりそう-beachside mix-」
またまた仲間が増えました。「どうにかなりそう」のボサノバ・バージョン。ヴォーカルとして歌ってくれたのは、結成20周年、ジャズ、AORと、とにかく上質なサウンドを生み続けているバンド、「パリスマッチ」のミズノマリさん。これまで「恋がはじまる」「summer samba」「I’ll remember」、そしてフェスにも参加してくれました。今回4作目になるわけですが、ミズノさんの唯一無二の声色は本当に貴重で、クールでアンニュイで、透明感があって切なくて、とにかく大好きな音。ミズノマリさんの歌う「どうにかなりそう-beachside mix-」。今年の夏は、この曲で心地よい風と波の音を感じてください。海に行けなくても。
PS:「どうにかなりそうfeat.ミズノマリ-beachside mix-」の配信は8月26日(水)。また、次回の週刊ふかわは8月23日(日)の配信となります。