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2018年05月25日
第747回「きらきら星はどこで輝く 第11話 久しぶりの連弾」
「本番前に、一度合わせておきたいのですが」
うたたねクラシックまで1ヶ月を切る頃、ピアノのあるスタジオに集まりました。今回ご出演していただくピアニストの三舩優子さんは、以前、中村紘子さんと連弾するにあたり、ご指導していただいたことから、事あるごとにお世話になっています。三舩さんとの連弾は、たしかきらクラ!でも披露したことがあると思いますが、今回も演奏曲数が多いにも関わらず、一緒に演奏することを提案してくださいました。
「どれくらいのテンポでしたっけ?」
久しぶりの連弾。ゆったりしたテンポで始まるきらきら星のメロディー。徐々に鍵盤の上をたくさんの指が動き始めます。事前に自主練習はしていましたが、やはり連弾となると話が違います。それでも三舩さんがこちらに合わせてくれるので、比較的スムーズに響くきらきら星。運指の確認や、心構えなどを教わり、たどたどしさはありましたが、あとは本番までにブラッシュアップしておくということで、およそ1時間の個人レッスンが終わろうとしていました。
「もう一曲は大丈夫ですか?」
それは、トロイメライのことでした。
今回のうたたねクラシックは、僕の好きな曲を並べて、演奏家の皆さんに演奏してもらうという、なんとも贅沢なプログラム。ただ、ナビゲーターという立ち位置ではありますが、それだけではあまりに楽をしてしまうので、自分でも何か緊張感を課したい気持ちが芽生えました。
トロイメライは「夢」や「夢想」という意味。今回のうたたねクラシックにぴったりな曲。この曲を、アンコールの際に、それまで一切楽器に触れなかったナビゲーターが出てきて弾きはじめるイメージが浮かんだのです。
「多分、トロイメライは大丈夫だと思うのですが、そうですよね、持ってくればよかったです。」
連弾のレッスンというイメージが強かったので、トロイメライを聴いてもらう意識はありませんでした。なので、楽譜も持ってきていなかったのです。
「じゃぁ、ちょっと待ってね」
ピアノの譜面台におかれた液晶画面でトロイメライの楽譜が現れます。
「すみません、何から何まで…」
僕は、トロイメライを弾き始めました。この曲はフーマンの日曜日でも披露したことがありますが、中学生の頃から弾いているので、安心して弾ける曲。だから、この曲に関しては大丈夫だろうという自負さえあったのです。しかし、弾き終わると、三舩さんから意外な言葉が出てきました。
2018年05月11日
第746回「sweetest day of may」
「これは厳しいなぁ…」
仕事が終わると、スマートフォンの電池残量が赤く点灯していました。移動するだけだから構わないといえば構わないのですが、bluetoothで曲が聴けなくなってしまうのと、単純に落ち着かなくなります。
「充電させてもらうか」
させてもらえそうな場所はいくつか頭に浮かびましたが、ちょうどガソリンの残量も少なかったので、スタンドに寄ることにしました。土地勘のない場所。高速の入り口までにあるか不安でしたが、ちょうどその手前に看板が見えました。
「すみません」
車を停め、スタッフに声をかけると、何やら作業中で手が離せない様子。セルフタイプなので仕方ありません。本来、給油している数分だけ充電させてもらうつもりだったのですが、そのまま給油をはじめました。そしてスタッフがやってきたのは、満タンになる頃。
「あ、そうだったんですか、でしたら…」
車を邪魔にならない場所に移動させてとのこと。僕は、そこまでしてというプランではなかったので、申し訳ないので大丈夫だと伝えます。
「そうですか、っていうか、もしかして、ふかわさんですか?」
彼は、40代と思われる男性でした。
「あ、やっぱりそうですか!仕事ですか?ラジオ、聞いていたんですよ!」
どうやら、ロケットマンショーを聴いていたそうで、今でもSDカードに保存していたものを聴くことがあるのだそう。
「あのラジオ、すごく好きだったんです。今まで音楽に関心がなかったんですけど、好きな曲もたくさんできまして」
作業中の話し方とは完全に別人格。番組への想いが溢れてきました。
「そうですか、終わっちゃったんですよ。またできればいいんですけど、ああいう番組」
彼は、手に持っているスマホに目を向けました。
「っていうか、充電しなくて大丈夫ですか?」
「あぁ、いいです、いいです!どうしてもって訳ではないんで…」
この時、僕の頭の中に、あるフレーズが浮かんでいました。しかし、これを発してはいけないと、必死にブレーキをかけます。
「そうですか、すみません。もっと早く気づいていれば…」
だめだ。言っちゃダメだ…。
「いえ、いいんです…」
ダメだぞ、言っちゃダメだぞ!!
「心は充電されましたから」
箍が外れました。言わずにはいられませんでした。そうして車は、都心に向かう中央道を走って行きました。