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2020年02月28日

第825回「ありがとう、きらクラ!」

 

「この春、きらクラ!は終わります」

 前回の放送でお伝えした通り、NHK-FM「きらクラ!」はこの春で終了となります。早いもので、8年続けてきたことになりますが、心の和む、とても楽しい番組でした。

 タクシーの運転手さんや、意外な共演者の方から「きらクラ!聴いています!」という声を度々聞くようになりました。「ひるおび!」でも、本番中に政治や経済について難しい話をしている専門家の方も、終わったら「ラジオ聴いていますよ!」と笑顔で話してくることも。その度に、たくさんの方の日常を彩っている番組だと実感しました。

 きらクラ!で、たくさんの出会いがありました。音楽との出会い。音楽室に飾られていない音楽家たちと、彼らの楽曲。まだまだ知らないものもありますが、番組のおかげでこれまで知らなかった素敵な音に出会えました。

 きらクラ!で、たくさんのリスナーさんに出会えました。イラスト付きのハガキを送ってくれたり、毎年クリスマスになるとシュトレンを送ってくださったり。この場所に集まる言葉は、単に音楽への愛情だけではなく、家族の繋がりや、季節の移ろいを感じさせてくれる、様々な音色が集まって、ひとつのハーモニーを奏でていました。

 スタッフにも恵まれました。毎週毎週、まるで料亭の板前さんがいい食材で調理するように、数多ある曲の中から季節に見合った曲を選び、準備をしてくれました。きらクラ!でたくさんの詩にも出会いました。松本隆さんや小沢健二さんをはじめ、普段お会いできないゲストの方にも。

 そして何と言っても、遠藤真理さんです。この番組がなかったら出会わずにいたかもしれません。こんなに相性のいい方がこの世に存在したとは。しかも、あの笑い声。真理さんの笑い声がなければ、きらクラ!じゃないと言ってもいいくらい、番組を明るく華やかにしてくれる音です。真理さんが、私という楽器を奏で、私は、真理さんという楽器を奏で。産休中にたくさんの方と番組を進行したことも貴重な経験です。

「もう、2年前のことなんですね」

 番組終了のお知らせのあとの「ブラジル」は、私からのリクエストでした。公開収録で演奏したあの一曲に、「きらクラ!」の音が詰まっていたからです。

 「BGM選手権」から「たのもう!」まで、これほど楽しいクラシック番組に携われたこと、みんなで奏でるハーモニーを構成する一つの音になれたこと、本当に感謝しています。年々、いい意味で「きらクラ!らしさ」を保っていたので、このまま10年、20年と続けば、発酵して、さらに味わい深いものになるだろうと思っていました。毎週毎週全国からお便りが届き、これだけたくさんの人に愛されているのに、どうしてという気持ちもあります。でもやはり、たくさんの出会いをくれたことへの感謝の気持ちが一番大きいです。ありがとう、きらクラ!。あと数回ではありますが、最後の最後まで「きらクラ!」でいたいと思っていますので、どうぞお付き合いくださいね。

 

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2020年02月21日

第824回「ナントの旅〜後編〜」

 

 コーディネーターの方が言うには、移民などの受け入れも多く、派手な観光名所ではないものの、穏やかに暮らしたい人々が集う街とのこと。川が流れ、静かで落ち着きのある雰囲気。建物も可愛らしく、とても居心地のいい港町ナントは、ガレットなども有名なようです。それにしても暖かい。コートなしで外を散策できるほど。

「やはり、人気だ…」

 二千人の会場はこれまで以上に激しい熱気に包まれていました。ステージ上にはオーケストラ、合唱メンバーもスタンバイしています。そうです、今から行われる演目は交響曲第九番、いわゆる「第九」。最初から最後まで生で聴くのは人生初になります。

 日本では大晦日の風物詩としての印象が強いですが、フランスでは、歌詞が革命賛歌ということもあり、我が国よりも強い精神的な繋がりがあるのではないでしょうか。

「いよいよだ」

 緊張感が高まるなか、拍手の余韻を突き破るように始まった第一楽章。座った2階客席からはティンパニー奏者の活躍がよく見えます。ロシアのエカテリンブルク・オーケストラ。ベートーベンを象徴する一曲ですが、やはり生演奏のエネルギーは強く、ベートーベンが生きているかと錯覚するくらい「生命」を感じるのは、合唱が持つ力でしょうか。70分の圧巻の演奏は、まさしく、ベートーベンの命を繋いでいるようでした。

「あっという間だった…」

 鳴り止まない拍手と歓声。ホイッスルも飛び交うナントのラ・フォル・ジュルネ。フランスの地で歌われた革命賛歌にもはや座っていられません。場内が一体となって、カーテンコールを楽しんでいました。そして、余熱が冷めぬまま、次の公演へ。お目当ては、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」です。こちらも有名で、テレビなどでしょっちゅう耳にする曲ですが生演奏は初めて。アルゼンチンのピアニスト、ネルソン・オネゲルによる「皇帝」は、煌びやかで勇ましく、また2楽章はとても優しく。そして3楽章が終わると、体に異変が起きました。

「ブラボー!!」

 自分でも驚きました。飛び交うブラボーの中に、自分の体内からでた「ブラボー」がありました。意識的に出すというよりは、思わず出てしまったというような。昨晩からたくさんの音を浴びて、体内で熟したのでしょうか。人生初めて発した「ブラボー」になりました。

 続いて、スタッフのお薦めで向かった、アコーディオン奏者フェリシアン・ブリュによるプログラム「ヌフ」は、弦楽器にアコーディオンを織り交ぜたハーモニー。フランスの街並みとアコーディオンは相性がいいですが、中でも見事にアレンジされたピアノソナタ「テンペスト」は、会場にいながらも、パリの街角で遭遇したような世界観に浸れました。

 そして、ヨアキム・ホースリーというピアニスト率いるグループによる「ハバナのベートーベン」。タイトル通り、サルサやルンバなど、ラテンのノリ。パーカッションとピアノの音色が場内を踊っています。このリズムに体を揺らさずにはいられません。今にも皆、立ち上がって踊り出しそうな雰囲気。ピアノの弦を叩いたり、まるで打楽器として扱っているようでした。

「ご馳走様でした!!」

 こんなにも素敵な音を浴びた一日はあったでしょうか。ラ・フォル・ジュルネは、極上の音で溢れていました。ベートーベンのメロディーを世界中の演奏家たちが調理した、音のご馳走。素材を活かしたものもあれば創作料理のようなものも。どれを聴きに行こうか迷う喜び。前菜、メインディッシュ、デザートと、朝から晩までコース料理のように味わいました。また、ベートーベンという一つのテーマが、むしろ、表現の自由さや大胆さを強調していた気がします。とてもカラフルに彩られたベートーベン。5月のラ・フォル・ジュルネが一層楽しみになりました。

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2020年02月14日

第823回「ナントの旅〜中編〜」

 

 最初に向かったのは、1000人ほど収容できるホール。扉の前に溢れる人がゆっくりと吸い込まれていきます。見渡す限り外国人。やはりフランス人が多いのだと思いますが、始まる前も日本のそれと違って非常に賑やか。授業前の休み時間のようです。どこからともなく拍手が起こると、指揮者に続いてソロの演奏家たちが登場。それぞれの位置につくと、たちまち静寂と緊張感に包まれます。ベートーベンのトリプルコンチェルト。そして、静寂に穴を開けるように、ピアノの音が。柔らかく、舞うようなピアノの調べ。そこには、若き日本人ピアニストの姿がありました。藤田真央さんです。

 チャイコフスキー・コンクールで準優勝。今や世界で活躍する藤田さんですが、実は以前、お会いしたことがありました。というのも、「きらクラ!」ではなく、北斗晶さんの紹介で、「5時に夢中!」に生出演していたのです。当時はまだ中学生だったと思います。その藤田さんが、立派な世界に誇るピアニストとして、今、聴衆を魅了しています。

「最高でした!!」

 終演後、スタッフの方に案内され、藤田さんの楽屋へ。彼は当時のことをしっかり覚えていてくれていました。「きらクラ!」もよく聴いてくれているようです。

 その後、ケータリング会場で本日何食目かの食事をし、ホテルに戻るやベッドに倒れました。このホテルはキッチンなどもついた長期滞在型のホテルのようで、一人ではもったいないくらいの広さ。朝8時。日照時間が短いのか、外は薄暗く夜のようです。朝食を終え、会場に向かう頃には空も明るくなり、川沿いを歩く石畳の街。今日は一日ベートベン三昧。朝から晩までぎっしりと詰まっています。

 まずはアカペラコーラス・グループ「VOCES8」。こちらは、館内中央のステージで繰り広げられるフリーのプログラム。柔らかな歌声がゆっくりと場内を温めていきます。終盤には、聴衆と一緒に歌う展開があったのですが、お客さんに求めることのレベルの高いこと。手拍子だけではなく、振付のようなものや、4小節くらいのワンフレーズを歌ったり。一糸乱れぬレスポンス力の高さに圧倒されました。さすがフランス。さすがラ・フォル・ジュルネ。

 続いて向かったのは、二千人の大きな会場。ここでは、「ベートーベンVERSUS coldplay」というユニークな演目。ベートーベンの楽曲に、あの「coldplay」の歌をのせるという大胆な試み。発想もさることながら、生オケをバックに歌い上げるcoldplayの歌に、たくさんの歓声が溢れました。

 続いての会場では、ステージにグランドピアノが2台並んでいます。自由席だったので一番前の席で待っていると、4人の女性ピアニストが拍手を浴びながらステージに上がります。ここにも世界で活躍する日本人ピアニストがいらっしゃいました。ピアニストの広瀬悦子さん。二つに別れて奏でるベートーベンをモチーフとした連弾は、アレンジも素晴らしいですが、何より四人の呼吸。一瞬でもずれたら大変なことになるものを、見事な演奏をされていました。

 二つの公演を終えて戻って来ると、フリー・スペースから素敵な音色が聞こえてきます。駆け寄ってみると、やはりそうでした。スチール・ドラムの演奏。トリニダード・トバゴからやって来た楽団「RENEGADES STEEL ORCHESTRA」。あの名曲「just the two of us」の国。本物のスチール・ドラムは初めて見るかもしれません。トロピカルな「第九」に、つい踊り出したくなりました。世界中から演奏家がやってきて、いろんな音色やリズムで奏でられるベートーベンに興奮せずにはいられません。クラシックとはいえ、とても自由さを感じます。

「最前列で見てました!!」

 ケータリング会場で昼食を摂っていると、演奏を終えた広瀬さんがいらっしゃいました。このようにケータリング会場にはスタッフだけでなく、演奏家の方にもお会いできるので、不思議な感覚になります。エクレアにコーヒーを飲むと、次のプログラムまで少し時間があるので、会場の周りを散策することにしました。

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